※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



空調ダクトに潜んでから約一時間後。
ルアーボール、ムーンボール、ヘビーボール、スピードボール。
新型ボールのプレゼンテーションは恙なく進行し、デプログラムはいっこうにその効力を発揮する気配がない。
不安になってきた僕をよそに、真下のモニターからは、最後のプレゼンテーションを始めるアナウンスが聞こえてくる。
プレゼン方式は各開発部門のトップが成果を発表するというもので、都合、壇上の人間はボール毎に入れ替わることになる。
そして次に壇上に上がり、マイクを取ったらしい人間の声に、僕は戦慄した。

「ご紹介に与りました、ハギノです」

ハギノ。
オツキミヤマにおけるピッピ乱獲およびカントー発電所占拠の中心的人物。
システム幹部が何故ここにいる?
システム最高指導者たる管理者がレセプションの参加者に紛れている以上、
その護衛がついていることは予測の範疇だったが、
まさか"シルフカンパニーの人間"が直接システムに属していたなんて――。
「さて、お集まりいただいた皆様方には恐縮ですが、
 新型ボールについて説明する前に、一つ、閑話をお許しいただきたい」

ハギノは自身に満ちた声で語る。

「近年、ポケットモンスターの生態に変化が生じていることはご存じでしょうか。
 ええ、ええ、はい。その通りです。今そちらのご婦人が仰られたように、
 新種のポケモンが続々と発見され、旧種のポケモンの棲息圏と交わっていることも『変化』の一因です。
 しかし私が言いたいのは、既存ポケモンにおいて、突然変異種の発生や、
 修得する技の規則性に乱れが生じている、ということなのです。
 これはまだ第三者的な調査団体の裏付けを得ていない情報ですが、私は確信しています。
 疑いの眼を捨てきれない方も、この場には勿論いらっしゃることでしょう。
 そのため、私はこの場に、証拠を用意しました」

参加者の響めきが聞こえてくる。
ハギノが用意した物を、モニターを正面から見られない僕のために、社員が代弁してくれた。

「すごいな。ピッピとピクシーだ」
「かわいい~」
「いやいや、そんなことを言ってる場合じゃないだろう。
 もし暴れて場内の人間に危険が及んだらどうする?」

ハギノは朗々と響き渡る声で言った。

「場内の皆様、どうかご安心を。
 優秀なエスパーポケモンで何重にも防護壁を張っております故、危険は一切ありません」

コンコン、とガラスを叩くような音がした後に、

「ほら、このように」

響めきが収まる。ハギノは言った。

「……よろしいですかな。それでは御覧に入れましょう」



「………よろしいですかな。それでは御覧に入れましょう」

信じられない。
あの男が、ハギノが組織の人間としてシルフカンパニーと癒着していることは、ずっと前から予測できていた。
それが、こんな風に裏切られるなんて。

「どうした? 急に顔色が変わったなァ、ヒナタちゃん?」

TVに映るハギノの胸には、紛れもないシルフカンパニーの社員証があった。

「タイチ、分かる?」

タイチは苦しそうに身を捩って答えた。

「あぁ……あのオッサンだな……」
「なんだお前ら、ハギノさんのこと知ってるのか?」

驚いた様子のスキンヘッドに、

「どうして犯罪者が壇上に上ってるの?」

真顔で尋ねると、

「ヒャハハ、あの人もえらい言われようだな。
 何故って、あの人があの地位にいるに足る資格を持ってるからさ。
 俺たちはみーんな表の顔と裏の顔を持ってるんだよ。
 ついでに言っておいてやるが、ここを出てから告発しようなんて考えは捨てた方がいいぜぇ。
 ガキの言うことなんざシステムに簡単に揉み消されるんだからよォ」

スキンヘッドはせせら笑い、TVに視線を向け直した。
上司の"表"の仕事ぶりを見届けるつもりのようだった。
TVの中でハギノは、ピッピ二匹とピクシー二匹を目の前にして、エーフィを召喚した。
抗う意思を棄てていた四匹が、ハギノとエーフィを睨み付ける。
緊張した場内の空気を、

