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ツンデレになりたい

「おまえ彼女と上手くいってんの」
「あ、あの可愛い受付の子ね」
「いや別れたよ。先週振られた」
「おまえが振られるって珍しいな!」
「なんて言われたの?」
「『私、あなたが私を愛してくれる程あなたを愛しているのかわからなくなっちゃって』だって」
「あいつ言いそうだな。それもブリッコしながら」
「大好きだったんだねぇ」
「いやベタベタすんのが好きな女だと思ってたんだよ。そしたら意外と冷静なタイプだった」
「ていうかやっぱギャップが必要なんじゃね? おまえら優しいからさぁ、女には優しいだけじゃだめなんだよ」
「ええ、それって僕も入ってるの?」
「そりゃこの三人の中で一番優しいのはおまえだもん」
「どうせ今付き合ってる奴にもベタボレしてんだろ?」
「うんまあそうなんだけど」
「気をつけろよ、時代は紳士よりツンデレを求めてるからな」

僕は悩んでいた。
男は優しいだけじゃだめで、今は紳士なんか求められていないって言いきかされても、
僕は本当に本当に彼が大好きで、できることならちっちゃな瓶に入れて持ち歩きたいとか、
もういっそ女の子になって彼の奥さんになってもいいとか、
でもその場合は僕の腕の中で声を押し殺して小さく震える姿を見れなくなってしまうから
やっぱりそれはちょっと止めとこうかなぁとか、とにかくそれくらい彼を愛しく思っているんだ。
でも普段、彼からのリターンはあまりない。ほとんどない。
キスすれば応えてくれるし、抱けばすがってくれるけど、
それ以外の部分では鬱陶しがられることの方が多い。
僕の大きすぎる愛が原因で彼に愛想をつかされたら、それは本意じゃない。
そこで僕は思った。ツンデレになりたいと。
彼に愛されるためにデレデレは卒業だ。
そうだ、ツンデレになろう。

「ただいま」
(おかえり、今日遅かったね。ずっと待ってたよ。疲れた? 大丈夫?)
「どうした、帰ったぞ」
(ごはん作っておいたよ、君の好きな豚のしょうが焼きだ)
「喉でも痛いのか」
(痛くないよ、僕身体だけは丈夫だから風邪ひかないんだ。
それより君の方が心配だ、今週働き詰めだしちょっと痩せたんじゃないか)
「何か怒ってるのか? 言わないと俺はわからないぞ」
(怒ってなんかない、今すぐおかえりのキスをしたいけど君は嫌がるじゃないか)
「……遅くなったのは悪かった。携帯の充電が切れて連絡できなかったんだ」
(あれ、自分から言ってくれた! 謝罪と理由がセットなんて滅多にあることじゃないのに)
「代わりにこれを買ってきた」
(僕がずっと探してたバルセロナ特集号のサッカー雑誌!)
「うわーん、ありがとう! ありがとう!! びっくりさせてごめんねえ、大好きだよぉ!」
僕はもうたまらなくて、彼に飛びついて頬ずりをして、そのまま何度も何度もキスの雨を降らせた。
彼はなんとも言えない表情をしてたけど、僕の背中に手を回してシャツをきゅっとつかむ仕草は素直で、
とてつもなく可愛らしかった。
こうして僕はツンデレを一瞬で卒業した。
だって、不安になったり傷ついたりしてる彼を見ているのに耐えられなかったから。
そして無愛想な彼が、案外僕のことを気にかけてくれていることに気付いたから。