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可愛かったあの子がオカマに!

小学生の時、同じクラスにサトという男子がいた。
背が低くて痩せていて、
「あの子は女子よりも女子らしい」
と、からかわれたり羨ましがられたりしていた奴だった。
卒業式の後、親の都合で他県の中学に通っていた三年間はサトの姿を見ていなかった。
だから、彼の身に起こった「事件」の噂を聞いても、どうにも信じられなかったのだ。
しかし、
「もー、遊びに来るなら先に言っといてよね! もうメイク落としちゃったんですけどぉ!」
「いや俺ケバいの嫌いだし――って、何が楽しくて男が男に会う時に化粧の心配してるんだよ」
スカートを履いた180センチ超の骨太野郎が女言葉で喋っているのを目の当たりにしてしまっている以上、
認めざるをえない。
『サトが驚異的な成長期の反動でオカマに目覚めた』
この荒唐無稽な現実を。

「けどさー、お前も毎日よくやるよなー。化粧とかムダ毛処理とかめんどくさくないの」
「折角校則ユルユルの学校入ったんだもん。気合入れてオシャレしなきゃ」
「いくら『自由な校風がわが校の伝統です』っていっても自由すぎるだろお前は。めちゃくちゃ有名人だぞ」
「それくらいのほうがいいわよ。キャラとして認知されちゃったっていうかー」
屈託なく笑うサト。化粧をしていなければ、幾分大人びたとはいえ昔とそう変わらない顔だ。
その時ふと、再会してからずっと聞きたかったことを聞いてみる気になった。
「なあ」
「なに?」
「や、なんでそんな、オカマって言うか、女みたいにしてるのかな、と……女になりたいから?」
割と思い切って尋ねたのだが、
「ううんー、別に性転換とかはしたくないのよ?」
サトの返事は思いの外あっさりしたものだった。
「ただね、女子の格好とか喋り方って可愛いじゃない。可愛いのが、好きなだけよ」
好きな物を真似たくなる。嗜好の対象はともかく、理屈が通っているといえば通っているのかもしれない。
一瞬納得しかけるが、
「……え、ちょっと待てよお前」
記憶の中の彼と、今の彼の間に、噛み合わないところを見つけた。
「お前いつから可愛いのが好きになったんだよ」
「え」
隣りに座るサトの肩が、ピクリと動いた。それに構わず言い募る。
「だってお前、小学校の頃『おれは可愛くなくなるんだ!』ってうるさかったじゃん。
『かっこいいとこ見せてやるぜー!』とか言って教室の窓から飛び降りて大事になったのだって覚えてるぞ俺は。
そうだ、修学旅行の出し物で女装するのだって本気で嫌がって――」
「あの頃は!」
突然サトが怒鳴った。思わず言葉を止めて彼の方を見ると、何かをこらえるように膝を抱えていた。
「あの頃は……ずっと、今のままだって、思ってたから」
先ほどとは打って変わって、しぼりだすような声だった。
お互い無言のまましばらく時間がたって、サトはぽつりぽつりと話し始めた。
「好きな奴がいたの。他の子達とおなじように『お前可愛いな』なんて言ってきてたけど、
なんでかな、そいつに言われた時だけは嬉しかったんだ。
だけど、中学入って、背ぇ伸びて、肉もついて、『可愛い』って言われることもなくなってきた。
最初は喜んだよ、けど急に怖くなった。――『可愛く』なくなってたら、あいつおれのことどうでもよくなるんじゃないかって。
それが、ホント、すげー嫌で、だから」
「だから可愛い女子みたいに振る舞いだしたのか」
気づいたら俺は俯いていたサトの両肩を掴んでいた。半泣きの奴と目が合う。
ああ、こいつ相変わらず馬鹿だ。呆れるほどに、いじらしい。
「あのなーサト」
「な、んだよ」
「お前が好きだった奴のことは知らん。けどな、俺に限って言えば、あの頃のお前の見た目で
可愛いとか可愛くないとか言ったつもりはなかったんだぞ?」
「へ……?」
「そういうアホな所とか、変な方向に一生懸命な所とか、今も昔も変わらない所が、お前の……」
今さら何かすごく恥ずかしいことを言っている気がしてきたが、もう後には退けない。
「――お前の可愛いところで、俺はお前のそういうところが好きなんだよバカヤロウ」
半ば逆切れ状態で言い切ると、サトはしばらくぽかんとしていた。が、次の瞬間
「そっかー……了解っ」
ポロポロ涙を零しながら、満面の笑みを浮かべたのだった。

「で、相変わらずオカマキャラは続行、と」
「結構好評だしねぇ。それに、可愛いのが好きになったのはホントなのよ?」
「あっそう……あ、けど」
「え、なになに?」
「化粧薄くなってるな。そっちのほうが、いいんじゃないの?」
「……っ!」
――可愛かったあの子は、オカマになっても可愛い。