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「そんじゃあ次は俺たちの番かな」
「ニャースに比べるとつまんないかもしんないけどね」

ムサシとコジロウが、顔を見合わせて穏やかに笑う。

「ピカピィ?」

てっきり、君たち二人もペルシアンと同じく出世街道を歩んだとばかり思っていたのだが?
コジロウが取り出した身分証明書に看護婦さんは目を丸くしていたしね。

「まあ、幹部に昇進する話はあったにはあったんだけど……」
「それが決定される直前に、あんたの元飼い主がロケット団を潰しちゃって……」

ムサシは遠い眼をして言った。

「白紙になった上に焼却処分された、って感じよね」
「ピ………」

……それは悪いことをしたな。
僕が過去にしたことは社会的にとても評価されていることなのに、
こうして元ロケット団員の、それも馴染み深い相手の声を聞くと妙な背徳感に襲われる。

その後は?――そう尋ねようとした時、ペルシアンが一口に言った。

「その後、婚期を逃した二人は相棒の関係をちょっとだけ進展させて、
 養子を貰ってその子を育てつつ、その他にも新たな人材育成に貢献しましたとニャ。
 めでたしめでたし……ニャアァッ」

ボコ、と嫌な音がペルシアンの頭上で響く。

「ちょっと、勝手に終わらせてんじゃないわよ!」
「ピ、ピカピ……?」

け、結婚していたのか? それに養子って……。
ペルシアンが涙声で通訳すると、コジロウは照れくさそうに鼻の頭を掻きつつ、

「いや、籍は入れてないんだ。
 俺とムサシは相棒のままでいいんじゃないか、って二人で相談して決めたんだよ」
「ほんと不器用だニャ。素直に結婚すれば良かったのにニャー」
「お前は黙ってろっ」

ボコ、と再び嫌な音が響きペルシアンが沈黙する。
ムサシは目頭を押さえながら言った。
順序立てて説明するつもりが、ペルシアンに邪魔されて混乱しているのだろう。

「養子って言っても、孤児を引き取って育ててあげただけよ。
 15の時には自立して、今はボスの下で立派に働いてるわ」
「といっても、育ての親には連絡の一つもよこさない馬鹿息子さ。
 タマムシで元気にやってるって昔の仲間に聞いて、安心するくらいだよ」

「ピ、カ……」

ちょっと待ってくれ。
一度に入って来た情報が多すぎて混乱する。
ニャースがペルシアンに進化しサカキの手元に置かれたのはまだ納得できるが、
ロケット団を解雇されたムサシとコジロウが、
籍を入れずに共に生きることを決め、立派に養子を育て上げていただって?
君たちには悪いが、

「おミャーら二人にそんな甲斐性があるようには思えニャいと言ってるニャ」

おいペルシアン、僕はまだそこまで言っていないんだが。

「むっ」
「失礼ね」

ムサシとコジロウが、それぞれ僕のほっぺたを摘む。
そしてその伸縮性をいいことに、

「あたしたちにも子育てくらいできますよーだ」
「そうだそうだ。馬鹿にすんな」

ぎゅうぎゅうと引っ張り始めた。

「ピィーカァー」

待て待て、自分で言うのもなんだが僕は病床の身なんだぞ。

「うるせぇ。どうせロクにポケモン育てられない俺たちが
 子供を育てられるわけがないと思ってたんだろ?」
「そりゃまあ最初は苦労したわよ」
「でも軌道に乗ったら結構楽しいもんだったぜ」
「あんな小生意気に育つとは思ってなかったけどね」
「誰に似たんだろうなあ」
「それ嫌味でいってんの?」

懐古に浸りながら、僕の頬を引っ張る力の加減を失っていく二人。

「そろそろ終わりにするニャ」

一閃。ペルシアンの爪が、二人の手の甲を浅く引っ掻く。

「「ぎゃっ」」
「いってぇなあ」
「急になにすんのよー」
「ミャーたちが潜入前に約束したことを復唱するニャ」
「隠密行動を心がけ……」
「ピカチュウの容態を確認した後……」
「痕跡を残さず静かに立ち去る……」
「全っ然守れてないニャ。
 確かに久ぶりの再会でミャーも舞い上がってたニャ。
 でも、いい加減に撤退しないと不味いことになるニャ」

しゅん、とムサシとコジロウが項垂れ、
パイプ椅子を元あった場所に戻す。
ペルシアンが注意しなければそれこそ限界まで長居するつもりだったのかもしれない。
「目的は達成したわけだし」
「これ以上は蛇足よね。あたしとしては思い出話に延々浸っても良かったけど……」

