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ピカチュウの小さな後ろ姿に、なぜか、夏の蛍を連想する。
最後の四天王の間には、四天王の特徴を示す設置物が何もなかった。
殺風景な空間の果てに、チャンピオンの間に続く幅の広い階段があるだけだった。
そしてその階段の中程に、黒のベアトップドレスを着た女の人が腰を下ろしていた。
肩にはこの世のものとは思えないほど綺麗な銀髪が流れていた。
カエデの言葉が耳許で蘇る。
ただ一度の挫折も知らずにS ランクまで登り詰めた若き天才。
居並ぶ候補者を尻目に最年少で四天王の座を物にし、お父さんの再来とまで言われた悪タイプ最強の使い手。

「あたくし、四天王のカリン。あなたがヒナタね」
「どうしてあたしのことを知っているんですか?」
「あら、自覚がないのね。あなた、とーっても有名なのよ。
 最強の遺伝子を継ぐ者。失われた適格者。通名はいくらでもあるわ。このあたくしが嫉妬しちゃうくらい」
「そんな通名、知りません。あたしはあたしです。ここを通してください」
「無理な相談ね」
「カリンさんを倒せば、通してくれますか」
「ふうん、なかなか面白いことを言うのね。
 でもあの子との約束があるから、その意気だけ買わせてもらうことにするわ。アヤ、あなたの出番よ」
「采配に感謝します、カリン」

コツ、コツ、コツ、と硬い音が響く。
深紅のドレス。
雪のように真っ白な肌。
幼いながらも意思の強そうな瞳。

「もしこの場所にこの子がやってきたら、アヤがあたくしの代理を務める。確かに約束は果たしたわよ」

階段を下りきったアヤは一度だけカリンを振り返って、

「下がっていてください。巻き込んでしまうかもしれません」
「うふふ、アヤは優しいのね。
でも、それ、余計なお世話よ。あたくしのことはいないものと考えて頂戴」

カリンは高みの見物を決め込んだかのように、膝の上に肘を立てて、頬杖をついた。
含みのない微笑を投げかけてくる。
あたしはカリンから目を逸らしながら、アヤに尋ねた。

「どうしてここにアヤがいるの?」
「あなたと決着をつけるためです」
「決着?」
「あなたとわたし、どちらがお父様の娘か、それをはっきりさせるのです」

アヤらしくないな、とあたしは思った。
あの夜、シルフカンパニーの屋上で、アヤはお父さんにはっきり娘だと認められた。
セキエイで再会することは予測していなかったにせよ、
次に会う時は、もっと辛辣で意地悪い言葉をぶつけてくると思ってたのに。

「はっきりさせる必要があるの?」
「質問の意味が分かりません」
「シルフカンパニーの屋上で、アヤは言ったわよね。
 あたしもお父さんの娘で、アヤもお父さんの娘だって。
 それでいいと思うの。あの夜、お父さんはアヤ一人だけが自分の娘だと言ったわ。
 あたしは娘じゃないとまで言われた。けど、そんなことあたしには関係ないの」

お父さんだと思っている人を『お父さん』と呼ぶのに、資格なんて要らない。
一方通行でもいい。伝わらなくったっていい。それが、あたしの出した答え。

「なんて、傲慢……!」

アヤがうす桃色の唇を噛みしめる。

「だから、だからわたしはあなたが嫌いなんですっ!」
「あたしはアヤのことが嫌いじゃないわ」
「なっ」

動揺するアヤ。あたしの言葉は本心だった。
苦い気持ちがあるのは確かだけど、それは憎しみとか怒りとかとは、微妙に違ったものだった。
言葉ではうまく説明できないけれど……。

「この痴れ者っ」
「よく、言われるわ」

カエデには何度バカヒナタと言われたか知れない。二桁ですまないことは確かね。
胸に手を当てて、気を落ち着かせたアヤは言った。

「……どうしても、お父様に会う気でいるんですか」

頷く。
「逆に訊いてもいいかしら。
 どうしてアヤはあたしがお父さんに会うのが許せないの?
 アヤはお父さんからすでに認められているのよ。あたしがお父さんに会ったところで、」
「黙って下さい」
「アヤ?」
「お父様のことをお父様と呼んでいいのは、わたしだけなんです。
 約束してください。今からポケモンバトルをして、勝ったほうがお父様の娘で、負けたほうはお父様とは赤の他人です」

アヤの背後でカリンがくすくすと笑っているのが見える。
アヤが口にしたのは、あまりにも子供じみた提案だった。
何がここまでアヤから余裕を失わせているのかしら?

