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六の島。
七島のひとつであり、比較的未開拓ながら、
自然が創造した遊歩道が人気を呼ぶ静養地。
亜熱帯に位置するが故に季節を問わず温かく、
ほどよい雨と肥沃な大地が育んだ大自然は、同時に草食ポケモンの楽園でもある。

「ヘルガー、草むらに火をつけちゃダメなんだから。分かってる?」
「まだ冬枯れするような季節じゃないから、火事になる心配はしなくていい」
「でも……」

納得いかなそうなサヤの視線の先で、ヘルガーは草むらをかきわけながら、炎混じりのブレスを撒き散らしている。
恐ろしい形相だけを見れば、獲物を探しているようにしか見えないが、実際はただ慣れない土地に、興奮しているだけだろう。

「お前は珍しく大人しいな」

サヤの頭に乗ったケーシィは、今日はテレポートで遊ぶこともなく、眠ったように目を細めていた。
先輩ポケモンに遠慮しているのかもしれない。
リザ―ドンとピジョットは好き勝手に空を飛び回り、
カメックスとラプラスは水辺で横になり、
フシギバナとカビゴンは大樹の傍で自然と一体化し――各々が休暇を満喫しているようで、俺はほっとする。

「見て、サトシ!あれ!」

俄にサヤが言った。

「あれって?」
「ほら、カメックスの傍!」

指先を辿る。

「虹か」
「反応が薄いわ」
「サヤは、もっと大きな虹が見たくないか?」
「それは、確かに物足りない大きさだとは思うけど……。
 小さくても、虹は虹よ。綺麗だと思わないの?サトシは」

憤慨するサヤ。
カメックスは俺の視線に気づくと、キャノンから高圧水流を発射し、水面を走らせた。
連続して上がった水柱は霧状に変化し、太陽の光からさらに大きな七色の橋を作り出す。
サヤは幼子のように目を瞠り、破顔した。

「……サトシは、わたしの願い事を、なんでも叶えてくれるのね?」
こんな時間がいつまでも続けばいいと思った。
悩みを全て忘れて、サヤを楽しませることにだけ、気を遣っていればいい、そんな安らかな時間が。
サヤは虹を眺める惚けた顔はそのままに、唐突に言った。

「サトシ、わたしに隠し事してる。
 サトシがわたしにつく嘘には、二種類あるわ。
 自分のための嘘と、わたしのための嘘。
 ううん……責める気はないの。たしかにサトシは約束を破ったけれど……。
 わたしはサトシが、わたしのために嘘をついてくれてるって、信じてるから」
「サヤ……」

続く言葉を探していると、

「歩きましょう?
 せっかくの散歩道なんだから」

サヤはお尻についた草をはらいながら立ち上がり、俺に手を差し伸べた。
その小さな手になるたけ体重をかけないように腰を上げ、ケーシィ以外のポケモンを格納する。
言葉のない俺とサヤの間を、風が通り抜けていく。
どちらかともなく手を繋いだ。

「………」

サヤは俺の告白を待っているようだった。
伝えるべきなのか。黙っているべきなのか。姉が組織に仇成す暗殺者かもしれない。
そんな不確かな情報で、サヤを悲しませて、何の意味がある――?
ひときわ強い風が吹き抜け、脇の木立が悲鳴を上げる。
どこかで、鳥ポケモンの鳴き声が上がる。
草食ポケモンの楽園と呼ばれるこの場所に、野生ポケモンの気配は多く、
しかし大人しい性質なのか、襲いかかってくるものはいなかった。
いつ終わるとも知れぬ散歩道。
逡巡の果ては、向こうから訪れた。

「あれは……」

息を飲む音。
サヤの歩みが早くなり、駆け足になる。手が解かれる。

「お姉様っ……お姉様っ……!!」

事は上手く運んだ。
サヤの進む先、黒いボディースーツに身を包んだカレンを見て、俺は安堵した。

カレンとの接触――それをどうやって実現するか考えたとき、
脳裏を掠めたのは、サヤを餌にしておびき出すことだった。
六の島に行くことをサヤに伝えた後日、サヤは姉に手紙を送った。
自分と姉、そして直近の使用人しか存在を知らないと信じている、秘密の伝書ポッポに、手紙を託した。
俺は北に飛び立ったポッポを捕獲し、ばたつくポッポを押さえたまま、手紙を外した。
手紙には当たり障りの無い近況報告と、六の島に俺と行く旨が書かれていた。
『六の島に来い。話がある』――俺はそこに荒い筆跡で一言書き足し、ポッポを解放した。
本土からも、グレン島からも遠く離れたここ、六の島では、組織の目も届かない。
ましてやその組織の戦闘員である俺が、暗殺者候補のひとりと穏便に接触しようとしていることを、誰が考えつくだろう……。

