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放蕩貴族の友人同士

「でさぁ、その時の女ときたらもう……」
「お前ほんっとそればっかだな」
毎日のように訊ねてくる悪友に、俺はそっとため息をついた。
こいつの話題と来たら、親兄弟の悪口と娼婦の抱き心地のどちらかしかない。
「しょーがないだろー、こんなこと話せるのお前しかいないんだからさー」
「まあ、お前の家は厳格だからな……」
その点、こんな阿呆でも受け入れるここなどは居心地がいいのだろう。
俺だって継ぎたくはなかったが、一人っ子で両親が病死してしまえば
何をどう言おうが周囲に無理矢理当主にさせられてしまう。
ああ、俺は貴族なんかじゃなくて傭兵とか旅芸人に生まれたかった。
「……じゃなきゃせめて末っ子か庶子」
「何ブツブツ言ってるんだ?」
あいつは勝手に戸棚を開けて酒を取り出し、こぼれるのも構わずにグラスに注いだ。
グラスも、勝手に持ち出したものだ。よく置き場所覚えてるよな。
「おら飲め、辛気臭いぞお前」
「勝手に俺の酒を飲むな」
腹が立ったので、酒ビンを奪ってその場で一気飲みしてやった。
「あ、俺の酒!」
「返すか?」
「ここで吐いたら殴るからな」
流石、俺のやることを分かっている。

……あ。
「まずい、冗談じゃなく吐きそうだ」
「おい、笑えない冗談はよせって」
「いやほん……おえっ」
もどした瞬間、奴はけたたましい悲鳴を上げて逃げ出した。薄情者め。
「うっわ、こりゃ昨日の徹夜がたたったか」
「何、夜遊び? 夜這い?」
「お前と一緒にするな。お見合いが嫌で先方が諦めて帰るまでひたすら屋敷中を逃げ回ってただけだ」
使用人も総出で俺を探すものだから、寝る間もなく移動し隠れてまた移動、だった。
もう二度とやらん。次は本気で屋敷から出てく。
「えーやるだけやってサヨナラすればいいじゃないか」
「それができない相手だから逃げてたんだよ」
あー、マズイ。本気で動けなくなってきた。
「しょーがないなーもう。野郎なんざ抱きたくもないってのに」
あいつがため息をついて、荷物でも抱えるかのように俺を肩に担ぎ上げた。
「だったら足繁く野郎の家に通うな。同性愛者かお前は」
「お前知らないのか? 裏の店だと可愛い男の子が並んでたりするんだぞ。俺はやったことないけど」
「そういうこと言ってるんじゃ……」
「はいはい徹夜でバタンキューしてる人は黙りましょうねー。酒飲ますぞ」
「あーそれいいかも」
「死ぬぞマジで。いいから水飲んで寝てろ」

1人で寝るには大きすぎる寝台の端に下ろされ、半ば無理矢理水を飲まされて一息ついていると、
不意に奴が寝台の空いている端にもぐりこみだしたので反射的に蹴り出した。
「何するんだよ、痛ってーな」
「やかましい! 俺は野郎と同衾する趣味はねぇ!」
「何考えてんだお前は……ただちょっと眠いだけじゃねえか」
蹴り出したのに、あの馬鹿はまたもぐりこもうとする。
「客間を使え!」
「やだ! お前んところの使用人はあれこれうるさい!」
「ありゃ普通だ!」
ぎゃあぎゃあと喧嘩を続けていると、不意にあいつが掛け布団を奪って俺にかぶせてきた。
「――!」
「いいから寝ろ!」
布団越しにあいつの重みと体温を感じる。
……そういえば、あいつが泥酔したときは、いつもこんな風に俺がおぶっていってたっけか。
そう考えると、なんだかどうでも良くなってきた。
「……わかったよ」
目を閉じて体の力を抜くと、疲れと眠気はすぐにやって来た。