看護婦さんが荒らした医療器具を片付ける二人を尻目に、僕はペルシアンに尋ねた。

「ピカ、ピーカ?」

君たちとはまた会えるのかな。

「会えるニャ。特にミャーとは、ピカチュウが予想しているよりもずっと早くに会えると思うでニャースよ」

解体されたロケット団のその後や、
あの施設の全貌、そして今僕が何処にいるのかは、
追々サカキが――君にとってはボスが馴染み深いか――が教えてくれるんだろうね。

「時期がくれば解るニャ」

ペルシアンは優雅に尻尾を揺らしながら窓際に寄り、ムサシとコジロウの真ん中に収まった。

「じゃあな、ピカチュウ」

コジロウが揃えた二本の指をこめかみから僕の方へ振り、

「しっかり療養しなさいよ」

ムサシが頬の筋肉を引っ張るようなウインクをし、

「………やれやれニャ」

ニャースが疲れ切ったような声を上げて、窓の外に飛び降りて行った。
ムサシもコジロウも心は若かりし頃のままなのだろう。
ペルシアンは自覚しているみたいだが……と、かく言う僕も結構な年齢だったな。
人間の年齢に換算すると30を過ぎた辺りだろうか。
……そういえば、サトシもそれくらいの年齢だ。
彼の老けた顔など想像もできない。
僕の脳裡には元気いっぱいの少年期の彼がそのまま保存されている。
彼の脳裡には僕はいったいどんな風に保存されているのだろう。
いや、もう保存されていないか。
例え、再びどういうわけか外見に老いが見られない僕を見ても、
彼は僕を「僕」だと解らないかもしれない。
そう考えたほうが自然だ。

――コン、コン。

感慨に耽る僕の耳に、小気味良いリズムのノックが響く。

「入るぞ」

返事をする暇もなく開扉される。
何のためのノックだったんだろうなと思っていると、
サカキは悠然たる足取りで僕の側に立つと、おもむろに僕の頬を摘んだ。

「ふむ。柔らかい」

そりゃ柔らかいだろうね。

「あ、いいな……」

後ろで縮こまっていた看護婦が思わず声を漏らす。
なんなんだこの空気は。
サカキは僕の頬の伸縮性を堪能した後、厳かな声で言い放った。

「お喋りは楽しかったか?」

僕は首肯した。
看護婦は退室した後、真っ先にサカキの元へ報告に行ったのだろう。
サカキは重い腰を上げたものの、
部屋の前で、三人組が自ずと立ち去るのを待っていた。
彼らの気持ちを汲んだのだ。

「私とて感動の再会に水を差すほど空気の読めない男ではない。
 また奴らの越権行為に関しても目を瞑ってやろうと思う。
 だが、お前自身よく分かっているだろうが、
 お前は未だ万全とはほど遠い状態にあるのだ。
 今は療養に専念しろ。次に報告を受けたときは然るべき処分を奴らに下す」

分かったな、と視線で釘を刺される。

「ピィ……」

僕は頷きを繰り返しながら、微弱電流をサカキの指に流した。

「………」

微動だにしない。もう一度。

「………」
「チュ……」

いや、離せよ。





手の甲で目を拭って、立ち上がる。
夕陽はとうに落ちて辺りは薄暗くなっていたけど、不思議と怖くなかった。
最後に思い切り泣いたのはいつかしら。
思い出せない。
涙は心の中に溜っている後悔や悲しみや怒りを洗い流してくれる。
誰かがそんなことを言っていたのを思い出す。
本当にその通りだと思った。

「ピカチュウのことは、今は諦める」

ほら。
こうやって口に出しても大丈夫。
あたしが泣いてすっきりしたところで、
それは感情の整理がついただけであって、
ピカチュウが囚われている現実は何も変わらない。
けど、前に進むことはできるようになった。
落ち着いて今あたしに出来ることを見つめ直せるようになった。
バッジを集めて、
ポケモンリーグの参加資格を得て、
セキエイ中枢のコンピュータに登録されたお父さんの情報を知る。
あたしが今持っているバッジは五つ。
次に目指すのは、ヤマブキシティジムのゴールドバッジだ。
またゴールドバッジを手に入れると、あたしはレベル70までのポケモンを強制的に従えられるようになる。
つまり、ゲンガーの暴走を押さえ込むことができるようになる。

「さ、帰ってヤマブキシティに向かう準備しなくちゃ」

お尻についた枯れ草を払って、暗い足下に注意しながら丘を下る。
今夜と明日一日を出発準備に当てて、
そのあいだに、カエデに冷たくした埋め合わせをしよう。
ピッピやスターミーをポケモンセンターに預けて、軽く体調を見てもらっておこう。
予定を立てながら、墨を流し込んだみたいに暗いサファリパークを眺める。
園内の常夜灯が放つ仄かな明かりが、豆粒みたいに小さく見える重機を照らしていた。
……タケシさんの言うとおり、工事の進捗状況は芳しくないみたいね。