鳴き声を上げる頭上のケーシィを胸に抱きしめ直し、サヤは駆ける。

「……………」

こうして姿を見せてくれた以上、尋問するのは、後回しでもいい。
姉妹の再会に水を差すのは無粋だと思った。だから、口を噤んでいた。
カレンが微笑む。
数少ない邂逅を思い返しても、決して俺には向けられなかった、最愛の妹にだけ見せる表情。
俺はそう思い込んでいた。

「……お姉……様……?」

サヤがから足を踏み、まるで目の前の存在を疑うかのように、喉を震わせるまでは。

「まさか――!」

驚愕が俺の行動を遅らせた。
サヤの左手の空気が揺らめく。
人の反応を悠に超越する速度で肉薄した人型ポケモンが、中空で蹴りを放つ。
人の頸椎なら簡単に粉砕できるほどの蹴りが。
サヤは恐れのあまり尻餅をつくことで、奇跡的にそれを躱した。
しかしそれは同時に、次の攻撃から身を守る術を、自分から捨てる選択肢でもあった。

「サヤ!!」

焦りに濡れた思考が、ますます俺を木偶の坊に仕立て上げる。
"二度蹴り"――神速の二撃目が放たれる。
しかし、またしてもその人型ポケモンは空振った。

「お手柄だ、ケーシィ」

背後に"テレポート"したサヤの心情を、今は慮ることはできない。
カメックス、リザ―ドン、カビゴン、ラプラス。
同時に四つのボールを展開する。

「お姉様……お姉様がわたしを……?」
「サヤ」
「嘘よ……どうして……お姉様が……そんなの、あり得ない……あり得ないもの、だって……」
「サヤっ!」

サヤの華奢な肩が震える。

「サトシ、ねえ、答えて。
 どうしてなの。どうしてお姉様がわたしを――殺そうとするのよ!?」
「それは……俺が聞きたいくらいだ。
 今は俺の後ろで、ケーシィと一緒に隠れていろ。絶対に前に出てくるな」

ポケモンは三体に増えていた。
ウィンディ、ブースター、そして最初にサヤを襲った人型の新種ポケモン。
長い鬣は白く、それ以外の体毛は炎のように橙と赤が入り交じっている。

「カレン、これは罠じゃない。
 俺はお前と、話がしたい!」

返答は、攻撃の合図だった。
カレンの指が鳴る。三匹のポケモンが動き出す。

「守れ。絶対にサヤを傷つけさせるな!」

四体の護り手を奮起させながら、推測する。
なぜカレンは妹を、サヤを攻撃した?
これが自分を『殺害する』ために誘き寄せる罠で、サヤがそれに協力していると思ったからか?
しかしその仮定には、カレンが実際に暗殺者であるという前提が伴う。
いやまて、そもそもカレンにサヤを傷つける行動がとれるはずないんだ。
だがカレンはあの人型ポケモンで、サヤに攻撃しようとした――。
逆説に次ぐ逆説。
それらを全て肯定できる説明はひとつ。

カレンは、
壊れているのかもしれない。

「カビゴンは身体を盾に」

小山のような巨体が、サヤの正面に聳え立つ。

「ラプラスは炎の防護、余裕があれば"棘キャノン"で牽制」

前衛の死角から放たれる"火炎放射"を、ラプラスの高い状況把握能力で処理し、

「リザ―ドンとカメックスはそれぞれの判断で動け」

前衛の二体で、相手三体を戦闘不能にする。
それがサヤを護りながら、カレンの説得を試みながら、戦う最善手だ。
「もしも心当たりが無いなら、聞き流してくれ。
 かなり前から、誰かが組織の人間を殺して回っていることを、カレン、お前は知っているか」

カメックスの"ハイドロポンプ"を軽やかなステップで躱し、
人型ポケモンは"電光石火"で距離を詰め、アッパーを繰り出す。

「今まで手がかりを残さなかったそいつは、
 最近、生き残った戦闘員のひとりに、特徴を知られた」

カメックスは身を引いて、カウンターの"頭突き"を叩き込む。
よろめく人型ポケモン。
追撃の"ハイドロポンプ"は、しかしウィンディの"神速"を脇腹に受けて、明後日の方向に放たれた。