「この通り、私は彼らにすっかり嫌われているのです」

即興のジョークで緩めながら、ハギノはエーフィの耳と耳の間を撫でた。
きっとそれは、ハギノとエーフィの間でのみ通じる合図だったのだろう、
左端に居たピッピが「ピィッ」と小さな悲鳴を上げ、次の瞬間には"ゆびをふる"を発動していた。
ぶわっ、とピッピの体から白い胞子が舞い上がり、しかしそれらは場内に拡散することなく、無色透明の檻の中で、澱のように降り積もる。
ピッピは眠ってしまった。

「自分の技で眠っていては世話がありませんな」

再びジョークで場内を沸かせながら、ハギノは不意に表情を切り替えて言った。

「何名かの方々は既にお気づきでしょうが、
 今"指をふる"を発動したピッピは、本来その技を習得できるレベルに、まだ達していないのです。
 続いて、こちらを御覧いただきたい」

ハギノがエーフィの頭を撫でる。
今度は左端から二番目、大人に成長したピクシーが小さな悲鳴を上げて、ハギノに飛びかかろうとする。
それであたしは確信した。
エーフィが念力等の視認できない技を使って、ピッピやピクシーを刺激していることを。

「危ないところでした」

ハギノは余裕の笑みを浮かべて言った。
ピクシーの拳は透明の壁に遮られ、そこを中心としてピクシーを囲むような直方体の氷の檻を作っていた。

「シルフカンパニーのトレーナーが優秀で助かりました。
 ピクシーの"冷凍パンチ"もリフレクターと光の壁の重ねかけには敵わなかったようです。
 ……連れて行け」

袖から現れたトレーナーとケーシィ二匹が、
"指をふる"を発動させたピッピと"冷凍パンチ"を発動したピクシーの透明な檻に寄り添い、一瞬で壇上から消失する。
鮮やかな"テレポート"だった。そこで場内カメラは別視点に切り替わり、レセプション参加者を映し出した。
みんな、見せ物をみるような愉快げな表情で、壇上に視線を注いでいる。

「異常だな」

タイチの呟きに、あたしは全面的に同意だった。
カメラは再び壇上を映し出した。ハギノは言った。

「ピクシーが"冷凍パンチ"を使う。
 もしそのピクシーが裕福なトレーナーによって育てられているのなら、なんら不思議のない光景です。
 技マシンを使用することにより、ノーマルタイプのポケモンは特殊タイプの技を使うことができるようになるのですから。
 しかし、先程テレポートでこの場を去ったピクシーが、捕まえられてからそのまま手の付けられていないポケモンだとしたら、どうでしょう」

有り得ない――参加者の一人の発言に、ハギノは即答した。

「有り得るのです。
 事実、技の規則性は破壊され、本来自然には覚えないとされる技を、
 先天的に修得しているポケモンは、この世界に存在している。
 そこで私は問題提起したいと思います。何故このような事態が起りつつあるのか、と」

場内がざわめく。
ハギノの問題提起について高説を垂れるかに思えたスキンヘッドは、
さっきからずっと、あたしのモンスターボールを掌にのせて、冷や汗をかいていた。

「なぁオイ。お嬢ちゃんのピッピはいつもこんな風なのか?」
「こんな風ってどういうこと?」
「TVでピッピとピクシーの見せ物が始まってからずっとボールが震えてんだよ。
 まさか同族が虐められて怒ってんのか?ヒャハ―――」

馬鹿笑いが虚空に消える。モンスターボールが勝手に開いていた。

「ピッピ!!」

あたしの呼びかけを無視して、ピッピがTVに飛びつき、跳ね返って床に転がる。
それを何度か繰り返した頃には、スキンヘッドは平静を取り戻していた。

「びびらせんじゃねぇよ、クズが」

エビワラーの拳がピッピを捉える。
ピッピは壁に叩きつけられたあと、コロコロと転がり、あたしとタイチの間でぐったりと眼を閉じた。
眼の端には涙の跡があった。
――レセプションで見せ物にされているピッピやピクシーの中に、あたしのピッピのお父さんやお母さんがいるのかもしれない。
当たって欲しくなかった予感は、当たっていた。



