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甘やかしてくれる人

「あああ…!また喧嘩してきたのかい」
「…………俺はケガしてねえっすよ」
「そんなこと言って、手が酷いことになってるじゃないか!ジャケットもこんなに血まみれで…」
「安堂サン、サツに追われてんだ。中、入れてくんないっすか」
「……治療は受けてくれるんだよね?」
「……どうぞ」
許可するとこの人は、どう見ても年相応に肥えた丸顔のメガネのおっさんの癖に、教会で見たマリア様のような顔を浮かべた。
この人は俺が何をしても、俺の身を案じるだけでそれを咎めることが無い。
教会の神父やシスターどもとはえらい違いだ。
「大助ももう二十歳になるんだから、あまり無茶なことはしないでおくれ」
「夜は昂ってしょうがねえんだよ」
「……教会の人達と、折り合い悪いのかい?」
「そりゃもう餓鬼でもねーのにいつまでも居座ってっからな。タダ飯食えるから居るけど、夜中は居られねえよ」
「ならさ、やっぱり……私が君を……」
安堂サンは俺の血の繋がらない叔父にあたる。
「……安堂サン、俺ァヒロ叔父の代わりはごめんだって何度も言ったよな」
「……!そう、だよね」
何回同じ問答を繰り返しただろう。
親父とヒロ叔父が死んでから、引き取る引き取らないの話はいつまでも続いた。
「いや、別に代わりとかじゃ無いんだ」
親父とヒロ叔父は双子だった。
つまり俺とこの人の旦那は似ているから、この人は俺を見過ごせない。
年を経るごとに、似てくるごとに、何をやっても甘やかす。
「話は変わるけど、そんなだからいい加減教会から放れてえンだよ。でも俺金もねーから」
「ああ、なら私が用意してあげるよ」
「……ここは嫌だぜ」
「分かっているよ。一月十万有れば足りるかな?いい部屋探して、決まったらまた連絡しなさい。もう警察もまいただろう」
親切に着せての束縛が滑稽だ。
「これ、心ばかりだけど」
「……いらねっすよ」
「気にしなくていいんだよ。私だって仮にも医者だからこのくらい」
そう言って握らされた三万、いつまで俺のマリア様は見返りを求める慈愛を降り注ぐんだろうか。

俺は家を出ながら、聴こえるように「いい加減枯れろ」と呟いた。