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クマのぬいぐるみだと思ってたらサルだった

「いや、お前はクマじゃなくてサルだよ」
「…へ?」
突然言われた衝撃的な一言に、俺の思考回路が一瞬止まる。
「だから、お前はクマじゃなくてサルのぬいぐるみ」
…えーと…俺が、クマじゃなくて、サル?
「いやいや!お前何言ってんの!俺はクマだろ!?」
「…お前、自分の姿見たことないのか」
目の前のクマのぬいぐるみがため息をつきながらそう言う。
「…え…だって工場からUFOキャッチャーまで段ボール箱の中だったし……マジで?」
「…手見てみろ。同じ茶色だけど俺のとちょっと違うだろ」
そう言われて自分の手をまじまじと見てみる。
茶色だ。薄茶色で…指がついている。
「ほら、俺のは指までついてない。もっと丸いんだ」
隣のこいつの手と比べれば、その違いは一目瞭然だった。
「…知らなかった…」
俺はてっきり、クマだとばかり。
可愛くて一番人気なクマのぬいぐるみだとばかり思ってたんだ。
「…お前サル嫌なの?」
ショックすぎて暗い表情になった俺に、隣の奴が話しかけてくる。
「…そりゃ嫌だろ。一番人気ないって工場でも言われてたもん…」
まさか自分がその不人気なサルだなんて思ってもみなかった。
この気持ち、人気のあるこいつには分からないんだろう。
「ふうん。でもお前、自分の顔見たことないんだろ」
「ないけど…でも人気ないんだから相当なブサイクなんだろ」
「別にそんなことないと思うけど」
「…そりゃ慰めをどうも」
なんだよ、人気者は話しかけてくんな。みじめじゃないか。
―嫌いだ。こいつなんてとっとと取られてどっかに行っちまえ。

そんな俺の思いとは裏腹に、数日経っても隣のクマはなかなかキャッチされなかった。
狙われたことは何度かあったが、どいつも下手っぴで腕をかすめていくだけ。
他のクマのぬいぐるみはどんどん取られていってるのに。
多分人間から見て取りづらい位置にいるのだろう。
対して俺はというと、当たり前のように狙われることすらなかった。
「あれ、端っこの方にサルもいるじゃん」
「えー!やだ、クマがいい!」
こんな会話が外側の世界で繰り広げられるのを何回か聞いて
その度に、やっぱりサルなんて人気ないんだなと改めて落ち込んだ。
…あ、また隣の奴の足にアームが引っ掛かる。
今度こそお別れかな…そう思ったけど、やっぱりアームはするりと抜けた。
「お前、人気あるくせに運悪いね」
ぼそりとそう言うと、奴は少し笑って「むしろいいだろ」と呟いた。
むかつく奴だと思ったけど、一番人気なだけあって笑った顔は魅力的で
もう少しこいつに隣にいてほしいなんて思ったのは絶対に内緒だ。

次の日、いつものように「クマあそこだ」という声が聞こえた。
「ほらあれ!クマだよ、かわいいだろ?」
「いや別に…ていうか隣のとなんか違うの?」
「ええ?隣はサルだよ!全然違うじゃん!」
「ああそう…。もうなんでもいいから早く取って帰ろうぜ」
いつものようにラブラブなカップルでも来るのかと思ったら野郎二人組かよ…。
まあどうせ可愛い女の子が来たところで俺には目もくれないわけだけど。
ていうか…クマをかわいいと言ったあいつ、何回か見たことがある。
よくUFOキャッチャーをやりに来ていて、結構上手かったはずだ。
この前も大きいヒヨコのぬいぐるみをゲットして喜んでたんじゃなかったっけ。
隣をちらりと見ると、クマのぬいぐるみと目が合った。
「…お前、今度こそ取られるかもな」
人気者がいなくなったらせいせいする。
「そうかもな」
だって、こんな奴がすぐ隣にいたら自分がみじめだ。
「…もう会えなくなるな」
だから早くいなくなれ。
「…そうかもな」
アームがこちらに向かって近づいてくる。
このアームが次に開いた時は、こいつはずっと遠いところに行ってしまう。
「…行かないで」
「…え?」
―いなくなれなんて、本当は思ってない。
「お前が行っちゃったら、クマいなくなっちゃうだろ!
 クマがいなかったら誰もやろうとしなくなるから!」
一気にまくしたてると、アームがクマに向かって降りてくる。
「だったら一緒に行けばいいだろ」
次の瞬間、引きずられるように俺の体も上へと持ち上げられていった。


「…お前、なんであんなことしたんだよ!」
アームで捕獲されたクマとそのクマに捕獲された俺は、今二人仲良く紙袋に押し込められていた。
「なんでって、分かんねえの?」
呆れたように言う口調にやっぱりこいつむかつく!と思ったけど
かなり近い紙袋の中のこの距離に俺の心臓はドキドキしっぱなし。
「あー早く離れてえ!」
そう憎まれ口をたたいたが、俺の心の中の望み通り数分後俺たちは並んでベッドの脇に置かれることになる。