体育会系×体育会系

 校舎裏にある今は使われなくなった焼却炉の傍、俺はそこに隠れるようにしゃがみこんでいた。
 明日は高校生活の最後になる試合だった。大会決勝戦そして初の優勝。長年目指していたものが目の前にあった。小学校からあいつとずっとバスケをやり続け、やっときたチャンス。
 けれど俺はそこには出れない。
 ゆっくり腕をあげる。やはり肩から上にはいかず鈍い痛みが広がった。必死にやった練習に寝る暇も惜しんだトレーニング。親や先生に「無理をするな」と注意されても無視したツケが、ついにきた。
 止められるのを恐れて二カ月間肩の痛みを我慢し続けた。その結果がこれだ。情けなさすぎて涙も出ない。
 体育館なんて行けるわけがない。練習なんて見ていたら自分が何をするかわからなかった。
「遠矢」
 かけられた声に反射的に顔を上げる。上げなければ良かったと思うが遅かった。そこにはキャプテンでもあり、俺の幼なじみでもある康介が俺を見下ろして立っていた。こんなに近くにいたのに気づかないなんて、これが試合だったらどうするんだと自分を叱りたくなる。
「練習、こないのか」
「行ったって意味ないだろ。肩がこんなんじゃなにもできやしない」
 まっすぐに自分を見る目がイライラした。こんな事今までなかったのに。
「みんなお前のこと心配してるんだよ。せめて顔見せてやれ。そうだボールに触れてるだけでも良いんじゃないか。肩治っても体が忘れてちゃお前だって……」
 その瞬間、何かが切れた気がした。
「知ったふうなこと言うな!」
 伸ばしかけた手が止まる。心臓の音が大きくなる。
「わかるわけないよなあ。お前の肩は痛みなんかないんだ試合に出られるんだそうだろ? 俺が試合に出れなくてどんな気持ちかなんてわかるわけねェんだ!!」
 康介が黙って手を下ろした。違うこんなこと言いたいんじゃない。言ってから後悔するなんて馬鹿にもほどがあるじゃないか。
「……ごめんな」
 息の仕方を忘れたみたいに苦しい。
「な、にが」
「お前は無茶するやつだって昔から知ってたのに、気づけなかった。俺が気づいて止めれば良かったんだ。そしたらお前は試合に出られたんだ!」
 違う。お前に言われたって変わらなかったきっと無理矢理でようと意地になって同じ結果になった。お前のせいじゃない。
「ごめん遠矢……ごめん」
 泣きながら抱きついて、謝ってくる康介になにも言えなかった。
 違うんだ。俺はただお前との約束を守れなかった自分が憎いんだ。大好きなお前と子供の時に交わした、約束を。

「一緒に大会に出て優勝するんだ!」

 そんなありきたりで、大事な約束を。

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最終更新:2009年03月24日 23:31