「早く諦めればいいのに」

あたしは溜息をついて、足を早めようとした。
その時だった。

―――くぅん。

肌が粟立つ。
一気に動悸が激しくなる。

―――くぅん。

幻聴じゃない。
ガラスを震わせたような澄んだ音。
あたしの耳に刻み込まれたその音が、サファリパークに広がる闇のどこかから、
ともすれば夜風に掻き消されてしまいそうなか細さで聞こえてくる。
あたしは泣き腫らした目をいっぱいに開いて、広大なサファリパークの敷地を見つめた。
それは一瞬の出来事だった。
常夜灯とは決定的に違う炎の玉が暗闇を払い、すぐに暗闇に飲み込まれる。
錯視じゃない。大きく開いた距離の所為でどんな技かまでは分からなかったけど、
あの火の玉は確かにポケモンの技で、自然に発生したものじゃない。
気付けば、無我夢中で駆けだしていた。

「アヤだわ……!!」

例え全てがあたしの夢幻なのだったとしても、確かめずにはいられなかった。
どうして立ち入り禁止のサファリパーク園内にアヤがいるのか。
どうしてキュウコンを出して技を使っているのか。
そんなことはどうでも良かった。
あれだけ納得したつもりでいたのに。
あれだけ未練を断ち切っていたつもりでいたのに。
今のあたしの頭の中からは、
アヤを捕まえてピカチュウの行方を問い質すこと以外に何もなくなっていた。

「はぁっ……、はぁっ……」

サファリパークの入場口で、あたしは立ち尽くしていた。
鉄扉はいつか来たときと同じように堅く閉ざされていた。
工事中の看板の文字は濃くなった暗闇に覆われて読めなくなっていた。
息を切らして入場口を見上げるあたしを、時々通りすがる人が不審そうな目で眺めていく。
どうすれば中に入れる?
管理局の人にお願いしてみるというのは?
ダメ……仮にもジムリーダーのアンズちゃんが申し出ても無理だったのに、一介のトレーナーのあたしが入れる訳がないわ。
侵入するというのは?
それもダメ……どこから侵入すればいいの。
正面からは論外だし、サファリパークを囲うように巡らされた高い鉄柵は鳥ポケモンの"空を飛ぶ"ぐらいでしか乗り越えられない。
自問自答を繰り返しても、妙案は思い浮かばない。
こうしている間にも、アヤは――あのキュウコンの持ち主がアヤだという保証はどこにもないけど――どこかに行ってしまうかもしれない。
焦りだけが先行する。あたしはしゃがみこんだ。
どうすれば?
どうすればいいの?

「あり? ヒナタさんこんなとこで何やってるんですかあ?」
「うわっ、すっごい偶然~。今はカエデさんは一緒じゃないんですかあ?」
「あ、あんたたちは……」

果たして自転車に跨って颯爽と現れのは、
サイクリングロードで出会ってセキチクまでの旅を共にした、
あの金髪と茶髪の女の子二人組だった。
「あ、あんたたちこそ、こんなとこで何やってんのよ?」
「こんなとこでって、ここ地元だし。ウチらは今から飯行くとこなんですけど、ヒナタさんも一緒します?」
「ありがと、でも今はそれどころじゃなくて……」
「あーっ」

金髪ロングが、こっちがびっくりするような大きな声を上げる。

「もしかしてヒナタさん、サファリパークに忍び込もうとか考えてたんじゃないですかぁ?
 キャハハ、図星でしょー?」
「う……」

茶髪ショートが金髪ロングの脇腹をつつきながら、

「んなわけないじゃん。夜のサファリパークがヤバいのはヒナタさんも解ってるよ。ですよね?」
「ごめんなさい。何がヤバいのか教えてもらえないかしら?」
「いやだって……暗くて視界が制限されるし、元々サファリパークには夜行性のポケモンが多いから、
 そういうの刺激したらマズいことになるじゃないですか。
 だから仲間内でも夜には忍び込まないことにしてるんですよ」
「夏にも肝試しと腕試し兼ねて深夜に忍び込んだ馬鹿が数人死んでるしぃー。
 ま、要するに夜のサファリパークに一人で入るのは自殺行為ってことっすね」

サラリと怖いことを言う金髪ロング。
でも何故だろう、そんな物騒な話を聞いてもなお、あたしの心は揺るがなかった。

「ねえ、さっき仲間内でも"夜には"忍び込まないことにしてる、って言ったわよね?」

自然と威圧的な語調になってしまう。
茶髪ショートは何か失言したのかと、目を瞬かせながら答えた。

「え、ええ、言いましたけど?」

「ということは、日中なら忍び込んでるの?」

金髪ロングが強張った笑みを浮かべながら間に入ってくる。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ。
 ヒナタさんて、サファリパークの不法侵入に目を瞑れないほど
 お堅い人じゃないでしょ?
 サファリへの侵入なんて誰でもやってることだし、そんな怒らなくったって――」
「案内して」
「ふぇ?」
「今すぐ忍び込める場所に案内して。お願い!」