「そいつは、『燃えるような赤髪』だったそうだ」

リザ―ドンがはき出す巨大な炎の玉が、空からブースターを追い詰める。
四方をクレーターで囲まれ、躱す場所が無くなったところを、最大出力の"火炎放射"が襲う。

「たったそれだけの特徴でも、組織にとっては十分だ。
 組織の人間を何人も葬れるほどの実力を持つトレーナーは、そう多くない。
 そして、」

ブースターは真っ向から、炎の玉を撃ち返し、相殺した。
間断なくクレーターを飛び越え、振り向きざまに、ラプラスとカビゴンの隙間を狙って鋭い"火炎放射"を放つ。
ラプラスはこともなげに、冷気を帯びさせた水の壁で、それを防ぎきった。

「カツラ博士はおそらく、カレンのことを調査部隊に伝えている。
 赤毛で、組織に恨みを持ち、その戦闘員を倒しうる実力の持ち主として……」

カツラはカレンが、人やポケモンを殺せない臆病者だと言ったが、
現にカレンはサヤを攻撃した。人が簡単に死んでしまうほど強力な技で。
緑の溢れた散歩道は、今は見る影もない。
カレンは惨状を眺めている。まるで感情を失った人のように、暗い目で。

「カレン……お前じゃないなら、そう言ってくれ」

心のどこかで、平坦な声が言った。

サヤにポケモンを嗾け、お前の問いに黙秘を貫いていることからも、答えは明らかだ。
下手人はそいつさ。
組織の命に従い、殺せ。
今やらなければ、そいつはこの先、さらに多くの損害を組織にもたらす。

「………俺は………」

俺はどうすればいい。
カレンが暗殺者である可能性は極々わずかで、現実にはまず起こりえない。
最悪のケースを考えていなかった。
サヤとカレンが再会の喜びを分かち合い、俺の疑惑は笑い飛ばされる。
そんな、何の根拠もない想像を描いていた。
これからしばらくは大人しくしているよう諭し、逃がすべきか。
それとも、サヤの目の前で……。
そのとき、"地震"には遠く及ばない、局所的な振動が、俺の身体を揺さぶった。

「………カビゴン?」

しこを踏んで、目を覚まさせてくれたのか。
カビゴンはまるで緊張感の無い、のんびりした顔でおなかをぼりぼりと掻いている。
虚を突かれ、乱れていた思考を整理する。
すると、目の前の光景と、第六感が告げる事実の矛盾が露呈した。
突然始まった高レベル帯のポケモン同士の戦いに、付近の野生ポケモンは一匹残らず逃げ出している。
この場でボールから出ているポケモンの数は、目視できるだけで九体。
しかし俺の第六感――ポケモンの思考を読み取る能力――は十体の存在を主張している。
荒れ果てた草原にポケモンが潜める場所はない。
残りの一体の正体に、すぐに思い当たる。

「どうしてもっと早く気づかなかった……俺は大馬鹿だ。
 カビゴン、"破壊光線"の準備をしろ」

ポケモンの技量は、個々ならリザードンやカメックスが圧倒している。
しかし二対三の数的不利が、前線を拮抗させている。
倒すことも、倒されることもない状況。
が、カビゴンの最強技を使う理由は、停滞を打破するためではない。

「目標――カレン」

回避も、防御も許さない。
ブースター、ウィンディ、人型ポケモンの三位一体の攻撃を、カメックス、リザ―ドン、ラプラスが防ぎきる。
充填が終わる。
俺はこの無意味な戦いを終わらせることに、全神経を集中させていた。
サヤのことを、意識の外側に追いやっていた。それが誤算だった。
白の閃光ははるか彼方の雲を裂りさき、やがて光の粒子となって消えた。

「カビゴン!?どうしてあのタイミングで外し……」

数歩先の大地が砕かれる。石礫が頬を掠めた。
サヤが、カビゴンの背に触れていた。
たったそれだけで、状況を理解できる自分が憎い。
こうなることは分かっていたはずなのに。
「酷いわ……最初からこうするつもりだったの……?」
「サヤ、違うんだ。俺は……」
「わたし、サトシのことを信じていたのよ……っ……なのに……」
「俺の話を聞いてくれ!」
「それなのに……お姉様を、殺すつもりだったなんてっ!」

サヤは譫妄状態にある。
自分がカレンに攻撃されたことも忘れて、姉を庇っている。
いや……最初からそれが姉妹として、正しい感情なのか?

