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「ハナコちゃんか~、古風だけど、可愛い名前だな。
 で、どこに行くつもりなんだ?ロケットゲームコーナーか?」
「そんなところに連れて行けるわけがないだろ」
「はは、冗談だよ」

青年の親友がからからと笑う。
ロケットゲームコーナーとは等価交換、高設定が人気のスロット店である。一度行ったことがあるが、一時間で二万円を溶かして、二度と行くまいと誓った。

「ハナコ……さんはタマムシに観光に来てるんだ。
 もっと健全な場所を案内してあげないと」
「それじゃ、まあ適当に大学案内した後、建設途中のデパート見て、公園でも散歩して、歩き疲れたらどこかで飯食えばいいんじゃね?」

たった今思いついたような提案だが、指摘できるほどの粗はない。

「心配なら、同伴してやろうか?」
「いらない。俺一人で十分だ。
 俺はお前よりも、ずっと長くこの街に住んでる」
「説得力ねえぞ、それ」

青年の親友はトキワシティの出身で、大学進学を機にこちらにやってきた。
しかし数年経った今となっては、生まれも育ちもタマムシの青年よりも、遙かにタマムシの地理に明るい。

「デートの一部始終は今度しっかり聞かせてもらうからな」

青年はハイハイと適当に相づちを打って、

「で、俺を探してた理由っていうのは、何?」
「さっき親父の研究室寄ったついでに、親父からお前の進路を聞かされてよ。
 ……旅に出るってマジなのか?」

この男のフットワークの軽さにはいつも驚かされる。

「ああ、本当だよ」
「なんでまた」
「研究室で他人の論文を読んで、理屈をこねくり回すだけの研究者になりたくないから。やっぱり自分の足でポケモンの棲息地を歩いて、見て、考えないと」
「ご立派な意見だが、お前が行きたい場所って、どうせアレだろ。入るのに面倒な資格がいる……」
「大丈夫。俺は卒業までに、パーフェクトホルダーになる」

生息ポケモンの生態、性向が明らかになっていない地域は、ポケモントレーナーである、ないに関わらず一般人の立ち入りが禁止されている。例えばカントー地方の西端に位置する洞窟・チャンピオンロードや、その先のセキエイ高原が該当地域であり、立ち入りには特定危険地域立入許可証が必要である。ただ、立入許可証の取得には有害指定ポケモン取扱者甲種の取得および実務三年以上が要項となっており、今すぐ手に入れるのは不可能だ。ただ、ポケモンリーグ開催の地がセキエイ高原であることを鑑みれば明かなように、ある地域のジムを全て制覇した者、パーフェクトホルダーであれば、危険なポケモンに対処可能と認められ、該当地域への立入が許可される。

「なあ、本気で言ってるのかよ」

青年の親友は、夢見る子供を諭す大人の表情でそう言った。

「俺は大まじめだけど」
「お前がポケモンバトルが上手いのは俺も認めるところだぜ?
 でもなあ、なーんかお前の戦法は、小手先っつーか、狡賢いだけっつーか」
「……何が言いたいんだ」

それじゃあ、ただの悪口じゃないか。

「マジで強いヤツを相手にしたときに、通用しねえってことさ」

それは暗に、グレンやトキワのジムリーダーのことを言っているのだろうか。

「通用しなかったときは、そのときでまた考えればいいだろ。ジムリーダーは何度でも挑戦を受けてくれるんだから」
「違うって、俺が言いたいのは……」
「もういいよ。なんだよ、俺が旅に出るのが、そんなに気に入らないのか」

しつこい逆接に、青年はいい加減うんざりしていた。
青年の親友は、妙に思い詰めた眼差しをふっと和らげ、

「んなわけないだろ。……あはは、正直言うとさ、俺はお前が遠くに行っちまうのが寂しいんだよ。院に行くにしろ就職するにしろ、お前はタマムシに留まると思ってたからよ」

この男にしては珍しい、取り繕うような口調が気になったが、青年は特に気にせず、親友の言葉に納得した。まだ先の話だが、この憎めない友達と会えなくなるのは、青年にとっても寂しいことだった。

「この後はどうする?」

と青年が尋ねると、

「さっき俺の研究室に、"モンスター"が届いてたから、帰ってそいつを読む」

"モンスター"とはポケモン研究者なら必見の、学術論文雑誌である。この雑誌に自分の論文を掲載することが、ポケモン研究者の夢と言われている。

「親父の……お前の研究室にも届いてるんじゃねーか?」
「多分そうだと思うけど、俺はまた今度でいいよ」
「そっか。もう知ってるかもしれねーけど、今回の目玉は……」
「木戸マサキの、ポケモン転送に関する論文だろ。モンスターボールに入れたポケモンを離れた場所に転送するなんて、現実に可能かどうか怪しいけどね」
「それでもモンスターに載ったんだ。一応、内容はちゃんとしてるんだろ。それにしてもすげえよな。木戸マサキ、まだ高校生って噂だぜ。飛び級制度があれば、もしかしたら俺たちの後輩か、ひょっとしたら先輩になってたかもしれねえ」

話していたらすぐにでも読みたくなってきたのか、青年の親友は「またな、相棒」と一言、店外の雑踏に消えていった。