※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ぴしゃりと叱りつけた

 広く暗い和室の中、二人の人間の周りだけは不自然に明るい。
 その内の一人は、紅葉の川と金糸の鳥を施した赤い仕掛けを纏った、だが仕掛けの趣きとは相容れない精悍な顔つきの骨ばった美青年。
彼の名は――つまりは源氏名だ――仕掛けの通りに紅葉と言う。
紅葉は、もう一方の、青年と同じ位に逞しいはだけた洋服を纏った眼鏡の男を床に倒していた。
手つきは酷く危うく、そのまま胸に手をやる手つきも震えていた。
その手が胸の飾りに着いた時、紅葉の動作が停止する。
紅葉の艶のあるざんばら髪が揺れる。眼鏡の男、藤吉は紅葉の優柔不断な手を掴み上げて、もう片手で叩いた。
「うっ…」
「また最初からだね。まったく君は……何回やったらまともに出来るんだい。いい加減にしてくれないかな」
藤吉は起き上がり衣を正すと、ぴしゃりと叱りつけた。
「君だって、今まで散々客にされてきたことだろう。なぜ同じことをやるだけなのにこんな」
「――申し訳ございませぬ」
紅葉は深々と土下座で謝る。
藤吉はそれを見て怒るのも面倒になった。
……これだから武家の出は嫌なんだ。確か最初に紅葉と寝た時も同じ感想を持った。
紅葉は、男のみを扱う遊郭の色子である。歳は万十九。水揚げされたのは十四の歳。
当時はたいそうな紅顔の美少年だったと藤吉は振り返る。その時の『手解き』も藤吉がした。
だが今は見ての通り、たおやかなんて言葉は似合わない。こんな場所でそこまで鍛えあげる意味は無いのに、いかにも武士らしく屈強な美青年へと成長してしまった。
これはこれである客層から受けがいいのでまあいいのだが、先日、彼の姿形に惹かれた客がこう溢したのだ。
『彼に抱かれてみたい』
と。

確かに抱かれるより抱くほうが妥当だろうなと店主も思ったらしい。幸い、この遊郭では女役に限らず、珍しいことに"そっち"の部門にも手を入れている。紅葉はそちら専門にしようかという話が持ち上がる。
だが生憎紅葉は男も、女すら抱いたことが無い。
そこでまた指南役の藤吉にお鉢が回ってきたという訳だ。今度は藤吉が女役で。
しかしこの紅葉と来たら、少しも手を動かせない。男としての才能がからっきしなんではと疑うほどに駄目。
遊郭に売られなかったらどう暮らすつもりだったのか。
「もしかしたら、相手が僕だから駄目なのかねえ」
とカマをかけてみる。
しかし元から紅葉は表情の変化に乏しい。首をふるふる振るばかり。
「なかなか出来ないなら、同じ部屋の子呼んでこようか?気心も知れているだろう」
更に首を振る。
はてさて、どうしたものか。
と悩んでいると、紅葉はおもむろに服を脱ぎ出した。
(……おや?)
もしかしたらやっとヤる気になったのか。
仕掛けを下半身にだけ残し、そのまま腕を藤吉の首に絡めて、押し倒す。口づけをしながら手を胸の尖りに持って行き、撫で擦ったり爪を立てたらするものだから、思わず腰が跳ねた。
(そう。それでいいんだよ)
藤吉自身を紅葉の膝でぐりぐりと圧迫される。
「あ、く、……ん。いいよ」
歴戦の藤吉から喘ぎが漏れるほどに充分な固さとなった。
紅葉は藤吉を促すと、ズボンを脱がせ、褌を履かせたまま男根を外に出す。
「ん?」
何故脱がせない――と思っていると、藤吉に膝立ちで股がる紅葉が見えた。
仕掛けをずらすと、仕掛けの下は何も履いていなかったのか、丸見えだ。
 いやそうじゃなくて待てこの体勢は正しいように見えて正しくなくて……――!?
紅葉は位置を確認すると、花魁らしい笑みで藤吉に笑むと、藤吉の男根に腰を落とした。

「んん!」
紅葉が啼いた。
彼は慣らしなどしていなかった筈なのに、藤吉は紅葉にすんなりと飲み込まれた。
「ちょ、何してんの!」
「はあ……やっぱり……すっごくいい……」
「腰を動かすんじゃありません、くっ」
やばい気持ち良い。
気力を振り絞って正気を保つ。
「……私、藤吉様が初めての人だったのですけれど……」
紅葉がふいに腰の動きを止めた。挿れてるだけで気持ちいいが、まだ動かないだけマシだ。
「あの時も、すごく良かったです」
「そりゃあどうも」
「私はあれから色々お客を貰って来たけれど、貴方を超える方に会ったことがございません」
「ああそう、ちょ、動かない!動かないの!」
「あん……だからもう一回貴方と、寝るには、と一生懸命考えました、」
「はあ?」
「……藤吉様はうちのお客には成らないと聞いて、これしかないと」
「これ?――まさかお前、僕の指導受けたいからってわざわざ男役になるよう鍛えたとか……」
「鍛えた甲斐がありました」
「うおぉ!?」
鍛えられた両腕で身体を起こされ、今度は藤吉が紅葉を押し倒す格好となった。
「もう心残りは御座いません。ここに男を受け入れる最後の機会と覚悟します」
儚く笑う紅葉は、散ってからこそ美しい紅葉そのもののように見えた。
「だからどうぞ最後に、陰間としての最後に、貴方様を味あわせて下さりませ」
腰を揺すっても、先ほどの体位より紅葉の好きにはならないだろう。藤吉が身体を離せば、直ぐに行為を中断できる。
だが、藤吉は抗えなかった。
ズン! と腰を抉る。
「ハァッ」
また紅葉が啼く。
「あ、あ、あ、良いです……!もっと、奥に……!」
「まったく……どいしようも無い子だね」
散々忘れられぬと煽っておいて、これが最後と言い切られちゃあ。
「あはぁ、ヒッ!」
「ねえ、君が僕を好きなのって身体だけ?」
「――い、いえ、ぜんぶ、全部……お慕いしております、あぁ」
「そう」
藤吉は自分を叱りつけた。
色子の甘言にほだされて、うっかり身請けの算段をはじめていることに。
「藤吉さま……っ、もうっ」
「これ終わったら、男の方の練習するからね~」
「……は、はい」
絶頂を前に言葉一つで切ない顔をする紅葉に胸が熱くなる。
やはり、何がなんでも男役にしてやらねば。
(――この子を抱くのは僕だけでいい)
「アッ……!」
「くっ」
二人は同時に絶頂に達した。