「それでアヤの気が済むのね」

沈黙を肯定と受け取って、

「分かったわ。ルールは?」
「一対一。勝敗条件は、互いに予め用意したポケモンのストックが切れるまで。
 トレーナーへの直接攻撃は反則。純粋なポケモンの力比べです。今回は中断も邪魔もありません」
アヤが二つのボールを掌に乗せる。
そして片方だけを展開して、

「くぅん」

キュウコンの耳に優しく頬ずりする。
その所作には、アヤがポケモンを道具呼ばわりしていた頃の形だけの触れ合いとは違って、確かな愛情が込められているように見えた。

「さあ、あなたも二匹、ポケモンを用意してください」

少し迷って、スターミーとゲンガーが入ったボールを掌に乗せて見せ、スターミーを展開する。
カントー発電所では惨敗、サファリパークでは惜敗。セキエイではどうなるかしら。
初めてアヤと対峙したときのような、得体の知れない恐怖のようなものは、一切感じなかった。
自問する。それはあたしがアヤに慣れたから?
アヤの強さに追いつくことができたから?

「カリン、合図をお願いします」
「いいわよ」

とカリンが快諾する。
静寂。

「はじめっ」
「"電光石火"」

アヤの命令を予め知っていたかのような反応速度でキュウコンが駆ける。
瞬く。スターミーの思考が流れ込む。
右目はあたしの客観、左目はスターミーの主観を見ている。
スターミーの赤味がかった視界で、キュウコンの体は大きくブレていた。
初撃を躱すことは無理そうね。それなら――。

「"高速スピン"と"水鉄砲"よ」

全方位に放射することで、速度に任せて背後に回りこもうとしているキュウコンと、"炎の渦"を牽制する。
あたしの意図を察してくれたのか、スターミーは後退しながら"スピードスター"で追撃、
"バブル光線"を前面の床に輻射して、さらにキュウコンとの距離を取る。

「随分と、そのスターミーに勝手を許しているようですね。お父様の模倣のつもりですか」
「お父さんと完全に同じようにできているのかどうか、自信はないの。
 ポケモンと感覚を共有したのは、シルフカンパニーの時が初めてだったから」

アヤはあたしの言葉を打ち消すように絶叫した。

「そんなの、嘘に決まってますっ! キュウコン、"電光石火"!」

再びキュウコンが加速する。
残像が見えるほどの疾走。
けど、向かう先が一つなら、慌てる必要はない。
スターミーが小刻みに放つ水鉄砲を、躱し、炎で相殺しながらキュウコンが迫る。
バブル光線の布陣をアヤはどう攻略してくるかしら。
跳躍?
炎で無効化して突進?
それとも中距離からの"火炎放射"?
三つの予測が脳裡を過ぎる。あたしは言った。

「充填して、スターミー」

キュウコンがバブル光線の直前に差し掛かる。
あたしとアヤの指示は同時だった。

「ジャンプですっ!」
「真上に最大出力っ!」

バブル光線の布陣を飛び越え、そのままスターミーに襲いかかったキュウコンを、爆発的な水圧が吹き飛ばす。
それは単純な水の放射とは違う、洗練された超高圧水流だった。

「ピッカァ」

ピカチュウが嬉しそうに飛び跳ねて、スターミーに拍手を送る。
想像以上だった"水鉄砲 "の威力に驚いていると、

「あら、あなた気付いてないの? 今のは"ハイドロポンプ"よ」

審判役のカリンが可笑しそうに笑って言った。
警戒を解いたわけじゃないけれど、教えて貰ったことには感謝して会釈する。
アヤは足許に転がったキュウコンの首を抱きながら言った。

「どうしてキュウコンの動きが分かったんですか」
「……勘よ」
「そんなはずありません。あなたは慎重で狡猾な人です。
 確かな裏打ちがなければ、あんなに不確定要素が多い指示を出せるわけがないんです」

遠距離から、しかも水タイプの技を完全に蒸発させるほど強力な"火炎放射"を撃つには、インターバルを置かなければならない。
牽制に撃った"水鉄砲"を全て躱すのではなく、
一部は炎で相殺しながら接近してくるキュウコンを見て、その可能性は薄いと踏んだ。
これ見よがしに敷いたバブル光線の布陣は、飛び越えてくださいと言っているようなもの。
それでもアヤは裏の裏を読んで、バブル光線を相殺せずに、跳躍させると予測した。
あたしは裏の裏の裏を読んだ。幸運にもそれが的中した。ただそれだけの話よ。

「幸運、ですか。……言葉で飾っても、結果は同じです。
 わたしのキュウコンは倒れて、あなたのスターミーは健在しています」
「そうね」
「でも、わたしのヘルガーに都合の良い幸運は通用しません」

連続する閃光。キュウコンが消えて、入れ替わりに漆黒の犬型ポケモンが現れる。
サファリパークで炎を吐きかけられたことを思い出す。
凶悪そうな菱形の目を見据える。
あのときは足が竦んで、身震いしたその視線にも、今は冷静に視線を返すことができた。
「ヘルガーの遠吠えは地獄から死神を呼ぶと言い伝えられています。覚悟してください」

一拍の静寂。

「ポケモンの死を」

強力なポケモン同士の戦いに大怪我や、死はつきもの。
それをあたしはシゲルおじさまたちの戦いを見て思い知った。
そして今、アヤは自分のポケモンがあたしのポケモンを殺す可能性を忠告してくれている。
あたしは言った。

