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熱血教師とクール生徒

朝の清清しい空気は、一人の男の大声によって破られた。
「お前、また遅刻か!?」
怒鳴られた青年は、なんて事のないようにさらりと返事を返す。
「今日のはチャリがパンクしただけです。『また』なんて言わないでいただけますか?」
「佐野、お前はいつもそうだ・・・
 この前は車に撥ねられて足を引き摺ってきて・・・ その前は迷子を助けたら自分も迷子になって・・・
 確かに事故の証拠があるから嘘だとは言わない。 だがな、お前、一度お祓いしてもらったほうがいいんじゃないのか?」
「俺は霊的な力は信じませんよ」
そう言って生活指導の教師の発言を一蹴し、佐野は自分の教室の扉を開けた。
その途端、佐野の頭の上にチョークの粉がたっぷりと付いた黒板消しが落ちてくる。
「あーっ、佐野! それハゲチャビンに仕掛けたやつ! すまねぇ!」
慌てて、クラスメイトの一人が佐野の元に駆け寄ってくる。
ハゲチャビンというのは、一限目の授業で数学を教える教師の愛称(いや、『哀称』と呼ぶべきか)だ。
数学という生徒に嫌われがちな教科を教えているせいで、数学を教える教師の方にも嫌悪を抱かれ、攻撃が向けられる。
他にも、物理や世界史の教師が危ない。
そんな事はどうでもよく、佐野は席に着こうとした。
彼が椅子に腰掛けようとした瞬間、取っ組み合いらしきものをしていた男子が佐野の椅子にぶつかり、椅子をすっとばした。
宙に腰掛けた佐野は、がくんという感覚と共に後ろの席の机に頭を打った。

気がつくと、佐野は保健室のベッドに横たわっていた。
軽く頭を動かすと、ぶつけた箇所が鈍く痛む。
「気がついたか、佐野」
声のした方に顔を向けると、先程の生活指導の教師がいた。
「ほい」と、短い声と共に氷嚢が投げて渡される。

その後、生徒指導の教師は佐野がベッドに横たわっている間中ずっと彼に話し続けた。
佐野も、適当に「はいはい」という具合で相槌を打つ。
「それでこの前はな・・・ おい、佐野。 ちゃんと聞いていたか?」
「聞いていませんよ」
「お前なぁーっ!」
「静かにしていただけませんか。 頭に響きます」
「すまん・・・」

生徒指導の教師を冷たくあしらいながら、佐野は一種の優越感のようなものを感じていた。

普通なら、生徒指導の教師といえば、生徒が恐れおののき素直に言う事を聞く人物だった。
自分のように彼をあしらうことができる人物は、数少ないだろう。
そして、熱血な人物は、冷たくあしらわれるほどその人物に固執するものだ。
彼を自分に固執させている事が、佐野にとってはかなり嬉しい事だった。
もちろん、それを悟られないように気をつける必要があるのだが。


突然、放送での呼び出しの独特の音が響き、生徒指導の教師が呼び出しを受けてしまった。
「佐野、すまんな。 これから出張なのを忘れていた」
そう言って、生徒指導の教師は慌ただしく保健室を去ってしまった。

今まで数々の不運にさらされ、そのことを半ば慣れ諦めていた佐野だったが、今だけは久しぶりに自分の不運を恨んだ。