私はIT業界に転職する前は別の業界で仕事をしていました。26歳でIT業界に転職しました。転職した会社は当時、数十人程度の零細会社です。事務所には50歳~60歳くらいの社長、部長と事務の女性がいるだけで数十人いるはずの技術者たちが事務所にはいません。技術者だけでなくコンピュータも見当たりません。いったいどこで誰がシステム開発をするのだろうと不思議な気持ちがしたことを覚えてます。

しばらくしてこの会社のシステム開発の実態がわかってきました。どうやら数十人いる技術者はお客さんの会社に派遣されて仕事をしているとのことです。零細会社では自社内でシステム開発を行わず、技術者を大企業のお客様先に派遣し、そこで開発作業を行うということでした。自社で仕事をせずお客さまの会社内で仕事をするスタイルにとても違和感を覚えましたが、それがこの業界の常識とのことでしたので、「そういうものか」と自分に言い聞かせていました。

入社前に聞いていた話では、入社直後はしっかり研修しプログラミング技術を身に付けてから開発現場に派遣されるとの話でした。しかしプログラミング技術を身に付けるどころか、入社してすぐ面接そして即日から現場常駐ということになってしまいました。しかも面接時にお客さんに提出する経歴書には「開発経験3年」と書かれてます。面接の時にお客さんから「SQLはできるの?」「詳細設計書を書いたことはあるの?」といったことを聞かれます。当時の私は、SQLという言葉もわからず、設計書なんて見たこともありません。未経験・未研修なので当然といえば当然です。正直に「できません。知りません」と言ってしまいたいのですが、言ってしまったら会社が虚偽の経歴書を書いたことがばれてしまいます。吹き出る汗を拭きながら「ま、何とか大丈夫です」と言ったものの、お客さんと目を合わせられませんでした。

結局、人手が足りないとの理由で、技術面で不安はあるものの何とか私も開発現場に常駐することになりました。ド素人なのに本当に仕事が務まるのか?と面接に同行した営業の方に聞きましたが「何とかなるから大丈夫だよ。もし何かあったら電話して」と言われ「そういうものなのかな」と自分に言い聞かせていました。

そしてド素人の「経歴3年のエンジニア」が開発現場で仕事をすることになりました。開発現場では当然、経歴3年相当の仕事が割り当てられます。詳細設計書を読みプログラムを作成するのが与えられた作業です。が、設計書に書いてある単語がよくわかりません。わけのわかんない記号も出てきます。そしてサンプルプログラムを見ても何がなんだか全くわかりません。当時のその「ありえない度」は例えるなら、幼稚園児に因数分解を解かせる位のことです。できるはずがありません。

しかたなく私は別のプロジェクトに参加していた会社の先輩に聞いたり、別の現場にいっている先輩に電話したり、近くの書店で本を買ったり、同じ開発チームの優しそうな方に教えてもらったり、なんとかごまかし取りつくろいながら仕事をしていました。どれだけ冷や汗をかいただろうか?きっと疑惑の渦中にある国会議員はこんな気持ちなんだろうな、と思っていました。

ところで、面接に同行した営業の方ですが、その後何度も「助けてコール」をしたにもかかわらず、現場にくることは一度もありませんでした。これぞ現代の野麦峠です。

以上の話は、今からおよそ10年前のことですが、基本的には今も同じような形で技術者派遣が行われているのが実態です。営業は数字を稼ぐため、1人でも多くの技術者を現場に潜り込ませるのです。開発現場で求めるスキルと技術者が所有するスキルの適性などを見ることは稀です。技術者にとって重荷になる仕事であっても数字になればどんどん現場に放り込まれてしまうのです。

小さな会社に所属しているエンジニアは「技術者派遣」によって仕事の場を与えられますが、精神的には非常につらい仕事です。





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最終更新:2009年03月29日 10:34