「お姉様!聞いて!わたしは違うのっ!
 お姉様のことを誘き出すために、手紙に六の島に来ることを書いたんじゃないの!
 安心して、お姉様。わたしはお姉様のことを信じてるから……。
 お姉様がサトシが言ってたみたいなこと、するわけない。
 お姉様のことは、わたしが守るわ。だから……!」

サヤがカビゴンから離れ、ラプラスの防御線を越えて、カレンに近づこうとする。
俺は最早無意味であることを知りながら叫んだ。
黒幕がいるなら、ここで動かずしていつ動く。

「やめろ!行くなサヤ!そいつは、」
「君の愛しい姉上ではない。紛い物さ。
 即席とはいえ……優秀な役者揃いで欣快の至りだ。迫真の演技、実に素晴らしかったよ。
 もっと早く見破られると思っていたが、存外、長持ちしたね」

気障な声が、朗々と響き渡る。
カレンの形をしていたそれが、薄紫色のドロドロした液体に変化する。
メタモンの擬態を見抜けなかった言い訳は、いくらでもできる。
ひとつ、戦闘が始まるそのときまで、豊富な野生ポケモンの気配が、メタモンの気配を誤魔化していたこと。
ひとつ、その擬態があまりに精巧だったこと。
擬態のレベルは、対象をいかに長く、近くで観察できるかで決まる。
妹の目を騙すほどの擬態……おそらく、本物のカレンは……。
声を発しない時点で、疑うべきだった。
そんなことができないくらい、俺は緩んでいた。弱くなっていた。

「お姉様……何……何がどうなってるの……?」

最初のときの焼き直しが始まる。
サヤがから足を踏み、茫然としているところを、突如、何もない空間から現れた"金髪"が羽交い締めにした。
肩にはカメレオンのような姿形をしたポケモンが乗っている。

「手垢のついた台詞だが、『痛い目に遭いたくなければ大人しくしていることだ、お嬢さん』。
 僕はレッドと――いまさらコードネームで呼ぶのも無粋か――サトシと話がしたい」

驚きを隠せない。だが一方で、この現実を冷静に飲み込める自分がいた。

「全く歯が立たない事態も想定していたが、
 意外と、二軍の炎タイプでもいい勝負が出来たね。
 このお嬢さんの存在が足枷になっていたのかな?
 バシャーモ、ウィンディ、ブースター、戻れ」

金髪がポケモンを格納する。
俺は言った。

「お前が……やったのか……?」
「そう逸るなよ、サトシ。まずはポケモンを仕舞いたまえ。
 紳士的にいこうじゃないか?」

サヤが首根を押さえられた小鳥のような声を上げる。
従うしかなかった。

「みんな、戻れ」
「へえ、よほどこのお嬢さんが大事か」

金髪はサヤの耳許にささやきかける。

「羨ましいよ。そして同時に残念だ。
 サトシはただの人間とは隔絶した人間だと思っていたのに。
 君のせいだったんだね。ずうっと不思議に思っていたんだ。
 僕という完璧な存在が傍にいながら、どうしてサトシがいつも遠い目をしていたのか……」
「やめろ。サヤは関係ない!」
「それがそうでもないんだよ。このお嬢さんだって大事な役者の一人だ。
 幕切れまで、降りることは許されない」
「もう一度訊く。お前が、組織の人間を殺したのか」
「どうせ最後なんだ。気前よく教えてあげるよ。
 そうさ。僕がやった。僕がポケモンや人を殺めることに精神的な安心を得ていることは、話したはずだ。
 けどね、組織に入った頃からかな……。
 僕は野生ポケモンや、任務で相手するトレーナーやポケモンを殺しても、満足できなくなっていた。
 弱すぎるんだ。まるで歯ごたえがない。僕は悩んだよ。すると、あることに気がついた。
 組織の大半の戦闘員は、自惚れて、ポケモンの能力に依存しきっている。
 一般トレーナーに毛が生えた程度、唾棄すべき屑だ。
 でも、稀に本物が混じっていた。僕と対等に渡り合えるほど、強い適格者が」
「そんな理由で……」

金髪は爽やかな笑みを浮かべて、

「そんな、とは酷いな!
 僕にとっては死活問題だというのに。
 僕の殺しは芸術的なまでに完璧だった。
 死体は絶対に見つからない。例外なく"失踪扱い"になった。
 任務で数多の雑種を殺し、時折、組織で頭角を現した適格者を摘む……このサイクルが永遠に続くはずだった。
 サトシ――君が現れるまでは」
金髪の笑みは恍惚としたものに変わり、