「そこで私は問題提起したいと思います。何故このような事態が起りつつあるのか、と」

ハギノはその問題提起に対応する答えを持っているのだろうか。
オツキミヤマで出会ったピッピは、一般に定義されているレベルに満たないのに、"指をふる"を発動することができた。
僕はその事実に驚きながらも、真剣に謎解きに取り組もうとは思わなかった。
何千、何万分の一という確率で起こりうる突然変異種だと、安易な推量に満足していたのだ。
しかしハギノはそれが普遍化しつつあることを証明してみせた。

「ポケモンの能力に変化をきたす新型ウイルスの所為じゃないかな」
「そんなの有り得ないわよ。どこかのお金持ちが道楽で技マシンを野生ポケモンに与えてるんじゃないかしら」
「環境ホルモンが原因だって、絶対」

僕の真下で舌鋒鋭く論議するシルフ社員とは対照的に、
モニターの中にいる参加者が意見を述べる気配は無かった。
無知が露呈することを怖れているのかもしれない。
一分ほどの間をおいて、ハギノの声が聞こえてくる。

「答えに複雑なロジックはありません。自然科学の範疇で語ることのできる、実に単純な理由です。
 いいですか。ポケモンのみならず私たち人間にも与えられている、高等生物の特権、『進化』です。
 ここで注意されたいのは、私が指しているのが急激な外見の変化を伴うポケモン固有の『進化』ではなく、
 環境に適応し、絶滅の危機から逃れるために行われる遺伝的、本能的な『進化』だということです。
 オツキミヤマに棲息していたピッピやピクシーは、昨今の生態を顧みない過剰な捕獲によって、急激に数を減らしていた。
 妖精ポケモンという二つ名の通り、一般トレーナーが遭遇できる確率は低いが、発見されたが最後、自己防衛能力の低さからほぼ確実に捕獲される。
 逃げ延びるためには、生物として1ランク上の段階に進むしかない。
 かくしてピッピは先天的に高レベルの技を覚え、ノーマルタイプであるはずのピクシーが特殊系統の技を習得できるようになった。
 私はそう考えているのです。
 ポケモン協会が発表している最新のデータでは、ピッピ、ピクシーの個体数は安定していることが証明されています。
 以前は不等式で示される関係にあった繁殖数と捕獲数も、今では等式に書き換えることができるようになりました」

おぉ、と場内から感嘆の声が上がる。
しかし、ハギノの演説に全ての参加者が靡いたわけではなかった。

「広義における進化とは、生物が世代を経るにつれて次第に変化し、
 適応を高度化、およびその種類を増加させることだ。
 環境を変容させる急激な変化が起きた場合、大抵の生物は適応が追いつかずに絶滅する。
 オツキミヤマのピッピやピクシーが減少し始めたのはなにも数千、数百年前の話ではない。
 この数十年で新たな能力を目覚めさせたというのならば、それは最早進化ではない」

――自己防衛本能の暴走だ。
男の声に、ハギノは臆した様子もなく答えた。

「ご明察、ありがとうございます。おかげで私の台詞が省けました。
 その方が仰ったように、絶滅に瀕した生物の対抗策として、ポケモンのそれには眼を瞠るものがあります。
 そして問題なのは、これが愛らしく大人しいピッピに限った反応ではない、ということです」

そこで一拍間をおいてから、

「新資源の開発、建築、道路事業の発展に新たな土地は不可欠です。
 しかしそれらの事業に携わる者を悩ませているのが、野生ポケモンの存在です。
 実際、この場にも彼らに着工を阻害され、辛酸を舐めさせられた方がおられることでしょう。
 もし仮に彼らの防衛本能が、生活圏を侵そうとする我々人類に対して目覚めつつあるとすれば、
 それは我々人類の発展にとって大きな憂患となり得る。
 我々の常識を越えた能力を持つポケモンが、縄張りを奪い返すために人を襲う。
 恐ろしいことです」

