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好き嫌いは大事なんです

 放課後の教室。誰もいなくなったここに、俺は彼女を呼び出した。
「えっと……話って、なにかな?
 放課後。呼び出し。二人きり。男と女。ここまでの条件がそろえば、きっと彼女も気づいてる。俺が、告白しようとしていることに。
 なのに、彼女はいつも通りの笑顔でいてくれた。そのことがとてもありがたくて、やっぱり彼女のことが好きだと改めて思った。
「なんて言うか……いつもの君じゃないみたいだね。その、緊張してるって言うか……」
「まぁ、ちょっと」
 今までにない、ぎこちない会話。彼女は困ったように頬をかき、視線をさまよわせる。どうやら彼女も緊張しているみたいだ。
「あのね……えっとね」
 少しでも緊張を解こうと、話題を探す彼女。そんな彼女の優しさに、俺はたまらなくなった。いつまでもうだうだ言ってる場合じゃない。行くんだ、俺ッ!
 しっかりと彼女の瞳を見つめて伝えるんだ。たったひとつの想いを……!
「俺……お前のことが、好きなんだ。だから、付き合って欲しい」
 ほぅ、と彼女の顔がほんのりと赤く染まった、気がした。
 心臓が激しく打ち鳴り、のたうち回る。今すぐ逃げ出せと、早くこの場から離れてしまえと訴えてくる。
 俺はそれを無理やり押さえつけ、踏みとどまる。ここで逃げ出したら、ヘタレじゃないか。彼女の答えを聞くまでは行けない。
「返事、いいか?」
 話す俺の声は、情けないほど震えていた。
 彼女を見ると、小さく首を振っていた。
「……ごめん、なさい」
 ダメ、だった。決死の覚悟で挑んだ告白だったけど、ダメだった。……行けると、思ったんだけどなぁ。
「そっか。ごめん、いきなりこんなこと言って」
 その言葉は、意外とあっさり出てきた。緊張が抜けきってしまったからか。
「ごめんなさい、私……」
「気にしないでくれ。けど、もし良かったらダメな理由教えてくれないか?」
 何を言ってるんだ俺は。……とも一瞬思ったけど、もうどうにでもなれと軽く自暴自棄になっていた。
「その、ね……」
「遠慮なく言ってくれ。今後参考にさせてもらうから」
「その、私……」
 どんな酷いことを言われようとも覚悟はしていた。でも、彼女が放ったその言葉に俺は。
「マヨネーズが嫌いな人とは付き合わないの……っ!」
「……………………は?」
 完全に止まっていた。彼女今なんつった?
 なにがなんだかわからん俺に、彼女は言葉という容赦ない銃弾を次々撃ち込んでくる。
「私、すっごいマヨラーなの。友達の前でやると引かれちゃうから、他に人がいる前じゃやらないんだけどね。でも、自分がひとりの時や自宅にいるときは、どんな料理にもマヨネーズかけて食べてるの。昔からそういう風だったから知らなかったけど、他の人から見たらちょっとおかしいみたいで……」
 言葉ーに、出来なぁ~い。そんな歌が、頭の中でただひたすらにリピートしてます。
「それでね、前に付き合ってた彼氏の前でマヨネーズかけてご飯食べた時にね、言われたの。お前とはこれ以上付き合えないって」
 別れた理由がマヨネーズって……そんなに酷いのか?
「いったい、なににマヨネーズかけたんだ……?」
「ご飯に、こう、ドンブリみたいに」
「ま……マヨネーズ、を?」
「……ぅん」
 ちょこんと、小動物みたいに可愛らしく頷く彼女。
「前の彼がね、最後にこう言ったの。『俺はマヨネーズが嫌いだ。アンコが好きなんだぁ!』って。だから、貴方が美味しそうにアンパン食べてたことも許せないの……」
 もう訳わからん。
「だから……ごめんなさいっ!」
 彼女は、ばっ、と勢いよく頭を下げた。
「子供向けアンパン戦士なんて、バイキン男とカビルン○ンにやられちゃええぇぇぇっ! うわあぁぁぁぁん!」
 そしてなぜか泣き叫びながら走り去って行った。泣きたいのはこっちだよ。
 俺はゆっくりと窓から身を乗り出して。
「マヨネーズのバカ野郎おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!」
 力の限り慟哭した。他にどうすりゃいいんだよ……