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情緒不安定な受

 愛していると囁いた途端、穏やかだった彼の顔が歪んだ。
 僕の腕を振り払って、つりあがった眼差しで睨みつけてくる。
「──愛してる? 愛してる!? よくそんなことが言えたもんだ!!」
 全身で叫び、酸素不足に二度、三度と肩を震わせてから、彼はグルリと表情を反転させた。
 歪みきってひび割れた鏡の裏から、不意とひょっこりと違う顔が現れたような。発作的な哄笑。
「ア、ハハァ、ハア! 愛してる、愛してる!?」
 双眸を半月にひきつらせ、腹をゆすって彼が笑う。
 僕は静かに首を傾げた。
「どうして笑うの。なあ、どうして?」
「どうしてって、おまえ、こんなにおもしろいことが他にあるかよ!」
 アハハァ、ハハハ、哄笑は止まない。
 腕を再び伸ばしかけて、半端に止め、僕は指先を握りこむ。
 半ば狂ったような笑い声は、短い息継ぎのたびに途切れ、やがて震えるように乱れだす。
「──ァ、ハ、……ハハ、……」
 笑みに固定されたままの顔を両手で覆い、ガクガクと揺れる膝から崩れかけた身体を、今度こそ両腕でしっかり抱きしめた。
「ハ、……、……っしてる、バカ、離せ、離……」
「離さない」
 愛してる。囁くと、小さく暴れる彼の身体が震えて、止まった。
 きみが何を疑っているのかは分からない。きみの不安は、時にもどかしいほどに僕にはみえない。けれど。
「愛してる」
 こんなにも愛おしいひとを、僕は他には知らないから。
 腕中の震えはやがて止まり、かわりに嗚咽が零れだした。