気取った声がハギノを野次る。

「世迷い言を。ポケモンは所詮ポケモンだ。
 人類の繁栄を補いこそすれ、それを妨げるなど有り得ない。
 それよりも、私は新型モンスターボールの発表を聞くために遠路遙々やってきたのだが?
 この長すぎる前座に意味はあるのか?」
「大いにあります。もし前述した仮定が現実のものとなるのならば、
 我々はそれに対抗する術を持たなくてはならない。
 飼い慣らしたポケモンが野生ポケモンを駆逐できるうちは危機感もないでしょうが、それでも保険を用意しておいて損はないでしょう。
 そして我々が開発した新型ボール――BWボールはまさにその保険になりうると、私は確信しているのです」



――コンコン。
外側から堅く閉ざされた扉がノックされたのは、
丁度ハギノが新型ボールの名前を告げた、その瞬間だった。
スキンヘッドがTVを消して立ち上がる。

「誰だァ?レセプションが終わるまでここには誰も来ないはずだが……」

BWボールのBとWの意味を考えていたあたしは、
すぐに考えることをやめて、来訪者の反応に耳を澄ませた。

「タイチ」

小声で呼びかけて、

「ああ」

目配せする。誰かは分からないけど、助けが来たのかも知れない。
胸に希望の光が灯りかけていた。
タイチがエビワラ―から受けたダメージは、時間の経過である程度は回復しているはず。
モンスターボールの収納機能を壊してしまったピッピも、
それ以来、金属製の拘束具で両手の動きを封じられているけど、体当たりくらいならできると信じたい。
けれど、扉の向こうから聞こえてきたのは、

「上からの伝達だ。扉を開けろ。
 ガキ共に盗み聞きされたくないのでな」

あたしたちの希望に蓋をする、無情な声だった。
「へいへいっと」

あたしはせめてドアの開かれる瞬間に、
体の小さなピッピだけでも逃げられないかと考えたけど、
ピッピは肉体的にも精神的にも傷ついていて、あたしの意図を読み取ってくれなかった。
スキンヘッドがドアノブに手をかける。

「で、上からの伝達ってのは―――」

扉の隙間から姿を覗かせた偽医者の頭には、何故かハクリュウが浅く牙を突き立てていて。

「ご機嫌よう」

その背後から現れた黒髪の美女が、妖艶な微笑を浮かべて言った。

「二人を返してもらえるかしら?」
「エ、エビワラー!!」

顔面を引き攣らせたスキンヘッドが叫ぶ。すかさずエビワラーが美女とスキンヘッドの間に飛び込み、

「"噛み砕く"」

次の瞬間には、拳をワニノコの鋭利な歯に噛み砕かれていた。
黒髪の美女は屈み込み、足許で待機していたパウワウに告げた。

「"冷凍ビーム"」

激痛に悶えているエビワラーにそれが躱せるはずもなく、瞬く間に氷の像が一体できあがる。
スキンヘッドの手がベルトを探ったところを、間断なくワニノコが"水鉄砲"で狙い撃つ。
ボールが部屋のあちこちに散らばる。
水に押されて尻餅をついたスキンヘッドは、その姿勢のまま後ずさり、やがて壁に行き当たって震え始めた。

「待て、待てよおい、なァ、まさか無抵抗の相手に攻撃したりしねえよな?
 俺の手許にはもう一つもボールがねえんだ。分かるだろ?
 防衛手段のない人間相手にポケモンで攻撃するのは重罪なんだぜ、
 ヒャハハ、ハハ、あんた犯罪者になりてえのか、違うだろ、なあ、やめろ、」
「黙りなさい。見苦しいわよ、あなた」

黒髪の美女はハクリューの鰭を撫でながら、

「"破壊光線"で終わらせてあげる」

事実上の死刑を宣告した。
ハクリューの正面に光の粒子が収斂していく。
そうして次の瞬間、

「なーんてね?」

黒髪の美女は高貴な雰囲気を自らぶち壊し、カエデの表情を覗かせた。
あまりの恐怖のために気を失ったらしいスキンヘッドを指さして、
「騙されてやんのぉー、この子が"破壊光線"撃てるわけないしー、こんなとこで撃ったらビル壊れちゃうしー」と嘲笑したのち、
無言であたしたちの方に近づいてきた。

