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おつかれさま

沢山泣いた。
周りはちり紙の山で、そのちり紙の山の真ん中に俺、麓に山中がいた。
「…お前も帰れよ」
グズグズになった鼻をまた噛みながら横目に、何故か一人残って俺を見てる山中に告げる。
他の奴らは皆、レイコちゃんは元から俺には高根の花だったんだと言い、大失恋した俺を慰めに似た言葉で笑い、帰って行ったというのに。
いつも馬鹿にせず、何かしら気の利いた事を言ってくれる山中は始終黙ってて、始終、俺を見ている。
ちり紙の中身が空になり、それでも止まらない涙を手の甲で拭った。
「…俺だって一生懸命だったんだ」
レイコちゃんが好きだっていう店も洋服もリサーチして
気に入るように頑張って。
なのにベルサーチの男が急に現れて、そしたらレイコちゃんの男が、俺に『お疲れ様、用済みだよ』って言って。
「都合のいい男でもさあ…いいってくらいにはさぁ…好きだったんだよ」
最後ら辺は釣り合わないと笑うあいつらへの意地もあったけど。
「馬鹿なのは、自分が一番わかって…」
言っている内にまた悲しくなって
涙が大盤振る舞いで出て来て。
「すげー頑張って好きだったの、すげー一杯…」
そのまま身体を丸めて畳に頭を付いた。
いっぱい泣き過ぎて頭が痛い。
目も痛い。
そこかしこ痛くて、疲れて。
「…おつかれさま」
軽く温もりが肩を叩いた。
軽く顔を上げると、そこにはトイレットペーパーが一つ置かれていた。
ベルサーチに言われたのとは全然違う響きの言葉。
「お疲れ様…って?」固い紙質のそれをクシャクシャに取りながら問う。
「…すごい好きで精一杯やったんだろ?だから」
…おつかれさま。
山中に言われたら、何となく、また涙がでてきたけど
今度のそれは、なんかちょっと違う涙で。
上半身を起こしてトイレットペーパーでチンと鼻を噛んだら、ヒリヒリと皮膚が痛む。
「…俺の意見、いい?」
いつもの口調で理論めいた事を言ってくれるのかと期待して
涙で潤んだ視線の先の山中を見つめると
「清水は多分、俺がいいと思う」
とんでもないことを言い出した。
「清水くらい情が深くって、清水くらい素直で、清水くらい鈍感で可愛い奴は俺がいいんだって」
ゆっくり山中の唇が俺の鼻に落ちた。
「あ、あの山中?」
「俺にもおつかれさまの一つくらい言って欲しいよ、清水。ずっと待ってたんだから」
『これからも待ってんだから』
呟いてから山中は一つ笑って、俺の髪をグシャグシャと撫でた。
「…泣き止んだし、もう寝ちまえば?今日くらいは襲わずに、失恋の痛みに浸らしてあげるから」


意識にある最後に思ったのは
山中が麓からちり紙の山ん中に入ってきたから、こりゃピッタリだ。
って馬鹿みたいなこと。
レイコちゃんじゃなく、ベルサーチでもなく、俺に膝枕してくれた山中のことだったんだ。