数分後、あたしは茶髪ショートの自転車の荷台に乗せてもらって、
二人がいつも使っているという秘密の抜け穴に案内してもらった。
真っ暗闇の木立の奥に進んでいくと、サファリパークとセキチクシティ居住区を隔てる鉄柵が見えてくる。
しかしそこの鉄棒は数本が押し広げられて、人一人がなんとか潜り抜けられるようになっていた。

「もう一回聞きますけどぉ、マジで入るんですか?」
「明日の朝まで待ちません? 夜はマジでヤバいんですよ?」
「心配してくれてありがとう。でも、今じゃないと意味がないのよ」

アヤが明日の朝まで待ってくれるとは思えない。
茶髪ショートは神妙な面持ちで、

「危ないと思ったらすぐに引き返して下さい。
 この鉄柵を抜けるとすぐに一際高い常夜灯があるので、
 サファリパークを歩いているときはいつも、その常夜灯を視野に入れるようにしてください。
 そしたら迷いませんから」
「ありがとう。お礼は次に会ったときにするから」
「やめてくださいよぉ。なんかそれ、ヤです。
 それがあたしたちが聞いたヒナタさんの最後の言葉だった――みたいな感じになりそうで」

金髪ロングが混ぜ返す。
おかげで少し緊張が解れた気がした。

「無茶はしないでくださいねーっ」

不安げな声を背に、あたしは身を縮めて鉄柵を潜り抜けた。
鉄柵の向こうも小さな木立になっていて、とにもかくにもそこを抜けなければまともな視界が手に入らない。
あたしはペンライトの明かりを頼りに茂みを抜けた。
そしてあの二人が連呼していた「夜のサファリはヤバい」という言葉の意味を思い知った。

夜の海に一人取り残されたような孤独感と、
狭い部屋に閉じ込められたような閉塞感が一緒になってやってくる。
丘の上からの俯瞰とは全然違う。
常夜灯なんて、その周りを薄朦朧と照らしているだけ。
明かりが届かないところでは生い立つ草木が視界を邪魔する上に、
暗闇の所為でほんの数m先を見通すことができない。
そこに何もないと分かっていたら、迷いなく歩を進めることが出来るだろう。
でも、もしそこに凶暴な野生ポケモンが潜んでいたら?
サファリパークのポケモンのレベルはそう高くないと聞いているけど、
集団になって攻撃されたら、あたしのスターミーやピッピは一溜まりもなくやられてしまう。
アヤとキュウコンはどこにいるのだろう。
鳴き声はあれきり聞いていない。
――もういなくなってしまったのかも。
ううん、いる。絶対にアヤはこのサファリパークにいる。
あたしは頭を振った。一緒に弱気な考えも振り落とした。

「慎重かつ大胆に行きましょう」

とりあえずは常夜灯を伝って、重機の群れを目指すことにする。
ペンライトを腰のベルトに向ける。
この子たちを使う機会が、一度きりであればいいのだけれど……。
そうはいかなかった。

「スターミー、"妖しい光"で混乱させて」

スターミーのコアが鈍い赤の光を放つ。
低い唸り声で威嚇していたニドランは、見当違いの方向へと駆けていった。
初めてサファリのポケモンと出会って、それを追い払って以来、
あたしはスターミーとピッピを外に出したままにしていた。
ポケモン召還時、格納時にボールが発する閃光で、
眠っている野生ポケモンを刺激してしまうと思ったからだ。

「絶対に騒いじゃダメよ?」
「……ぴぃ」

普段はわんぱくなピッピも、今は静かに後背の警戒を担当してくれている。
ほどなくしてあたしたちは重機の群れに辿り着いた。

「誰も見てない……わよね」

人の気配がないことを確認してから、油圧ショベルの上に勢いよくよじ登る。
ああもう、こんなことならスカートじゃなくてジーンズを穿いてくれば良かった。
束の間の俯瞰視点。
火の玉を見た辺りに視線を這わせてみても、同じ色をした暗闇が広がっているだけ。
流石に同じ場所に留まっているわけがないか。
せめてもう一度、あの薄いガラスを震わせたように綺麗なキュウコンの鳴き声を聞くことができたら、
大体の方角を掴むことができるのに――。
あたしは油圧ショベルから降りようとして屈み込み、

「……えっ………」

赤い目が二つ、弱々しい光を灯してあたしを見上げていることに気付いた。
いつの間に近づかれたんだろう。
反射的に構えてはみたものの、
攻撃してくるつもりはないみたいで、あたしは落ち着いて図鑑を取り出した。

「――コンパン――昆虫ポケモン――身を護るために細く堅い体毛が全身を覆っている―――
 高度に発達した複眼を持ち――暗闇の中でも獲物も見逃さない―――」

「何よ。暗闇の中の獲物ってあたしのこと?」

スカートの裾を絞って飛び降りる。
品位ある女性にあるまじき蛮行だけど、誰も見てないから大丈夫。
さてと、あなたは一体あたしに何の用なのかしら?

