みなさん初めまして。私はフブキタイプのシャルと申します。マスターカエデの神姫です。
私は今、テレビを見ています。いや、テレビを見たくて見ているわけでは無いのですが、隣に座る可愛い妹分、エルスさんがどうしてもというので仕方なく一緒に見ているのです。
ちなみ見ているのはホラー映画です。
私は今、テレビを見ています。いや、テレビを見たくて見ているわけでは無いのですが、隣に座る可愛い妹分、エルスさんがどうしてもというので仕方なく一緒に見ているのです。
ちなみ見ているのはホラー映画です。
「お、おおおおお姉様、こここここ怖かったらえんえんええ遠慮なく悲鳴なんなりをあげたてまつってもいいんですよっ!!!」
「はいはい、わかりました。エルスさんも遠慮しなくていいです」
まあ、レズっ気のあるエルスさんのことです。この映画鑑賞も、ホラー映画を見れば私が怯えてエルスさんに抱き付くといった計略の元の行動でしょう。まあ残念ながら、私は怖いとは思いませんが。
『キャァァァァ!』
「きょぁっ*×$∞&@☆♯∀〒※!!?!」
「うぐぐ、エルスさ、ぐるじ……」
締まってます締まってます締まってます! 離して下さい!
「ただいまー」
「お帰りなさいマスター!」
「お帰りなさいませ、マスター」
マスターカエデが帰ってきました。今日もお勤めご苦労様です。
「シュークリーム買ってきたから、一緒に食べよーね」
「シュークリーム! マスター、ありがとうございます!」
「では、私はスプーンをお持ちしますね」
マスターカエデはこうして時々、お菓子等をお土産として買ってきます。しかし、むやみやたらと買うわけではなく、食事バランス、運動量、消費カロリー等々を計算しつくしてから、余裕を持って購入してくるので、実はなんとなく購入日を予測できます。
マスターカエデは実はしたたかな女性です。
マスターカエデは実はしたたかな女性です。
「マスター、とっても美味しいです! そうだ、あーんしてください!」
「えー、ちょっと恥ずかしいかなー」
と言いつつ、マスターカエデはあーんと口を開けます。そこにエルスさんがスプーンでシュークリームの一欠片を差し入れます。中睦まじい主従ですね。
「さ、お姉様も!」
「あーんですか」
「私の口からどうぞ! んー」
「やめなさい」
クリームを口に含んで顔を近付けるエルスさんの額にスプーンでチョップします。額を押さえて転げ回る様に、マスターカエデも大笑いしています。
「さて、今日も週二日のお楽しみといきますか」
今日はマスターカエデのお仕事のお休みの日。マスターカエデはお休みの日には神姫センターに通い、バトルを楽しみます。勝ち負けにこだわるよりも、戦い自体を楽しむほうなので、戦績はほどほどです。
「こんな格好でそんなことできるかー!」
「とてもよくお似合いですよ、美咲さん。さすが私の女神です。きっと戦う姿はもっと美しいのでしょうね」
「おっしやるかぁ! さあ、挑戦者こーい!」
ああ、今日は騒々しい方々がおみえになっていますね。あの方は、この神姫センターの常連さんで、皆からは先生と呼ばれている方です。毎回、とてもユニークな武装を自らの神姫、花型MMSジルダリアタイプの美咲さんに装備させて、周りの皆様を楽しませています。
あの美咲さんという神姫、性格はなかなか豪胆です。今も、かかってこいやー等と叫びながら仁王立ちで両腕を天に突き上げています。
あの美咲さんという神姫、性格はなかなか豪胆です。今も、かかってこいやー等と叫びながら仁王立ちで両腕を天に突き上げています。
「あ、今日先生来てたんだ。よし、戦ってみよっか。どっちが行く?」
「マスターが決めて下さい! 私たちはそれに従います!」
エルスさんの返答に、んーと悩んだ挙げ句、私を手に伸せ筐体に進みます。
「それじゃ、よろしくね、シャル」
「はい、マスター」
私は対戦登録をし、ブースに着きます。
「こいよシャル、武器なんて捨ててかかってこい!」
「いや、武器は捨てませんよ」
私はフブキタイプの装備に、エルスさんと同タイプのライフルを装備した、中〜近距離装備です。
一方、美咲さんの装備はというと、まるでおとぎ話の世界から飛び出してきたかのような豪勢なドレスを身にまとっていました。ジルダリアタイプということも相まって、非常に絵になります。
一方、美咲さんの装備はというと、まるでおとぎ話の世界から飛び出してきたかのような豪勢なドレスを身にまとっていました。ジルダリアタイプということも相まって、非常に絵になります。
「そのドレス、やはり仕掛けが?」
「まあな。試してみるか?」
不適に笑うと、美咲さんは走り始めました。あんな走りにくそうな格好でよくもまあ走れるものです。私はライフルで牽制射撃を行います、が。
「当たらなければどうと言うことはないぃ!」
と当たりながら美咲さんが迫ってきます。この人に痛みや恐怖はないんでしょうか。
「必殺!」
かなりの距離まで詰められてしまいました。私はライフルを片手に持ちかえ、大型の手裏剣をもう片手に持ちます。
「白鳥の舞!」
美咲さんが跳躍、回転しながらこちらに迫ります。体当たりでしょうか、それとも回し蹴り? しかし、スカートがふわりと広がり、中が見え……あ、スカートの内側に隠し刃が!
