本日のディナーは店屋物。
空腹で考えのまとまらない縁寿は、とにかく早く支度できるもの、とだけ注文を付けた。
数十分後、宅配ピザが到着。
お嬢様にとって、それはチープでしょっぱい食事だが、まあ悪くはなかった。

 右代宮のご令嬢は、慣れない手つきで三枚目のピースを齧る。
とろけたチーズが、生地を滑り落ちて袖と手首を汚してしまった。
「あ、付いてますよ」
 ハンカチを取り出すより早く、護衛の青年がその腕を取り、舐める。
「っゃ……あ、天草!」
 ざらついた舌の感触に、縁寿は声を荒げた。
「なんです?」
「なにしてんのよ、あんたはッ」
 激昂する主の怒鳴り声などどこ吹く風か。青年はへらへらと笑っている。
「いやぁ、汚れちまったら早く取らないと駄目でしょ」
「だからってねぇ!」
「まあまァ。これもサービスの一環としてですね」
 薄っぺらい言葉に、お嬢様のご機嫌は急降下一直線である。

「冗談はやめて頂戴」
「あ、やっぱ無理すか」
 縁寿はふいっと顔を背ける。火照った顔を見られたくなくて。
耳まで赤く染まっているため、意味はなかったが。
そんな彼女を、彼は生暖かく見守っていた。

「天草」
 ようやく落ち着いた少女は、彼の名を呼んだ。
「はい?」
「まだ、ついてるから。取って」
 差し出された手には、何も付いていない。
見上げると、彼女は照れたような、どこか期待を含んだ顔をしていた。
「了解、お姫様」

 薬指に口づけて、更に手のひら、手首を伝って中央へ向かってキスを落として行く。
「あ……っん」
 漏れそうになった声は、吸い付く唇で封じられた。
天草は慣れた手つきで服を脱がし、その肌を晒させる。

「はぁ……何で、脱がすの」
「えー。どう考えても誘ったでしょ。お嬢ったら」
「うるさい。あんまり、見ないでよ……」

 恥じ入る少女を、青年はしっかり抱き寄せる。
「いや、そりゃ見ますよ」
「ばか」
「こういう時は男はみーんな馬鹿になるんですよ」
「……すけべっ」
「そうですねぇ。ま、助平なのもどうしようもねぇですわ。ご愁傷様でした」
 どんな言葉も、まるで効果はなかった。

「きゃっ、んうっ……くび、は駄目……っ」
 肌蹴たブラウスから覗く首筋に天草が齧り付くと、縁寿は恥ずかしそうに身を捩った。
「ボタン閉めてんだから分かんないですって」
「髪、当ってくすぐったい」
「え、スキンヘッドご所望ですか」
 力なく叩く。
「極端すぎ……っん、キス、して」
 少女は彼に縋って、唇をねだった。

「どこですか?」
「変なこと言わないでよ」
 睨みつけても、今の彼女にはちっとも迫力がなかった。

だから、天草は曖昧に笑って唇を重ねた。
「も一回……」
 要望通り、何度でも。角度を変えて、吸い上げてみたり、舌を絡めてみたり。
次第に少女の頬は火照り、瞳が潤んできだした。
「こんだけでこんなとろとろになっちゃって。縁寿さんはホントかーわいいですねぇ」
「うっさい。ほっといて」
「え~。可愛いのになぁ」
「か、可愛いとか変なこと言わないでよ。馬鹿みたい」
 照れくさそうに縁寿は青年の言葉を否定する。

「いや、俺は確かに馬鹿ですけどね。お嬢が可愛いのはガチですよ?」
「じゃあ。例えば、どこ?」
「そっすねぇ。太ももを気にしてるのに頑張ってミニスカ履くところとか、
糞真面目に勉強しても悉くテストの山掛けに失敗するどん臭いとことか。あ痛っ」
 縁寿は首に引っ掛かる銀髪をぐいと引っ張った。ドスの効いた視線を矢の様に飛ばしながら。

「馬鹿にしてんの?」
「いえいえ、まっさかぁ。……とりあえずその握りこぶしは下ろしてくださいよ」
「いや」
 寄る辺もない言葉に、天草は少しだけ苦笑して、その手を優しく取った。

「……馬鹿」
 そっと開かせて。指先を取って軽く口付けた。
「お怒りは治まりました?」
「知らない」
 そっぽを向けば、その顔を引き寄せて、キスをした。
縁寿も抵抗せず、首に腕を回して身を預けた。
「……ふ、天草……?」
「はい」
「寒い」
「あー。剥いちゃいましたからねぇ」

