もぬけのから

「もぬけのから」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

もぬけのから」(2008/12/22 (月) 20:09:51) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「最近、投げやりぎみじゃないか?」 「何が」 「世界のすべてがだよ」  波打った黒髪をわざとらしくかきあげた。気に障る男だ。  僕は、それを見ないふりをした。奴の顔から視線をそらした。  低い屋根の家が連なっている向こうに、風呂屋の煙突が見えた。 「わからない。世界のすべてを見たわけじゃないから」  ボソリと呟く。奴は唇の端をあげて、薄く笑った。  夕暮れの赤い光が、僕らを染めていた。絹のヴェールのように。  奴は悪魔的な美少年。僕は、そこらじゅうにいる、平凡な、ちょっと冴えない男。二十歳。  ああ。でも。不思議だ。奇妙だ。  きっと人間は、誰にも言えない奇妙な人生経験の一つや二つ必ず持っている。  日常平凡な、明るい世界の裏側を、時に、ひょいと覗き込んでしまうことがある。  僕の場合、それは散歩している時に。往々にして。前触れもなく。突然。 「もぬけのからなんだ」  すがるような声が出た。 「探しても探しても見つからない。僕が何をすべきなのかも。そして、おかしなことばかり起きる」  泣きそうだ。意味もわからず。なぜ、悲しいんだろう? そもそも奴は何者なんだ?  目の前の美少年は、首をかしげて、黙ったまま僕を見ている。その唇は、いまや一文字「まだまだってことだよ」  奴は言った。そして歩き出した。  僕はうなだれた犬のように後をついていくしかなかった。本当は、すごく嫌だったけれど。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。