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かたつむり

成人して10年ぐらい過ぎた男が、カタツムリを採ってきた。
「かたつむりなら、ビンで飼えるから、今年から繁殖させるんだー」、と息巻いている。
バカだなー、とは思ったが、この男が「生き物を飼いたい」と毎日のように言い続け、
その度にうちのアパートがペット禁止であることを説明するのに疲れていた俺は、
静観する道を選んだ。カタツムリでペット飼いたい病が治るのなら、安いもんだ。
男は、大きなビンに土だの木だの落ち葉だのを入れて、さっきから眺め続けている。
「…なぁ、飽きないのか?」
「飽きないっすねー。この触覚が出たり入ったりするだけで、興奮するっす」
男は、鼻歌を歌いながら、手に持った霧吹きを、ビンの中へ噴射する。
「…なぁ、繁殖させるって、オスとメスの見分けはついてんの?」
「バカだなぁ。かたつむりには、オスやメスなんて無いんっすよ。雌雄同体っす」
「…へー…」
「かわいいんすよ、カタツムリの子供は。こんな耳糞みたいな大きさなのに、ちゃーんと
 殻もって生まれるんで。生命の神秘ってやつっすよ」
俺は、カタツムリに釘付けの男に、何となく面白くない気分になった。
「…なぁ、せめてこっち向いて話さね?」
「今俺の心の99%はカタツムリが占めてるんで、無理っす」
足をバタバタさせながら、さらに瓶の中身に釘付けの男に、俺はさらに面白くない気分に
なった。手を伸ばして、右足首をつかむと、さすがにギョッとしたのか、男が振り向く。
「ちょっ、何するんすか」
「すーすー煩い。ちゃんとした日本語喋らないから、ちょっと教育的指導を行う」
「殴るのは無しっすよ!」
「殴らない。エロいことするだけだ」
抵抗する左足も捕まえると、男は悲鳴をあげた。
何度もしている行為なのに、いまだ慣れない男に、俺は嗜虐的な気分になってくる。
そう。だいたい、俺の部屋で居候している分際で、別の生き物にくぎづけのコイツが悪いんだ。

床に組み敷くと、男は裏返った声で、叫んだ。
「あー! 先輩、そういや、かたつむりって、雌雄同体なのに、どうしてつがいで飼うか
 疑問じゃないっすか?!」
「全く興味無い」
俺が切り捨て、服を脱がそうとすると、骨ばった手が必死の抵抗をした。
「興味持ってくださいよ! あの、カタツムリは、つがいじゃないと卵産めないんですよ。
 ある意味同性でエッチしているようなもんなのに、どっちかが卵生むなんて、どうやって
 決めるんだろう、とか気になりません?」
「そのうるさい口を閉じろ」
「おねがいですから、これだけ話させてください」
うるさいので、俺は手を止めて、男の顔をのぞきこんだ。
「くだらなかったら、ちょっと手ひどいことをする」
「怖ぇー! いや、そんなのじゃなくて…。あの、カタツムリって、同性でエッチした後、
 両方とも妊娠するんですって。で、二人仲良く卵生むんですって。これって、ある意味
 完成された愛の図だと思いません? 二人仲良くエッチして…ね?」
「…それで?」
「だから、俺らも、二人仲良く…たまには俺、下じゃなくて上になりたいんすけど…」

その後、俺の部屋には、男の悲鳴が響いた。
ちなみに一週間経った今も、俺達はカタツムリのようなカップルにはなっていない。