「ぴぃっ?」

ピッピがあたしの前をまるでボディーガードのように胸を張って歩き、コンパンと対峙する。
威勢と背丈が釣り合っていないところが可愛い。
コンパンは身をゆっさゆっさと左右に振り、
サファリパークの奥地に視線を投げかけた。

「………?」

何かを伝えたがっていることは分かるんだけど。

「きぃ、きぃ」

弱々しく鳴いたコンパンは、最後に横に一回転しつつ大きく飛び跳ねると、ぽさっと地面に倒れ伏した。
ピッピが恐る恐るコンパンに触れる。動かない。

「嘘……、倒れるのもジェスチャーの一つじゃなかったの?」

あたしは慌ててコンパンに近寄った。
そしてその背中の針金のような体毛が無残に焼け焦げているのを見た。

「……酷い」

あたしは無意識のうちにコンパンに触れていた。

「ッ……」

尖った体毛が手に刺さるのを無視して、
体毛を掻き分け、特に火傷の酷い皮膚の部分を、傷薬で応急手当する。
あたしは気絶したままのコンパンを油圧ショベルの座席に乗せてあげた。
野生ポケモンは本来、人間や人間の痕跡がある物を嫌うから、
これで少しは他の野生ポケモンに襲われる危険が減るはず。

コンパンが火傷を負った理由は、考えるまでもなく炎タイプの技を受けたからだろう。
サファリパークに炎タイプのポケモンはいない。
その技を放ったのは、外部のトレーナーが持ち込んだポケモン――即ちアヤのキュウコンということになる。
でも、どうしてアヤがこのコンパンを傷つけたのかが解らない。
捕まえるために弱らせるならまだしも、
あのコンパンは捕獲されずにいたし、そもそもキュウコンという強力なポケモンを従えているアヤが、
サファリレベルのポケモンを捕まえようとするとは思えない。
あたしは悩んだ末に、コンパンの複眼が指し示していた方向に進むことにした。
ペンライトの明かりが、煙を燻らせる茂みの真ん中に倒れ伏したニドリーノを照らし出す。
これで何体目だろうか。
傷薬はとっくに尽きてしまっていて、あたしは為す術もなく、そのニドリーノを見て見ぬふりをするしかなかった。

「ごめんね」

自然に治癒することを祈って、歩を進める。
コンパンの指し示した道には、コンパンが受けた火傷と同じくらい、
もしくはそれ以上に酷い火傷を負ったポケモンが何の法則性もなく倒れていた。
これだけ炎タイプの技を使った痕があるのに、
いずれも火事に発展していないという事実には、流石と言うべきなのだろうか。
アヤの目的がますます解らなくなっていく。
あの子のことは全然知らないけれど、ポケモンを傷つけて快楽を感じたりするようなトレーナーではないと思う。
でも同時に、あの子はポケモンに対する思いやりを欠いていて、
野生のポケモンを傷つけることに何の躊躇いも持たないだろうな、とも思う。
自然と駆け足になる。

「早く止めなきゃ……!」

火傷を負った野生ポケモンを辿っていくうちに、
あたしの中で、アヤを追いかける理由が変っていった。
あの子を止めなきゃ。何の罪もないポケモンが火傷を負う前に、アヤを止めなくちゃ。
茶髪ショートと交わした約束はとっくに破ってしまっている。
今、自分がサファリパークのどこにいるのかさっぱり分からない。
でも、なんとなく自分がエリアの境界線上に向かっていることは分かった。
サファリパークは三つのエリアに分けられていてる。
ちなみに縮小工事とはエリア1とエリア2の統合のことで、
エリア1のポケモンをいかにしてエリア2へと追いやるかが、
縮小工事成否の鍵を握っているとタケシさんは言っていた。
焦げ臭い匂いが強くなる。
火傷を負って倒れた野生ポケモンの間隔が狭くなっていく。
近い。そう思った矢先、視界の遙か前方で炎の渦が巻き起こる。
闇にポケモンの呻き声が短く響き、すぐに何事もなかったかのような静寂を取り戻す。
無我夢中で走った。

――アヤ。

燻ったカイロスを一瞥して、でも立ち止まることはせずに、エリアの境を表す常夜灯を目掛けて走った。
闇が薄まっていく。
常夜灯の心許ない明かりが、今では太陽のように感じる。
果たして常夜灯の支柱の許、アヤは夜風に深紅のドレスを棚引かせて、十数体もの野生ポケモンと対峙していた。

否、包囲されていた。
つがいのニドリーノとニドリーナ、
成熟したサイホーン、鎌を展開したストライク――。
その種に共通性はない。
でも、そこには種族を超えた共通意識が確かに存在していた。

