Ladder参加者動向に関する解析2(09.12.20)
目次
1.概要
2.データの取得
3.分析結果
3.1 参加者数
3.2 R分布
3.3 09.3.5から09.12.20までの間のR変化
3.3.1 09.3.5時点で既に存在したプレイヤーのR変化
3.3.2 09.3.5時点では存在しなかったプレイヤーのR変化
4.考察
1.概要
LadderとはWesnothの非公式レーティングシステムである.Ladderではここでプレイヤー検索を行うことができる.本稿ではLadderに登録されているプレイヤーのデータを分析することで,Ladder
playerのアクティビティなどに関する有用な情報を得ることを目的とする.本稿では2009年12月20日に取得したデータを分析した結果を用い,参加者のRやゲーム数の分布を分析した.今回の報告では,前回データ(09.3.5)との比較を行うことで,Ladder参加者の集団としての動向を分析した.
2.データの取得
LadderのPlayer
Searchの仕様は,前回報告時と概ね同様であったため,データ取得方法もそれに順ずる.
3.分析結果
3.1 参加者数
Player
Searchによって取得できるデータは,1試合以上行ったプレイヤーに限られる.前回取得したデータ数は1079であったが,今回取得データ数は1921であった.
3.2 R分布
Ladder全参加者のR分布をFig.
1に示す.前回分布を青色,今回分布を赤色で示す.また,分布の全参加者に占める割合(Frequency)をFig.
2に示す.参加者数がこの9ヶ月間でほぼ倍増していることが,Fig. 1の赤線は青線よりも上方に意向していることからもわかる.一方Fig.
2より,分布の形状は同一であることがわかる.このことより,新規参入者の増加と,それを踏み台にして高Rを得るプレイヤーの存在比は概ね一定であることが示唆される.最近Ladder上位層のRが上昇していることが観察されているが(出典),Fig.
2より,こうしたR上昇は参加者絶対数の増加によって引き起こされていると考えられる.
Fig. 1 全参加者のR分布.青線は09.3.5時点,赤線は09.12.20時点.
参加者数の倍増により,赤線は青線よりも上方に移行している.
Fig. 2 全参加者のR頻度分布. 青線は09.3.5時点,赤線は09.12.20時点.
分布の形状は同一であることがわかる
3.3 09.3.5から09.12.20までの間のR変化
09.3.5と09.12.20の両者のデータを比較することで,前回から今回までの間に各プレイヤーが何回試合を行い,その間にどれだけRが変化したかを解析することができる.
3.3.1 09.3.5時点で既に存在したプレイヤーのR変化
09.3.5時点で既に登録していたプレイヤー1079名が,09.12.20までの間にRがどのように変化したかを解析することができる.解析対象としては前回および今回の両方のデータにおいて共通に存在した1072名を使用した.7名はラダーからの除名およびその他の理由により検索によって発見することが出来なかった.前回から今回の間の試合数をΔgame,前回から今回の間のR変化をΔRと呼ぶ.上述の1072名について,ΔgameおよびΔRを算出し,ΔRごとに区分した結果をTable
1にまとめた.
前回から今回の間の試合数が0の732人について,Rが平均0.32増加しているが,これはR算出方法の変更にともなうRの変化が生じたためであると考えられる.試合数10までは平均ΔRの低下がみられるが,試合数10を超えると平均ΔRは上昇に転じている.すなわちこの9ヶ月の間にRが上昇している.また,試合数100以上のプレイヤーのΔR/Δgame値が1.31と,51試合~100試合の2.02よりも低いのは,勝率が悪いということよりもむしろ勝利時に得られるRが減少していることに起因すると考えられる.
Table 1 既存プレイヤーにおける,おのおののΔRを持つプレイヤー数と,それらのRの平均値,ΔRの平均値,試合数あたりのR変化の平均値(ΔR/Δgame)
Δgame | 0 | 1~5 | 6~10 | 11~50 | 51~100 | 100以上 |
人数 |
732 | 158 | 46 | 83 | 29 | 24 |
平均R |
1476 | 1479 | 1573 | 1647 | 1775 | 1919 |
平均ΔR | 0.32 | -17 | -4.2 | 36.0 | 144 | 204 |
平均ΔR/Δgame | 0 | -10.7 | -0.94 | 1.91 | 2.02 | 1.31 |
3.3.2 09.3.5時点では存在しなかったプレイヤーのR変化
09.3.5時点では登録していなかったプレイヤー849名に関して,登録時(R1500)から09.12.20までの間のR変化を解析した.試合数0の人数が0名であるのは,ラダー名簿に載るためには1回以上試合を行わなければならないことに由来する.試合数10未満(現在まで新人期間内)のプレイヤー数は632名で全体の約74%となり,Table
1の試合数0の732名(すなわち最近9ヶ月間プレイしていない,休止中プレイヤー)の割合とほぼ合致する.このことは,新規登録者のおおよそ7割が10戦未満で止めてしまうまたは休止するということを示唆している.勿論上記で上げた新人期間内の632名のうち,現在もアクティブなプレイヤーが存在することもあると考えられるが,一方で11戦以上行っているプレイヤーにpassiveなプレイヤーが含まれることもあるため,休止プレイヤーの割合はおおむね7割から大きく外れないと思われる.
