瀬戸際


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 夏の午後は、磨き上げられた窓ガラスのように透明だった。
 太平洋の向うから波がざわめいて押し寄せる。
 千葉の九十九里浜に来ていた。
「泳がないのは損でしょ」
 冬実が唇をとがらせる。
 浜辺に赤、黄、青の色彩入り乱れたパラソルが並び、監視員のハンドフォンが時々うなりをあげる。
「いや、しかし」
 煮え切らないのは倉本だった。
 心情としては、僕自身も彼に同意だったが、口には出さなかった。「どこで何が起こるかわからないぜ。海に入ったままいなくなったら……」
 晴子が失踪してからというもの、倉本はかなり神経質になっている。
 鬱々としていても仕方がないから、気分転換をしよう、起こるかどうか判らないことを気にしてもしょうがない。
 そういったのは彼自身だったが、結局は周りがその言葉を実現させるために苦労している。
 冬実は健気だと思った。
 親友を失った衝撃から、一番最初に立ち直る役目を、自分に課した。
 僕も倉本も、いまだに事態を受け入れられずにいる。
「考えすぎじゃないかな」
 冬実にばかり負担をかけていられないと思った時には、言葉が自然に口をついていた。
 倉本が不安定なのはわかっていた。
 弱気な発言も、意図してのことではないはずなのだ。
「出来ることなんて、ないんだよな」
 おちつかなげに首筋をかく倉本に、僕も冬実もうなずく。
 まずはこちらの体勢を立て直す必要がある、昨晩、そう結論づけたことは、無駄ではなかった。
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