『一匹を追い立てると、二匹になって戻ってくる。
 その二匹を追い立てると、次は四匹になって戻ってくる。
 そしてその四匹を追い立てると……あとは同じことの繰り返しだ。
 仕舞いには種族を超えた徒党で、縄張りを奪い返しにくる』

タケシさんの言葉に偽りはなかった。
アヤにどんな理由があったにせよ、
サファリの野生ポケモンを傷つけたことによって、
彼らは団結してアヤを追い返そうとしている。
あたしは木立に身を隠しつつアヤに近づいていった。
威嚇の合唱が大きくなる。
もしあたしがあの輪の中心にいたら、足が竦んでとても立っていられないぐらい、声には怒りと憎しみとが満ちている。
アヤはカントー発電所で初めて見たときと同じように傍らのキュウコンを愛撫していた。
更に近づく。
暗闇が薄まる。
アヤの横顔が露わになる。
口元に浮かんだ冷笑が、彼女がちっとも焦りを覚えていないことを示していた。

「………………ぴぃ」
「静かにして」

ピッピの唇に人差し指を当てながら、考えを巡らせる。
折角アヤに追いついたのに。
ピカチュウの手がかりが目の前にあるのに。
これじゃあ問い質すことは勿論、接触することもできない。
あたしは場に躍り出たい思いを抑えて、傍観するしかなかった。
アヤを囲う輪が半径を狭めていく。
それでもアヤは余裕を崩さない。
一触即発の雰囲気の直中、意外なポケモンがその輪を割って入って来た。
ラッキーだった。
卵のような形をしたふくよかな身体はウィングピンクの毛で覆われていて、
鳥の羽が退化したような耳は歩く度に上下し、
お腹のポケットには大きくて真っ白な卵が収まっていた。
思わず右手で握った空のモンスターボールを左手で押さえつける。
ダメ、いくら可愛くても逸ってはダメ――。
気配を察して、アヤが目を開ける。
ラッキーは今にもアヤに飛びかからんとする他の野生ポケモンに何か語りかけながら、
アヤに向かって優しい微笑みを見せた。
そしてペコッと頭を下げ、短い手をエリア2の反対側、入園口の方へ差し向けた。
交渉しているんだ……。
ポケモンの言葉が分からないあたしでも分かる。
ラッキーは戦いを望んでいない。
アヤのしたことを咎めずに、ただこの場から立ち去って下さいと言っている。
アヤはキュウコンの耳に口を近づけ、何かを囁いた。
樹上を渡る風に耳を澄ませてみても、他のポケモンの唸り声が邪魔をして内容を拾うことができない。
やがてキュウコンは天を仰いだ。
朱い瞳が細められ、口が僅かに開かれる。
あたしは無意識に信じていた。
キュウコンの喉は、あの澄んだ音色を響かせることしか知らないのだと。

「オォ―――――ン」

野卑た咆吼が夜空に渡る。
制止する間もなかった。
垂直に据えられた口が下ろされたと同時に、ラッキーは火柱と化していた。
"火炎放射"の残り火が射線に散る。
今すぐラッキーを助けなければ死んでしまう。
頭では分かっているのに、身体が動いてくれない。
キュウコンの"吠える"に硬直していたポケモンたちが、
ラッキーの惨状を見て、思い出したように輪を詰めていく。

「オォ――――――ン」

二度目の咆吼。包囲網はいとも簡単に崩壊した。
かつてあたしを襲った"炎の渦"が、
アヤとキュウコンを護るように広がり、瞬く間にポケモンの輪を押し返していく。
カシャン。
熱割れした常夜灯のガラスが舞い落ちる。
燃えさかる炎の輪の真ん中で、アヤはキュウコンの九尾に護られながら、
光を反射するガラス片を綺麗なものを見るような目で眺めていた。
のたうち回るラッキーのことなど眼中にないようだった。
野生ポケモンの群れは炎の渦の前で右往左往していたが、
やがて一匹のサイホーンがその中に飛び込んでいき、
時間差で他のポケモンが後ろに続いた。
火傷を覚悟でアヤを仕留めるつもりなのだろう。
しかし、その特攻はアヤに読まれていた。
すべてのポケモンが炎の渦の中に入ったことを確認した後、
アヤはキュウコンの背に腰掛けた。
跳躍。
炎の渦の外に躍り出る。
中にはラッキーを含めた十数体の野生ポケモンが取り残されたままだ。
嫌な予感がした。
あたしが木立から飛び出すのと、アヤが命令を下すのは同時だった。

「火力を強めて密閉しなさい」

――くぅん。
キュウコンは上品な鳴き声で応えた。
火力を増した紅蓮の炎が渦の中のポケモンを容赦なく炙っていく。
アヤは本気で、あのポケモンたちを"殺す"気なんだ。

「スターミー、水鉄砲で消火して」

何故キュウコンの吠え声に我を忘れてしまったんだろう。
何故もっと早くにこの命令を出さなかったんだろう。
そうすればあのポケモンたちは軽い火傷ですんだかもしれないのに。

