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ふたりでひとつ

覚えていますか? 君は、あの夜を。

あの夜ぼくらは身を寄せ合って、人のいない公園のベンチでふたり、静かに夜を過ごした。
凍えそうに寒い晩だったから、少ない金で餡まんをひとつだけ買って、ふたりで分け合って食べた。
「ねえ、大丈夫かな」
思わず口をついて出た言葉に、あいつは「何が」と聞き返す。
大丈夫なことなんて、何もない。そんなことくらい、ふたりとも始めから分かりきっていた。
「うちの人、心配してるよね」
「そんなの今さらだよ」
「これからどこに行けばいいんだろ」
「……」
「俺たち、これからどうなるんだろう」
「……何とかなるよ。きっと」
「そうだよね。ね」
その夜から二日たって、僕たちは知らない町で警察に補導された。
僕達の駆け落ちはただの家出ということにされて、学校の友達からもさんざんからかわれた。

あれからもう何年も経って、僕たちは自然と普通の友達として笑いあうだけの仲になっていった。
あの冬の日のことも、飲み会の席で「そういやそんなこともしたっけなぁ」なんて酒のつまみに
語れるくらい、ただの懐かしい思い出になった。

そして先週ついにあいつの結婚が決まって、友達みんなで祝賀会を開いてやった。
相手は一つ年上の姉さん女房そうだ。
その帰り、僕はコンビニで餡まんをひとつ買った。

どんなに昔の話だと言い聞かせても、僕はいまだにあの夜のことを忘れられずにいる。
今となってはガキくさくて馬鹿馬鹿しい話だけれど、あのときは本当に本気で、必死だった。

ねえ。覚えていますか? 君は、あの夜を。