「ベッドまで、連れてって」
 ほんの少しだけ、甘えを含ませて。少女は青年に命じた。
「へーい」
 軽々と抱き上げて、寝室へゴー。

「何回する気よ……」
 ようやく唇が離れて、新鮮な酸素が肺を満たす。
顔が赤いのは、もちろん酸欠のせいではないのだが。
「おや、お嬢はキスがお嫌いで?」
「別に。……ちょっと顔が近いから、何か……こう、緊張するだけよ」
「はは。可愛いですねぇ」

「っ……また、そういうこと言うし……」
 顔が火照るのを自覚して、伏せる。無意味な抵抗。
どうせ顔を上げても見えるのはにやついた男だけ。気分が悪くなるだけなんだから。
 もちろん、彼女の予想は大当たりだ。天草は満足気な顔をしていた。

 縁寿の怒りに火を点けんばかりの。
「耳まで赤いんだから意味ねーっすよ」
「わ、分かってるわよ。……何よ、天草の癖にっ」
 理解していても感情が追いつかない。つい、非難の言葉が出てしまう。
「えー?どういう意味ですかぁ?」

 のらりくらりとした態度に、うっかり堪忍袋が爆・散。
「うるっさい!大体ね、勝手に声掛けて、止めろって言っても止めないから首になって、
それでまた『よろしく』って何よ。小此木さんに言われたらほいほい来るわけ!?
この……こ、この、男好きー!」
「いや最後意味不明ですよ」
 彼女も考えなしの発言なのだから仕方がないのだが。

「知らないわよ。そうよ、全然分かんない……あんたのことも、私も……なんにも」
「それが寂しい、と。一人にして、悪かったですね」
 さらりと掛けられた言葉と、引き寄せられた胸に、縁寿は押し黙る。
彼も彼女の台詞を待ち、沈黙する。――程なくして、少女は搾り出すように呟いた。

「あんたがいなくったって寂しくなんてないもの、平気なんだから……っ」
 引き結んだ唇と、強気な声。が、下がった眉が少女の心中を示していた。
「じゃあ。泣かせてすんません」
「泣いて……なんか、ない」
 濡れた頬を撫でられても、縁寿は意地を張る。

「んー、そんじゃ今から啼かせるんで。覚悟して下さいな」
 明らかにニュアンスが異なっていた。
縁寿は動揺し声を荒げる。
「は……ッ?や、ちょっとぉ!?」

 残念ながら、この男に聞く耳なんてありはしない。
抱きしめていた腕は、不埒な動きで縁寿を翻弄するのだった。
「やだ、やだやだそこ駄目って言ったでしょ!!」
「いやよいやよも好きのうちーですぜぇ」

「馬鹿、変態ッ。あんた、なん……んんっ、嫌いなんだからぁ……っ」
「そーですかー。俺は縁寿さん大好きですよー。主にこことかそことか」
 ふにふにのくにゅくにゅでサーイコウ、と無駄にいい笑顔の天草。
「黙れロリコンーっ」
 縁寿渾身の蹴りはあっさり回避。
しかもその足を取られ、開かれてしまう窮地に立たされてしまう。

「違いますー。お嬢フェチなんですぅー」
 少女に下着越しに触れて、その反応を楽しむ。
「意味分かんない。天草の、大馬鹿っ……ひゃ、あぁん、駄目ぇ……ふぁ」
 もう怒っているのか、悦んでいるのか。縁寿には分からなくなっていた。

「お嬢?大丈夫ですかぁ?」
 ほんの少しだけ心配する素振りを天草が見せる。
縁寿は視線を合わせると、なるべく落ち着いた声を出せるように祈った。
「平気よ、ろくでなし」
「はは、ろくでなしかァ。口が悪いですね、お嬢は」
「事実でしょ」

 ふと、視線が合った。
そろりと重ねられた少女の手を引いて、もう何度目かは忘れたが唇を重ねる。
「んぅ……っ、……はぁ……」
 足の付け根にもキスをして、その身体に再び触れる。
先にあるのは少女の中心。先程の悪戯のおかげで、僅かに湿っていた。

下着を剥ぎ取って、そこを少しづつ指で広げていく。
「ひぁ……あ、くぅうう……んっ」
 喘ぐ縁寿の声に酔いながら、更に奥を掻き乱す。
ひちゃひちゃと濡れた指を押し込んで、戻して。
その度に悲鳴が甲高くなっていく。
「も、ちょっと、ゆっく……ぁあん、そこ、あんまり強くした……らッ、ふあぁっ!」
「ゆっくりねっとり了解でーす」

「ちが……くぅっ。もう……っ、馬鹿ぁッ」
 少女の吐息は荒く乱れ、身体も小刻みに震えていく。
「あぁ……あ、天草ッ……も、ひゃん!」
「もう限界みたいですね。我慢しすぎは良くないですなぁ」
「あっ、あま……んん」
 とっとと服を脱ぎ捨てると、縁寿に改めて跨った。