「カエデ……」
「……どうしてここに?」

カエデはタイチの質問を聞き流して、

「二人とも、怪我はない?」

二人揃って頷く。
手首に何か触れたような気がしたかと思うと、両手の自由が利くようになっていた。
ワニノコのおかげだった。噛み切られたプラスチック式手錠を払い落としつつ立ち上がる。
タイチも普通に動ける程度には回復しているようだった。
「迎えにいけなくて悪かった。
 エアームドの翼が折れて、それが中々完治しなくて……」
「いいのいいの。あたし、タイチくんのこと信じてたから。
 何かトラブルがあって、その所為ですぐに迎えにこられなくなったんだろうなあって。
 だから全然気にしないで。ね?」

天使の微笑みを浮かべてそう言った次の刹那に、
タイチの死角で悪魔の形相を浮かべたカエデがあたしにだけ聞こえる声で囁く。

「な に も な か っ たん で し ょ う ね ?」
「え?」
「あ た し の い な い 間 に タ イ チ く ん と の 間 に 何 も な か っ た ん で し ょ う ね ?」

きゅっ、と心臓が痛む。
もしも、不可抗力とはいえ、ポケモンセンターで数日夜を共にしたことを告白したら、
カエデは躊躇いなく"破壊光線"をあたしに見舞うに違いない。カエデ自ら。

「カエデが心配するようなことは何もなかったわ」
「ホントに?」
「本当よ」
「ホントのホントに?」

タイチの言うことは素直に信じられても従妹のあたしの言うことは信じられないわけね……。
あたしは項垂れて言った。

「だから、本当だってば」
「抜け駆けは許さないんだから」
「抜け駆けって……」

あたしにはそんな気ないわ。そう言おうとしたのに、何故か声にならなかった。

「と、ところで、カエデはどうやってここに来ることができたの?」
「そもそもどうやってヤマブキシティに来たんだ? まさか一人で歩いてきたのか?」
「んーっとね、ママと一緒に来たの」
「アヤメおばさまと? どこで合流したの?」
「タイチくんが来るのを待ってる間、退屈だったからデパートに通ってたんだけど、
 偶然、そこでママとサクラ叔母さんを見かけてー、
 しかも二人ともヤマブキシティに向かう途中の寄り道だって言うから、もうビックリよ。
 ヒナタとはぐれた事情は暈かして、ヤマブキまで一緒に連れて行ってって頼んだの。
 タイチくんと行き違いになるのが怖かったけど」
「ちょっと待ってくれ。確かカエデのお母さんてハナダジムのリーダーだったよな?
 ジムを休んでまでヤマブキシティに来た理由は何なんだ?」

これよ、と床を指さすカエデ。
意味の分からなかったらしいタイチの代わりに、あたしが言った。

「このレセプションに、アヤメおばさまも参加しているのね?」

カエデが頷く。
新型モンスターボールの発表会には各界の著名人が多数参加する。
そこにポケモントレーナーの象徴とも言えるジムリーダーが招待されていると、どうして考え到らなかったんだろう。

「なあカエデ、ジムリーダーが招待されてるってことは、もしかして俺の親父も――」

カエデは分かり易く肩を落としていった。

「探したけど見つからなかったわ。多分、来てないと思う。
 参加は強制じゃないから、ジムの仕事を優先したければ、来なくてもいいの」
「ということはエリカさんも……」
「来てないでしょうねー。ジムと会社の仕事で手一杯のエリカさんが、タマムシシティを離れられるとは思えないし。
 その点、うちのママは小旅行大好きだから、大喜びで招待を受けたみたい」
あたしは不意に、あたしやタイチよりも早くヤマブキシティに旅立ったタケシさんのことを思い出した。
もしかすると、タケシさんもこのレセプションに参加していたのかもしれない。
余裕のなかったあたしやタイチが気付かなかっただけで……。
けど、その想像が正しいとして、タケシさんはどうしてそれをリュウジに教えなかったんだろう。
あたしはその小さな疑問を胸に仕舞いつつ、カエデに尋ねた。

