俺の方が好きだよ!
「あ、猫!」
俺の隣を歩いていたツレが、突然足を止めて声を上げた。
振り返ると、道の隅に丸くなってまどろむキジトラの猫。
ツレは猫から1m程離れたところにしゃがみこむと、猫に向かって手を伸ばし、ちちち、と舌を鳴らした。
それに気付いた猫が目を開け、億劫そうにツレを見上げる。
「エサもねぇのに、野良猫が寄ってくるわけ……」
言いかけた俺の言葉が、途中で切れた。
のっそりと起き上がった猫がツレに歩み寄り、ふんふんと手の匂いを嗅いだ後、その掌に顔を擦り寄せる。
「うわー、かわいい。人に慣れてるんだね」
満面の笑みを浮かべるツレと、その手に撫でられて満足そうに目を閉じている猫を見て、ただ呆然。
いやいやいや、ねぇから。
学校の行き帰りに何度も見かけたその猫を、俺が何回撫でようとしてシカトこかれたと思ってんだよ。
最後の手段と煮干を用意した時ですら、煮干だけ食って一度も触らせてくんなかったっつーの!!
畜生、俺が嫌われてただけかよ。
「……お前、猫に好かれるんだな」
「うん。動物には懐かれるんだよね。人間には全然好かれないのに」
さりげなく言われた台詞に、なんかムカついた。
なんだそれ、どういう意味だよ。
「僕も、動物に生まれればよかったかもね。……ん? お前も僕のこと好き? 僕もお前のこと、好きだよ」
「ざけんなよ! そんな猫より、俺の方がお前のこと好きだよ!!」
「え?」
「……え?」
自分で言った台詞に、自分で驚いた。
ツレも、驚いた顔で俺を見上げてる。
え? 俺今、なんかとんでもねぇこと言わなかったか?
互いに顔を見合わせて、数秒。
ツレが猫へと視線を戻す。
「……ふぅん」
そしてまた、止まっていた手を動かして猫を撫で始める。
撫でられた猫は、ゴロゴロと喉を鳴らした。
おい、それだけかよ。
無意識とは言え、一世一代の告白だぞ。
つーか、言うつもりなんてなかったのに。
猫に焼餅焼いて告白なんて、すっげぇかっこわりぃ。
そのまま何も言わないツレに腹が立ってきて、このまま置いて帰ろうかと思ってふと見ると、髪から覗く耳が赤くなっているのに気付いた。
「……そうなんだ。……ありがと」
小さく呟かれた言葉に、そっとツレの顔を覗き込む。
慌てたように逆の方を向いたけど、しっかり見えた。
赤い顔で、嬉しそうに笑うお前の顔。
なんだよ、もしかしてお前も俺のこと好きなのかよ。
段々と、俺の顔も赤くなっていくのが自分でわかった。
あー、なんかすっげぇ情けねぇ。
こんな道端で、勢いで告白なんかしちまって。
でもまぁ、なんか上手くいきそうだし、結果オーライってヤツ?
なぁ、お前もいつまでも猫なんか構ってないで、俺の方を向いてくれよ。
最終更新:2010年08月23日 10:44