「んじゃぁ、覚悟完了ですかー?」
「……ん……」
「と。その前に紳士の嗜みを……ってアレ、ねぇな」
 ベッドサイドを漁ったが目的物は見つからない。
残念ながら本日は自前もない。さてどうしよう。
思案に入りかけた青年の袖を、少女はそっと引っ張って囁いた。
「天草……っ。な、中、そのままでいい、から……」
「え。マジすか。いいんですか、生で」

 縁寿は天草の視線から逃れるように顔を背けると、不機嫌ぶった声を出す。
「いいのっ。わ、私がいいって言ってるんだから、えっと。そう、命令よ!」
「……はい。遠慮なく。今更無理ッつっても聞きませんよぉ」
「の、望むところよ」
 安い挑発に敢えて乗ってみる。予告なしにぶち込んだ。
「ひああぁっ!や、ぁっ、あまくさぁあっ!」
「はぁーい」
 間の抜けた返事をしながらも攻め手は緩めない。

「や、あっ。ゆさぶっちゃ……ふぁっ、あっひぅうっ」
「慣れりゃあ良くなりますって」
「ん、んっ……ばかっ……天草の、やぁあ、あっはぅッ」
 震える身体を擦って、動きは少しだけ緩めて。
次第に、少女も落ち着いてきたのか、喘ぎながらもこちらを睨む余裕ができたらしい。
「はぁ……天草……きらいぃ……」
「嫌いな相手に何で股開くんですかねぇ」
 痛いところを突かれて、言葉を捜して、決まり悪そうに吐き出す。

「あ、天草だから、でしょっ……変なこ、っと、言わせない……はぅっ」
「そりゃ光栄」
 喜びをご奉仕で表現してみた。
「ふあぁっ。あん、そこ……ッ。ひあ……!」
「ここがいいんです?」
「ばかぁっ、ああん、そ、うよっ、ばか、天草の、大馬鹿ッ」
 縋り付いてされる罵倒もオツなものだなぁ、と思う天草なのでした。

「さって。そろそろ出してもいいですかねぇ」
 余裕を気取っても、内心こちらも限界だった。
縁寿はどこか困ったように頷く。
「……ぅ。うん……」
「ホントに中でいいんですか?」
「はっ……いい、から……ひぁ、離さないで、天草ぁ……っ」
 怯える声に、躊躇が馬鹿らしく思えた。
ご主人様のお願いは迅速に。伸ばされた手を取って、身体は深く沈めて。
そして、撃ち込む。
「あまくさ……っ、ここ、にいて……ッ。ひとり、いや、あ、ぁあうあぁぁっ……!」

「寝てる時くらいしかめっ面はお休みすりゃあいいのに」
 眉間に皺を寄せて眠るご主人様に触れる。
寝言は何時も通り、家族を呼ぶ言葉。
「おと……かあさ……おにい、ちゃん……」
 望みはいつだって一つ。
「置いてかないで……っ」
 彷徨う手を取っても、心はそうはいかない。
「だからって一人は辛いでしょうに」
「ん……っ」
「ま、こっちもあんたを置いてくんでしょうけどね」
 共に居るのは精々あと数週間。元より住む世界が違う。
現在の関係も、あくまで雇い主とその犬に過ぎない。
今抱きしめるこの手は、明日彼女の首を絞めるのかもしれなかった。
その程度には希薄な関係。
だから、こんなことをしても彼女を癒すどころか傷付けることにしかならないのかもしれない。
「……俺だって人間ですから」
 抱く腕に少し力を込めて、天草も目を閉じた。



  • 甘々イイですね……終始ツンツンな縁寿可愛いです。 -- (名無し) 2009-12-11 23:51:40
  • 天縁いいよ天縁♪もっと読みたいです。 -- (今谷希咲) 2009-12-12 22:04:43
  • 天草めっちゃいいッ!!!かっこいいし。。。キュン死wwwwwもっとかいて☆ -- (天草らぶwww) 2010-03-16 22:43:23
  • 天草も縁寿も・・萌えぇぇぇぇぇぇえ -- (玲菜) 2010-04-05 16:13:58
  • 甘いっ❤ -- (桜) 2010-08-02 21:51:36
  • ( -- (名無しさん) 2010-08-20 03:04:03
  • ( 罪)<書いて!もっと書いて! -- (名無しさん) 2010-08-20 03:04:18
  • 俺の妹がこんなに可愛いわけがない -- (戦人) 2011-04-29 11:01:51
  • いやあああああ!!! -- (名無しさん) 2011-05-08 22:50:40
  • すごいすごいすごいすごい -- (名無しさん) 2011-05-08 22:51:41
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