「一目で気づいた、といえば嘘になる。
 だが、任務を共にこなして、確信した。君はあのサトシだ。
 ポケモンリーグ史上最強と謳われたあのサトシだ。
 告白すれば、僕は君の大ファンでね、公式試合は欠かさず見ていたんだ。
 組織の戦闘員の大概は、君のことを表の世界で最強と嘯く道化だと笑っていたが、
 僕は、君が本物だと気づいていた。嘘じゃない……。
 僕は君と手合わせしてみたかった。しかしそれが叶わないことも承知していた。
 方やポケモンリーグのチャンピオンであるサトシ、方や公式戦出場権を剥奪され日陰の世界に落ちた僕。
 交わることなどありえない、ってね。
 しかし何の因果か、君は僕が出会いに行くまでもなく、組織の一員として目の前に現れた。
 僕がどれほど幸せな気分になったか、君は想像できないだろうね。ふふっ」

想像したくもない。
吐き気がした。

「すぐに君を殺すつもりはなかった。
 僕は審美家だ。君のポケモンの扱い方、適格者としての能力、それらを全て見極めたかった。
 素晴らしいの一言に尽きたよ。
 『感覚共有能力』とでも言えばいいのかな、あれは……自分とポケモンの五感をリンクし、自身をサーバーとして全員で共有する。
 これによって君はその場にいる誰よりも的確な指示を出すことができ、
 同時にポケモンの連携・フォロー技術は飛躍的に向上する。そうだろう?
 当て推量で言っているつもりはないよ。
 任務をともにするときは、ずっと君を観察していたんだからね」
「……………」
「肩書きこそ幹部候補だが、君は実質的に、最強クラスのトレーナーだ。
 君を観察しているあいだは、逸る自分を抑えるのに苦労した。
 おかげでストックしていた適格者を、間をおかずに殺してしまった。
 暗殺の疑いを組織上層に抱かせてしまった」
「お前は、狂ってる」
「あはははっ。いったい何度君にそうやって蔑まれたことだろう?
 心地良いよ。最高の誉め言葉だ。君たちはその狂人に殺されるんだ」
「俺やサヤを殺した後も、のうのうと組織に居残れると思っているのか?」

「言ったじゃないか。僕の計画は芸術的で、完璧だ。
 君たちを暗殺するのは、僕じゃない。このお嬢さんの姉上さ。
 エンジュシティで、君が襲われたとき、僕は一部始終を見ていたんだ。
 君は気づいていなかったようだが……。
 諜報部の友人を通して、調べはすぐについたよ。
 君を襲った赤毛の女がカツラ博士の長女で、彼女が組織を強く恨んでいることを知ったとき、僕は彼女が使えると確信した」
「カレンを、身代わりにするつもりか?」
「筋書きはこの通りだ。
 幹部候補レッドはとカツラ家次女サヤと六の島滞在中、
 以前から組織構成員を無差別に殺害していたカツラ家長女カレンの襲撃により死亡、
 次女も巻き添えとなり、後にそれを知った長女は、悔悟の念により自殺を遂げる」

カレンの名を聞いて、気を取り戻したのか、サヤが掠れた声で尋ねた。

「……お姉様は、今、どこにいるの?」
「さあね。生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない」
「どうして、こんな酷いことをするの?
 どうして……こんな酷いことができるのよ」
「……僕は"少し"殺しすぎた。
 ここら辺で休む必要がある。最後の相手には、君が相応しい」

金髪はボールをひとつ、展開する。
一匹目、ストライク。
あの通常の個体とは一線を画した大きな鎌で、いったい何匹のポケモンが首を刈られてきただろう。
二匹目、サーナイト。
魔的な美貌に据えられた二つの紅玉は、老練のエスパーポケモンさえ幻の奈落に突き落とす。
どうすることもできない。
金髪がサヤを羽交い締めにしている以上、ケーシィの"テレポート"は無意味だ。

「どうしたんだい、サトシ。
 君も二体、ポケモンを出すんだ。タッグバトル――最近の公式戦に則った"試合"をしよう」
「試合……?」
「そうさ、僕の夢を叶えてくれ。どちらが強いか、証明するんだ。
 僕が勝てば君たちはポケモン共々、晴れてあの世行き、
 君が勝てばこのお嬢さんを解放してあげるよ。願ってもない申し出だろう?」

嘘だ。もし俺が勝ったところで、金髪はサヤを手放さない。
それが分かっていながら、俺は金髪の言葉に乗らざるを得なかった。