一方で試合数11~50の146名は,Table 1とは異なり平均ΔRが負となっている.また100試合以上の31名の平均ΔR/Δgame値は,Table
1とは異なり高い値となっている.Table 2の成績はTable
1の場合と異なり,新人期間における成績を必ず含んでいることがこれらの原因であることが推察される.すなわち,100試合以上をこなすプレイヤー(とりわけ鼻息の荒い高Rプレイヤーを多く含むだろう)は,新人期間内にも連勝してRを荒稼ぎする傾向があり,それが1試合当たり平均獲得Rを押し上げている.一方で11試合~50試合(とりわけ,平均Rが1500前後の平凡プレイヤーを多く含む)は新人期間中に大きく負け越し,Rを低下させる傾向にある.Table
2にみられるTable 1との相違は,このような新人期間における成績を反映したものだと考えられる.
Table
2 新規プレイヤーにおける,おのおののΔRを持つプレイヤー数と,それらのRの平均値,ΔRの平均値,試合数あたりのR変化の平均値(ΔR/Δgame)
Δgame | 0 | 1~5 | 6~10 | 11~50 | 51~100 | 100以上 |
人数 |
0 | 513 | 119 | 146 | 40 | 31 |
平均R |
0 | 1467 | 1438 | 1478 | 1619 | 1823 |
平均ΔR | 0 | -32.2 | -61.6 | -21.1 | 119 | 323 |
平均ΔR/Δgame | 0 | -16.4 | -8.25 | -2.16 | 1.71 | 2.18 |
4.考察
3.3の時系列R変化および試合数の解析により,新規参加者のうちの多くは,数試合の敗戦ののちに休止するということが示唆された.一方3.2のR分布の時系列解析で,そのような敗戦プレイヤーと,それらからRを得て高Rを保持するプレイヤーの割合は一定となっていることが示唆された.これらの解析から,新参しては休止するプレイヤーと,継続的に活動しているプレイヤー,あるいは多数の低Rプレイヤーと一部の高Rプレイヤーが存在する,といったようなプレイヤー集団における構造性が示唆された.
こうした集団の挙動は,生態学で古くから研究されている個体数変動の理論のアナロジーとして理解することができる.すなわち捕食者と非捕食者が存在する系における両者の個体数変動を考え,数試合で休止するプレイヤーを非捕食者,継続的にプレイを行うものを捕食者に例えることが出来る.無論,Ladder
gameでは高Rプレイヤー同士がRを奪い合うことや,新規登録者同士が対戦することのほうが多い(というか,それが推奨されている).しかしながらそのような系においてRの流れを考えると,非捕食者(新規登録時の1500から,いくらか減じて休止するプレイヤー)から,捕食者(相手が誰であれ,一定以上の勝率を挙げることでRが増加するプレイヤー)へRの移動が起っていると解釈することができ,Ladder
gameはRを介した生態系を形成しているといえる.実際に,生物界においても,捕食者と非捕食者というような単純な構造ではなく多階層の構造から成り立っており,それらの間での炭素の移動を考えると,植物のような独立栄養生物から,それを捕食する草食動物,さらに草食動物を捕食する肉食動物や,肉食動物間にも大きさの大小により捕食・非捕食の関係があり,Rの移動を考えた場合と同様に,炭素を介した階層性が存在する.
生態学ではこのような生態系の挙動を解析するために,たとえばロトカ・ヴォルテラの方程式にみられるように,簡略化したモデルを考え,捕食者や非捕食者の増減関係を微分方程式で記述しシミュレーションによって挙動を解析するということが行われている.このことから,Ladderの新規登録者・高Rプレイヤーに関する挙動をロトカ・ヴォルテラの方程式に当てはめ,パラメータを新規登録者の割合,勝利時に得られるRなどとしてシミュレーションを行うことも可能である.こうしたシミュレーションを行うことで,系が破綻しないためにはどのような条件が必要か,といったことが明らかにできる.たとえば「新人期間中の勝利時や敗戦時のR増減を変更すると系全体にどのような影響があるか」などを予測することが可能となる.また,現状では3.2でみたようにR分布は一定で推移しているが,新規参加者数が増減するなどの変化が起こり,R分布に変化があった際に管理者側はどのように制度設計を行えばよいか,といった点に関しても,このようなシミュレーションは有益な示唆を与えると考えられる.
しかしながら,こうしたシミュレーションの実装に関しては,パラメータの当てはめなどを具体的にどのように表現すべきか,などの問題点も残る.今後の研究が待たれるところである.