キュウコンの狼の如き吠え声に竦んでいた足は、既に力を取り戻していた。
あたしは熱気に乾いた唇を舐めて、

「どうして……どうしてこんな酷いことをするの?」

アヤは驚きの表情を作りながら、

「答える義理はありません。邪魔をしないでください」

心底迷惑そうにそう言った。

「邪魔するわ。あんなの、見てられない」
「これだからアノマリーは嫌いです。目標達成に遅延が生じてしまう」
あたしは一歩詰め寄った。

「あなたはポケモンを傷つけて、心が痛まないの?」
「何故痛めなければならないんですか。
 ポケモンはオルタナティブの利く道具です。
 そして人間はその道具を使う側です。
 愛でようが殺そうが、わたしの勝手でしょう?」
「違うわ。ポケモンは道具なんかじゃない。
 あたしたち人間と平等な生き物だわ」
「そういう甘い考え方が一般論であることを、わたしはとても残念に思います。
 そしてその考えを絶対だと思っているあなたを、とても哀れに思います」

饒舌に語るアヤは、あたしの記憶にある物静かなアヤとは大きく異なっていた。

「それで結構よ。あたしはあなたの方がよっぽど哀れだと思うわ」
「なんとでもどうぞ。
 わたしは無理にわたしの価値観を理解してもらおうとは思っていません。
 あなたとわたしは相容れない人間のようですから。
 しかし、邪魔をするというのなら、排除するしかありません。
 一応警告しておきます。直ちにこの場から立ち去って下さい。
 サファリパーク内で見たことを全て忘れると誓って下されば、無傷で園外に返してあげます。
 不法侵入についてのも咎めません」
「お断りするわ」

さらに一歩詰め寄る。
側で細々と燃えていた"炎の渦"の残り火が、あたしを照らし出す。

「そうですか。なら、こちらも断固たる―――、」

アヤの表情が凍り付く。
まるで友人とはしゃいでいるところを親に見られた子供みたいに、決まり悪く下唇を噛む。
アヤは今まで、自分を邪魔したトレーナーがあたしだと気付かずに喋っていたのかもしれない。
でも、それならそれで、どうして急に大人しくなる必要があるんだろう?

「……どうしてこんなところにいるんですか」
「あなたを追ってきたのよ。カントー発電所でのこと、忘れたわけじゃないでしょ?」

アヤは小さく首を振る。

「今日はあの男とは一緒じゃないのね」
「いつもハギノと一緒にいるわけじゃありません」

オツキミヤマで初顔合わせしたあの男の名前は、ハギノというらしい。

「そう。それならそれで好都合だわ」
「な……何が好都合なんですか」
「あなたを捕まえやすいからよ」
「捕まえる?
 甘く見ないで下さい。あなたはわたしより弱い。
 それは発電所での戦闘で証明したはずですが」
「まあね。でも、あたしだって強くなるために、何もしなかったわけじゃない。
 あなたはピカチュウに繋がる重要な手かがりなの。
 だから、この機会は絶対に逃さない」

あのキュウコンに勝てるかどうかは分からない。
確率で言えば、悔しいけど負ける可能性の方がずっと高い。
でも、負けは許されない。
ここでアヤに逃げられたら、もう二度とピカチュウに会えない。
そうやって自分に暗示を掛ける。

「……渡しません」

冷静に一蹴してくるかと思いきや、アヤは感情の籠もった声で言い返してきた。

「あのピカチュウはわたしの物です。
 いえ、最初からわたしの物だったんです」
「な、なに言ってるの?
 あたしのピカチュウを、あなたたちの組織か何かが勝手に奪っていったんでしょう?」
アヤは丈の短いドレスの裾を握りしめて叫んだ。

「違いますっ」
「違わない。ピカチュウだってあたしに会いたがっていたはずよ。
 それが何よりの証明でしょ?」
「……っ」

言葉に詰まるアヤ。
あたしはその反応で、今もピカチュウがどこかに監禁されていると確信した。

「きっと、きっと今頃は、あなたのことなんて忘れてます。
 ピカチュウはわたしを受け入れてくれました。
 あの子のマスターはわたしですっ」
「どういうことなの?」

本当に訳が分からない。
ポケモンを躊躇無く痛めつけ、冷淡に「ポケモンはただの道具だ」と語ったアヤと、
あたしとの再会に動揺を見せ、声高に「ピカチュウはわたしのもの」と嘯くアヤ。
アヤはあたしのピカチュウと、カントー発電所で出会うまで面識がなかったはず。
なのにどうして、あたしのピカチュウに固執するの?
あまつさえそれが自分のポケモンだと言えるの?
アヤは答えない。
それ以上の問いを聞くまいと両手で耳を塞いでいる。
あたしは感想を兼ねて挑発した。

