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目の下に隈

そのシステムにバグが見つかったのは午後、お茶の時間の少し前だった。
小さなバグと言えどかなり遡ってシステムを組み直さなければならない。
面倒なことになった。
しかもそのクライアントが指定した納期は明日の午前中ときている。

開発室の面々はそれぞれ仕事を抱えていて、片手間に手伝うぐらいは出来ても組み直しを出来るほど
手の空いている人間はいない。
手が空いていると言えば僕だけだが、手伝わせてもらうだけで精一杯の駆け出しが明日までに
システムを組み直すなんて離れ業、できっこない。

どうするのか、と全員が青い顔で成り行きを見守っていたが、「責任者は俺だから」と室長が役目を買って出た。
急ぎでない仕事は後に回し、何名かに仕事を振り分けて、組み直しを始めた。

ある程度は出来上がったものをなぞるだけの作業とは言っても膨大な量だ。
当然定時になんか上がれない。
一人、二人と遠慮がちに帰っていく中、帰りそこねた僕と室長だけが残った。

「いいからもう帰れ。朝までかかるぞ」
「いえ、買出しとか、少しぐらいなら手伝いも出来ます。僕も残ります」

口を利く時間も惜しいのか、室長は「わかった」とだけ言って作業に集中した。
時折僕に仕事を渡す室長の声。
時折僕がコーヒーを淹れる音。
後はキーを叩く音だけが響く。

室長のデスク周りにだけ灯された明り。
眼鏡を外して目を擦る室長の横顔に見惚れた。
室長は僕が残ると言い出した真意を測りかねていることだろう。

不意にキーを叩く音が止み、椅子を軋ませて室長が身体を伸ばした。

「終わった。チェックも完了だ。朝までかかると思ったけど意外と早かったな」
時計は3時を少し回ったところだ。
「よかった。少しは眠れますね」
「お前が手伝ってくれたおかげだよ。ありがとうな」
そういってくしゃりと髪を撫でられた。
頬に熱が集まるのがわかったがこの明りでは気付かれることもないだろう。

「室長、隈できてますよ」
こんなに暗いのに室長の目の下にできた隈はくっきりとしてよくわかる。
「仮眠でも取るか。お前も来い。午前中いっぱい寝ててもいい」
無意識なのだろうか、何気なく肩を抱かれて心臓が跳ね上がる。

「あ、あの……」
「お前と一緒に徹夜で残業なら後2,3個バグが見つかってもいいぐらいだ」
「だめですよ、室長には隈なんて似合いません。これっきりにしてください」

室長は軽く笑って僕の頬にキスをした。
今度は僕の心がバグを起こしそうです。そうなったら室長が直してくださいね。