赤、紅、アカ
赤、紅、アカ。
おびただしいほどの、アカ。
アカが飛び、アカが舞い、アカが踊る。
私は、何をヤっているんだろう……?
「あは、は……」
ぼやけた思考のまま、ただ頭の中でつぶやく。
「……は、は」
自らへの問いかけに私の口は、ただ、答えにもならない声を漏らすだけ。
わからない。
ぱしゃあ、と。またアカが広がる。いったい、どれだけ広がるんだろうか。
振り上げた腕を、振り下ろす。その度に、アカが広がってゆく。
ぺしゃ、とアカが私の頬にかかる。
私はそのアカを、愛でるように優しく撫でた。
ぬめりとした、アカの感触。
撫でた指を見ると、アカに染まっていた。
ふと、私はたまらないほどの衝動に襲われ、アカい指をそっと口へ運び、くわえた。
口内に染み渡る、アカの味。鉄臭くて、甘美で、ぞくりとする、生きている味。
もっと、欲しい。
私は本能のまま腕を振るった。
アカは音と共に噴水のように噴出し、散った。その光景は舞い落ちる雪よりも、ずっと綺麗で鮮やかで。
「あ……はは」
それでも口から出るのは感情のない笑い声のみ。
見えるのは赤。見ているのは紅。見たいのはアカ。
だけど、私が望んでいるのは……
腕を、振るう。思うままに。何も考えず。感情などはなく。
……わから、ない。
――私は何をしているの?
腕を振り上げ、下ろす。
――私は何がしたいの?
アカを見て、笑う。
「はは……あは、は」
笑う。……いや、笑ってなんてない。私は――……
……わからない。
何もかも、わからない。
今いる場所も。今私がしていることも。今私はどうしたいのかも。
わかるのはアカと……アカい貴方だけ。
わからない。わからない。わかっていることも、わからない。
……もう、わからなくて、いいや。
「あはは……あはは、ははっ」
私は、嗤っていた。人形なんかよりも、壊れて崩れた嗤いをしていた。
赤くなれ。紅くなれ。アカくなれ!
わからなくていい。ただ、思うままに。考えることなく、身に任せ。
……すべて、アカくなってしまえ。
――そして。
赤くなった私は嗤って、紅くなった刃を持つ腕を振り上げ、アカくなった貴方に刃を突き刺した。
狂ったように嗤って、痛む心も壊れているのに、なぜか涙を流しながら……
最終更新:2008年10月01日 02:14