白髪婆


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 見慣れた風景の散歩道が、どういう気分の作用かぼやけた写真のように色彩のはっきりしない事がある。輪郭が水を落としたようにぼやけ、屋根の瓦と壁が混合し、電線は一本が奇妙な振幅で震えているようにも、二本三本に分裂したようにも見える。視覚だけではない、耳に入る音も毛布をかぶって聞こえるような漠然とした歪んだ波長だ。細ごまとした雑音はずっと遠のいて、ひどく間延びした車のクラクションばかり意識に届く。
 このような現象は一つの決まりきった予兆なのだ。水面に映じた都会に似た視界を虚心に眺め、古めかしいスピーカーから流れるBGMを聞く心地で変化を待つ。ゆっくりと事物が回転を始める。どこかで雨粒が水面に落ちる音がした。波紋が広がる。
 白髪三千丈の婆はゆっくり微笑んだ。優雅に髪をかきあげ舞うようにぐるり。
「ナズナの葉も最早足りぬでな。小金虫殿にも困ったもの。宿主のナズナ娘に惚れたは良いが、あれもこれも部屋を建てて独り占めしおる。ナズナ娘はペンペン三味線弾いて笑ったげな。身をよじって笑ったげな」
「白髪婆殿、お困りですか」
「我が髪かけて、道行く髪かけて、流れの狭間に人もまた、夜ばい恋うるも間々ならず、夢ちょう鳥の啼きやむる、朝に閉ざす心の根。――困ってはおらぬのよ」
「ナズナ嬢は小金虫殿と一緒になるつもりでしょうか」
「さ、て。ナズナ娘の嫁入りは小金じゃらじゃら鳴り響き、ノグサ連中の祝福もあるやもしれぬ」
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