マイナーの哀しみ
「やっぱりマイナーなんですよ。」
そう言ってマスターはレコードに針を落とした。薄暗い店内にコーヒーの香りと
少ししゃがれたボーカルの声が満ちる。
「CDよりもレコードの方が断然音がいいのに。」
「私もそう思いますよ、だからこんな店やってるんですけど。」
そういって愛しそうにスピーカーを見る横顔がいい。
「もう少し若い方にも来ていただけるといいんですが。」
「それでここが騒がしくなるのも嫌ですよ俺は。」
「うーん、確かにそういうのはありますが…でもやっぱり
この音を好きになってくれる人は増えて欲しいですね。」
自分は音を聞きに来ているのかそれとも彼に会いに来ているのか、
最近はどちらなのかよくわからない。どちらにせよ居心地のいい空間が
壊れることのないよう、ここは少しマイナーであって欲しいと思った。
最終更新:2010年10月21日 23:38