「まるで子供ね」
「うるさい……です」
「聞こえてるなら、質問に答えて」
「答える義理はありません」
「義理なんて関係ない。ただ単に、あなたが答えたくないだけじゃない」

アヤの身がぴくりと震える。
それが臨界点だったようだ。

「……もういいです、消えて下さい」

アヤはそっとキュウコンの耳に口づけし、冷笑とともに言い放った。

「"火炎放射"」
ラッキーを火柱に変えた紅蓮の炎が迫る。
発電所の時は為す術が無かった。
でも、今のあたしはあの時のあたしじゃない。

「相殺して、スターミー」

大出力の水鉄砲が状態変化で熱を奪い、火炎放射を無力化する。
濛々と立ちこめる水蒸気の中、あたしは続けざまに命令した。

「ピッピ、"小さくなる"で暗闇に紛れて」
「ぴぃっ」

テニスボールほどに縮まったピッピが、サファリパークの茂みに潜り込んでいく。

「無駄なことを」
「さあ、どうかしら」
アヤのポケモンはキュウコンのみ。
レベル差を考えれば不利な相手だけど、
ピッピを上手く撹乱に使えば、スターミーの相性の優位性で勝つことが出来るはずよ。

「ピッピ、"歌って"」

暗闇から聞く者を眠りに誘うような優しい歌声が響いてくる。

「そんな小手先の技がキュウコンに通じるとでも?
 大体の見当をつけて"炎の渦"で囲いなさい。
 酸素を奪えば歌も歌えなくなります」
「させない。スターミー、バブル光線の後にスピードスターを発射して!」

泡の群団がキュウコンとピッピのいる暗闇に壁を作る。
そしてその壁を突き破るようにして、"スピードスター"がキュウコンを狙い撃つ。
しかしキュウコンは鮮やかな跳躍でそれを躱した。
――ただえさえ命中精度の高い技を、限界まで視認させずにいたのに。
スターミーの攻撃も虚しく、炎の渦が巻き起こる。

「ぴぃっ、ぴぃっ……」

歌声が苦しそうな咳にで中断される。
このままじゃ、ピッピは酷い火傷を負う以前に、煙で窒息してしまう。
あたしはやむなくスターミーに水鉄砲を命じた。

「仲間を助けている余裕があるんですか?
 キュウコン、"電光石火"」

キュウコンの闇に映える白い身体が消え、一瞬にしてスターミーの傍に現れる。
――速い。

「迎撃して!」

咄嗟の命令が間に合わなかった。
突進をもろに食らったスターミーが、壊れたスプリンクラーのように水を撒き散らしながら転がっていく。
くぅん、と喉を鳴らして指示を仰ぐ余裕たっぷりのキュウコンに、アヤは楽しそうに言った。
「どうしたの?
 再起不能になるまで攻撃を続けなさい。
 自己再生を使われたら面倒です」
「お願い、スターミー、起き上がって!」

頭の隅では分かっている。
キュウコンの身体性能はスターミーのそれを遙かに上回っている。
体勢を立て直す前に追撃を食らえば、後はその繰り返しで、
連鎖的にスターミーはダメージを受け、いずれ起き上がることさえ出来なくなる。
そうなれば終わりだ。
主力のスターミーを失って、アヤに勝てる確率は万に一つもない。
せめてもう一度、体勢を立て直すことが出来れば――

「"火炎放射"」

アヤの声が、あたしを現実に引き戻す。
スターミーはまだやっと起き上がったところだ。ふらつきが残っている。
キュウコンが長く首を伸ばす。
避けて!
そうあたしが叫ぶよりもずっとずっと迅く火炎放射が野原を駆け――。
スターミーのいるところとは全然別の場所を焼き払っていた。

「な……」

キュウコンは炎を吐いた姿勢のまま硬直していた。
横顔の毛並みは不自然に乱れている。
まるで誰かに思い切り『叩かれた』みたいに。
「ぴぃっぴぃ~」

ご機嫌な鳴き声が茂みを渡る。
あたしは俄に信じられなかった。
炎と煙に巻かれて咽せていたピッピが、
自分でそこを抜けだし、スターミーを助けるためにキュウコンの顔を叩いたなんて。

「……油断しました」

アヤはあたしにというよりは、自分を戒めるようにそう言った。
口ぶりは冷静でも、太股のあたりではぎゅっと拳が握りしめられていて、
あたしはピッピの攻撃が、アヤに予想以上の屈辱を与えていたことを知る。
硬直が解けたキュウコンは、落ち着き無く尻尾を揺らしてアヤの指示を仰いだ。
反撃しようにも、サファリパークの自然と暗闇が、小さくなったピッピを完全に視認できなくしていた。

「スターミー、"保護色"で身を隠して"自己再生"で回復して」

ピッピと同様に、スターミーの身体も背景に溶け込んでいく。
キュウコンが帯びている神秘的な光は、今は存在を誇示する余計な装身具でしかない。