間一髪、私はライフルと手裏剣でスカートを止めます。甲高い音と共に、なんとか直撃は防ぎました。
間一髪、私はライフルと手裏剣でスカートを止めます。甲高い音と共に、なんとか直撃は防ぎました。
「甘い!」
ですが、その後に控えていた回し蹴りは頭部を直撃、吹き飛ばされました。
「スカートの仕掛けにはよく気付いたな。しかし、スカートに意識が向きすぎて、蹴りに気付かないのは未熟の証! 勝機が見えたな」
「まだですよ、一度食らえば、見切るのも簡単です」
もし攻撃パターンがあれしかないなら、勝ち目はあります。
結果としては、私は敗北しました。スカートの刃による回転攻撃、それをかわしても蹴りがくる。ただそれだけの単調な攻撃のはずなのに、攻撃タイミングをずらされたり、回転方向をかえられたりと千変万化に攻め立てられ、ほぼ一方的に負けてしまいました。
「勝ったー! 先生先生、私やったぞ! ほらほら、お褒めの言葉とか、お祝いのチューとか!」
「チューはしませんが、まあ、とても美しい戦いでしたよ、さすが美咲さん。ただ口調にももう少し繊細さが欲しいですね」
「うんそれ無理」
あちらはとても楽しそうです。
「申し訳ありません、マスター。負けてしまいました」
「ううん、いいよ、全然。先生の戦い、面白かったから。全く、シャルは硬すぎるんだから。勝ち負けなんかにこだわらなくていいんだよ?」
よしよーし、とマスターカエデは私を撫でてくれます。それだけで私の頬は緩んでしまいます。
「そこのアホダリアさん! 次は私と勝負です! お姉様の仇、打たせてもらいます!」
エルスさんが憤怒の様子で美咲さんに喧嘩を売っていました。私の仇、と言ってくれるのは嬉しいですが、アホダリアだなんて相手を貶す言葉遣いはいただけませんね。
夜、マスターカエデが明日に備えて寝入った頃。
私もクレイドルにて充電を兼ねて就寝をしていると、妙に揺り動かされる感覚が。
私もクレイドルにて充電を兼ねて就寝をしていると、妙に揺り動かされる感覚が。
「ん、何ですか……?」
「あ、やば」
ばっと、突然口元に布のようなものを巻かれてしまいました。それで私の意識は完全に覚醒します。どうやらエルスさんの仕業のようです。
「ん、んー!?(な、何するんですか!?)」
「シー、マスターが起きちゃいますよ。ささ、お姉様、今宵こそ姉妹の親睦を深めましょう♪(ハァハァ)」
め、目が、エルスさんの目がヤバいです! イッちゃってます! こ、このままでは私、エルスさんに[ズキューン]されてしまいます!
「んーんー!?(や、やめて下さいエルスさん!)」
「ああお姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!」
……っは、あれ、夢!? 左右確認、上下確認、ここは先生の私室、間違いありません。……夢でよかった……。
私がほっと胸を撫で下ろしていると、ドタドタと廊下を走る足音が。
私がほっと胸を撫で下ろしていると、ドタドタと廊下を走る足音が。
バァン!
「美咲さっ(ガッ)!?……だ、大丈夫、ですか……」
「せ、先生こそ、足の小指はご無事ですか?」
勢いよく部屋に飛び込んできた先生は、小指をいい勢いでぶつけたようです。ああ、日常での三大痛打の一つをやってしまいましたね……。ちなみに残りの二つは、階段を踏み外してスネを打つ、ドアに指を挟む、です。多分。
「それより、一体どうしたんですか、美咲さん。とても悲痛な悲鳴が聞こえましたが」
「あ、いえ、ちょっと悪い夢を見てしまいまして……」
途中まではそれなりにいい夢でしたが、オチが……。あ、そうだ。
「先生、一つよろしいですか?」
「はい、何ですか?」
つとめて冷静な声でお返しくださいましたが、先生は今蹲っています。
「もし、神姫を買うときに、私、フブキタイプが居なかったら、どんな神姫を買っていましたか?」
「フブキタイプしか買う気はしませんけどね(キリッ)。強いてあげるなら……まあ、名前は美咲さんと決めていましたから、咲くと言えば花、ジルダリアタイプ、ですかね」
なるほど。では、あれは、もしかしたらあり得たかもしれない擬似現実の夢、ということになるんでしょうか。
いわゆる、パラレルワールド……。
いわゆる、パラレルワールド……。
「……先生、私、先生の神姫で本当によかったです」
「そうですか。私も美咲さんが私の神姫でよかったです」
起こりえたかもしれない現実だったとしても、所詮夢。今この現実が、私の現実です。
しかし夢でよかったです本当に。