嘉音×朱志香と見せかけた何かです。


「ふぁ……あ、ん……かのん、くん……」
桃色に潤った口唇から、泣いているような声が漏れる。
「かの、ん、くん……すき……」
否、彼女は泣いていた。
それは、恥ずかしさからくる涙なのか嬉しさからくる涙なのか。
彼女はひたすらこちらの顔を見つめて名前を呼ぶ。
その度に、胸が、締め付けられた。


あなたが、すきです。
そのたった一言が、ひどく重い。


いつものように奥様から叱咤され、一時間経ってようやく解放された。
叫べば頭痛が酷くなりますよ、と言ったことがあるのだが、
余計怒りを買ってしまったので二度と言わない。
奥様の部屋を出て、廊下を歩いていると声をかけられた。
「お、おはよう」
この館のお嬢様、朱志香様だ。
「嘉音くん、今日出勤だったんだね」
手を後ろに組み、もじもじとこちらに寄ってくる。
目を合わせるのは恥ずかしいのか、視線は別の所を泳いでいた。
普段は活発的な彼女が、この時だけは急にしおらしくなる。
それが、たまらなく愛しい。
「お嬢様、何か御用ですか?」
「あっ……」
他愛もない受け答えをしただけなのに、彼女の顔はより赤くなった。
だめだ、顔がにやけてしまう。
「特に、用事はないんだけど……話し相手になってほしいな、って……
嘉音くんが忙しいなら、いいんだ、うん」
「本来なら次の仕事があるのですが……」
彼女の顔が暗く陰る。
「家具として、お嬢様の頼み事を断る訳にはいきませんね」
「いいの?」
さっきまで暗かった顔が、一瞬にして明るくなる。
ああ、なんて見ていて飽きないんだろう。
「じゃ、じゃあ、私の部屋、来てくれていいかな」
そう言って手を引き、そそくさと彼女は自室へ駈け出した。

「椅子でもベッドでもさ、好きな所座ってよ!
あんまりかしこまらないでさ、くつろいでほしいな!」
そう言う彼女の方ががちがちである。
彼女がベッドに腰かけたので、向い合う形で椅子に座った。
「それでお嬢様、何の話をいたしましょう?」
「あ、えっと……」
急に言葉に詰まる。本当に何を話そうか考えてなかったんだろう。
ただ一緒にいたくて、呼びとめてくれたんだろうか。
「お嬢様、ひとつお聞きしていいですか?」
「あ、うん」
「お嬢様は、僕の事が好きですか?」


「…………………………っ!!」


大きな目が見開かれ、声なき声が漏れる。
ぱくぱくと人形のように口を動かしては、目を白黒させてこちらを見る。
「あ、あの、その、わ、私は……」
必死に言葉を探しているようだがうまくいかない。
そのうち大きな目に涙がたまってきた。
「め、迷惑だよね、私、女の子らしくないし可愛くないしガサツだし、
母さんにも愛想尽かされてるだろうし……
嘉音くんはここに働きにきてるのにさ、好きです、だなんておかしいよね……」
「朱志香様」
赤くなった彼女の頬に手を伸ばす。
ふんわりした金色の髪が手の甲に触れて、くすぐったかった。
「え……」
呆然としている彼女に、口唇を重ねる。
想像以上に柔らかくて、温かくて、滑らかで、どきりとした。
「………………」
口唇を離せば、彼女は完全に固まっていた。
話しかけるだけでいっぱいいっぱいなのだ、キス一つでフリーズされるのも無理はない。
「朱志香様、聞いてください」
彼女が少しずつ我を取り戻していったのを確認し、ゆっくりと告げる。
「僕も、朱志香様が、好きです。」

「ほんと………?」
「本当です」
「………………うっ」
彼女の眼に溢れていた涙がぼろぼろと落ちてくる。
もう一度引き寄せて、キスをする。
そのまま押し倒す形で、彼女の上に重なった。
また驚かれるだろうか、と思って彼女の顔を覗き込むと、
とても穏やかな顔で微笑んでいた。
「嘉音くん、きて」