「ヤマブキシティに着いたのはいつ?」
「たしか三、四日前、だったわね」
「どうしてすぐにあたしたちと合流してくれなかったの?」

こうしてカエデに助けてもらえたのは別行動していたが故だけど、
何故、ヤマブキシティに着いた段階で連絡してくれなかったのか、分からなかった。
カエデは憤慨して言った。

「しなかったんじゃないってば。出来なかったの。
 あんたとタイチくんがポケモンセンターにいるのは予想がついてたんだけど、
 いかんせん、この大都会には馬鹿みたいにポケモンセンターが充実してるでしょ?
 手当たり次第、電話で宿泊記録に二人の名前があるかどうか聞いてみたんだけど、
 個人情報がどうとかで教えてくれなくて、為す術ナシ。
 超絶鬱に浸ってたら、サクラ叔母さんがやってきて、
 自分の代わりにママの付き添いでレセプションに参加する?って言ってくれたの。
 サクラ叔母さん、あたしには超優しいのよねー。
 このドレスもサクラ叔母さんに借りたの」

似合うでしょ?とカエデが華麗にターンする。
インディゴブルーのショートドレスが翻り、それに合わせるように、黒髪が流れる。
けれど一周したカエデの表情には、ほんの少しの翳りが見えた。

「ママには反対されたんだけどね」

温厚で優しいアヤメおばさまが、カエデの同伴を拒むとは思えなかった。

「どうして?」
「さあ。あたしみたいな小娘に社交場は早いとでも思ったんじゃないかしら。
 まあ、最終的にはサクラ叔母さんが説得してくれて、何とかなったけど……」
「ほらよ、ヒナタ」

ボールを選別していたタイチが、あたしの分を放る。
そして自分の分をベルトに装着しながら、

「カエデはどうして俺たちがここに閉じ込められていることが分かったんだ?」
「それは、ヒナタがあたしの名前を勝手に使ってたから」
「どういうこと?」

カエデは不愉快そうに眼を細めて言った。

「レセプション開始のアナウンスが流れる前のことよ。
 あたしに寄ってくる男のほとんどが、あたしの名前を聞いた後にこう言うの。
 つい先刻、奇しくもあなたと同じ名前の女性と話をしてきてところです、って。
 偽名使うならもっとありふれた名前使いなさいよね、馬鹿ヒナタ」
「ご、ごめんなさい」
「とにかく、それの所為であたしは、もしかしたらこの場にヒナタとタイチくんがいるかも、って期待して、ずっと場内に視線を走らせてたわけ。
 そしたら照明が暗転した直後に、会場から出て行こうとする人影が二つ見えたから、思わずその後を追ったの。
 二人の知り合いだって言ったらボーイはすぐに医務室があるフロアまで案内してくれたわ。
 でも、そこからが問題。医務室に来たはいいけど、どこにも二人の姿がないの。
 お医者さんに聞いても誰も来てないって言うし、あたしは一旦そこで引き下がったの。
 あたしの見当違いで、二人は全くの別人かもしれないとも思ったわ。
 でも、考えれば考えるほど、あの医務室が怪しいように思えてきて――」

ハクリューにかぶりつかせたの、とカエデは小悪魔的な笑みを浮かべた。
かぶりつかせた?
大胆、なんてレベルじゃない。
結果的に勘は当たっていたから良かったけど……。
もし外れていたらどうお詫びするつもりだったのかしら。

「カエデらしいな」
「でしょでしょ。
 ところでタイチくんとヒナタはどうやってレセプションに参加したの?」
「それは、」

話せば長くなるからまた後で、とあたしが言おうとしたとき、

「がうがう……」

ワニノコが困り果てた様子で主を呼んだ。
ピッピの両手の自由を奪っている拘束具は頑丈で、ワニノコの鋭い歯も通用しないようだった。