シャツのボタンを外せば、豊かな乳房が顔を出した。
自分を女らしくないと評する割には、上品な下着を身につけている。
両の手を下着の中に忍ばせ、ゆっくり愛ではじめるとすぐさま彼女は甘い声をあげた。
「ん……ふぅ……んんっ……」
「嫌だったら言って下さいね」
「イヤな訳、ないよ……あんっ、……ぁあ……」
片手には到底収まりきらない乳房は、手の中で形を変えてゆく。
指先で頂を弾く。
「ひゃうんっ……か、嘉音くん、恥ずかしいよ……」
触れた手にも、急かし立てるような心臓の鼓動がわかる。
白く美しい肌は、熱で淡い桜色に染まっていた。
ひときわ濃いピンクをした、その頂に舌を這わせる。
「やぁっ……ひっ、……かのん、くん……」
しきりに彼女は嘉音くん、嘉音くんと名前を呼ぶ。
それに応えるようにして、彼女への愛撫を激しくする。
十分にとろけきった彼女の様子から見て頃合だろう。
閉じられた太股の内側へ、指を伸ばした。
「あっ……まだ、そこは……」
「見せて下さい、朱志香様の、ここ」
「ひぁあっ!?」
下着越しに指でつつき、くぼみをそっとなぞる。
布一枚隔てているのに、肉壁は指に吸いつこうという動きを見せた。
折角の上品な下着も、彼女自身によって大きな染みを作ってしまっている。
下着を膝の上まで下ろし、露わになったその場所に口づける。
「や、やだぁ、そんな所、汚い、よぉ……」
とろとろになったそこに指を入れ、わざと音がするようにかきまぜる。
「あ……はぁっ、んん……」
音に酔わされたのか、彼女の声が一層艶を帯びてくる。
「……かのんくん、かのん、くん……」
彼女の中の指も、一本から二本、二本から三本と数がどんどん増えてゆく。
じゅぶじゅぶ音を立てながら指を吸い込んで、恍惚とした顔で彼女は言った。


「嘉音くんの、欲しい……」


「………どうしたの?」
言葉を失った。それまで気づかないふりをしていた罪悪感が、一気に押し寄せる。
「ぼ、僕は、家具ですから、そこまでは……」
「家具とか、んんっ、関係ないよ……嘉音くんは、イヤなの?」
「違います!」
そう、嫌な訳がない。
ずっと彼女のことを好きだったんだ。
「なら、どうして……」
彼女の言葉が途切れた。


「…………まさか、紗音ちゃん……、なのか?」


「ッッッッ!!!」
全身から血の気が失せた。
目の前が真っ暗になる。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。
「どうして、こんなこと……」
彼女の声が暗くなる。
こんなはずじゃなかった。
「私を、騙したんだな……」
彼女の声が震える。涙声になる。今度は喜びからの涙なんかじゃない。決してない。
「違います、朱志香様!僕……私は、朱志香様のことが……」
ぱしん、と頬を叩かれる。
今まで粗相をして奥様に叩かれたことは何度もあった。
それなのに、この一撃は今までのどの叱咤よりも痛い。
奥様によく似た、冷たい目で彼女は私を見降ろし告げた。


「汚らわしい。二度と私に近づくな」



あなたが、すきです。
二度と伝えられることはなく。


=終=




※この文章は、紗音・嘉音同一人物説、入れ替わり説を基にしています。


  • 嘉音くん好きよ -- (紗音) 2011-04-28 19:39:23
  • ある意味すげぇぇ…衝撃を受けた。。良い。パンチが効いてるb -- (名無しさん) 2011-11-22 03:28:30
  • 結構知りたかった真相だから、なお良かったと言わせてもらう。 -- (名無しさん) 2011-11-22 03:29:20
  • お~!!すごいな。最後にどんでん返し! -- (名無しさん) 2014-04-03 18:12:10
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