「死なせない。何があっても、あたしのポケモンは死なせたりしないわ」

アヤは一瞬面食らったような顔をして、すぐに冷笑を浮かべた。

「わたしのポケモンも、ですか」
「それは……」
「甘いですね。甘々です。やっぱりあなたは、お父様の娘に相応しくありません」
「どういう意味?」
「お父様はたくさんポケモンを殺しています。
 わたしもたくさんポケモンを殺しています。もちろん、致し方なくですが」

心に慣らしていた事実が、疼く。

「以前、あなたのゲンガーにキュウコンが辱めを受けたとき、わたしはキュウコンに対する認識を改めました。
 キュウコンを失いたくないと、心から思うようになりました。
 ここまではあなたと同じです。でも、ここからがあなたと違うのです」
アヤはふっと無表情になって、

「あなたは自分のポケモンの命と相手のポケモンの命を天秤にかけられない、
 いえ、正確にはどちらが重いのか咄嗟に測れないのです」

言い返せなかった。

「トレーナーへの直接攻撃なんてもっての他です。
 あなたは自分が攻撃されるその時まで、相手トレーナーを攻撃する選択肢を忘れているんです。
 誰かがあなたの代わりに戦って、誰かが代わりに傷くのを、
 あなたは心のどこかで安心しながら傍観しているだけなんです」

『卑怯者』――いつかアヤに言われた言葉を思い出す。
アヤはあたしよりも年下なのに、ポケモンでポケモンを殺すことや、ポケモンでトレーナーを傷つけることに躊躇いを捨てている。
それに比べて、あたしは自己欺瞞を繰り返してばかり。
相手トレーナーを直接攻撃する機会はあっても、
それはなんらかの手段で防がれたり、躱されたりすることを直感していたときに限られていた。
無慈悲な自分に成り切ることができなかった。境界線は、いつも曖昧なままで……。

『お前、システムの奴らみたいな戦い方するのが嫌なんだろ。
 割り切れなかったら、別にそれでいいじゃねえか。
 ヒナタがそういう戦い方はしたくない、っていうなら、俺が代わりに戦ってやるからさ』

エリカさんのお屋敷にいたとき、タイチはそう言ってくれた。
あたしはその優しさに甘えることで、その命題に向き合うことから逃げていた。
アヤの言う通りだわ。あたしは……。
「ピィッ」

つんつん、と足をつつかれる感触がして見下ろすと、フリフリと首を横に振るピカチュウがいて、

「……ピカチュウ」

見失いかけていた自分を取り戻す。
相手ポケモンを殺したり、相手トレーナーを直接攻撃することに対する答えは、まだ出せそうにない。
だって、誰も傷つけたくないのが、あたしの今の本心だから。

「また逃げるんですね」

アヤの言葉を無視して、

「ありがとう、スターミー」

スターミーをボールに戻して、ゲンガーを召喚する。

「うー」

ゲンガーはまるで威圧的なヘルガーの雰囲気に対抗するように、でっぷりした胸ならぬお腹を張ってみせた。

「……っ」

サファリパークでのことを思い出したのか、アヤが嫌悪感を隠さずにゲンガーを睨み付ける。
これが終わったら、たとえ信じてもらえなくても、ゲンガーのもうひとつの主格について打ち明けよう。
あの日、キュウコンを辱めたことを謝ろう。あたしは密かに決意する。アヤは言った。

「力を貸してください、ヘルガー、"スモッグ"です」
ヘルガーの周りに灰色の煙が発生する。
"スモッグ"が横たわっている限り、ゲンガーとヘルガーの視線は繋がらない。
あたしが瞳術系統の指示を思いとどまった瞬間を見計らったかのように、
ヘルガーは煙を飛び出し、少し離れたところで再び"スモッグ"を発動する。
それが何度か繰り返されて、バトルフィールドに六つのスモッグの塊が完成する。
煙から煙へ、ひっきりなしにヘルガーの影が飛び移る。

「うー……」

視界を共有する。案の定ゲンガーの目はヘルガーの敏捷な動きに追いついていなかった。

「左に移動して、ゲンガー」

あたしの視界がゲンガーの背中をカバーできる位置に移動すれば、ゲンガーは正面に意識を配るだけですむ。
けど、アヤがそれを易々見逃してくれるはずもなくて、

「させません。"火炎放射"です、ヘルガー」
「避けて!」

寸前で躱したものの、キュウコンの炎とは比べものにならないほどの光と熱が、ゲンガーの体を浅く削り取る。
反撃しようにもヘルガーはすぐにスモッグに隠れてしまって姿が見えない。
手近なスモッグに突っ込みたい、というゲンガーの意思を感じて、あたしはつい、抽象的な命令を出してしまう。

「ダメっ!」
「うっうー?」

二の足を踏むゲンガー。
その隙を狙って、死角から"火炎放射"が襲いかかる。
咄嗟に飛び退いたものの、ゲンガーのお腹がまたしても若干削り取られてスリムになってしまった。
「スモッグの毒に耐性があるのは、ヘルガーだけです。
 スモッグを展開し終えた時点で、ヘルガーの勝利は決まったも同然なのです」
「……"大文字"を使わないのは、出し惜しみのつもりなの?」

サファリパークの草木を消し炭にして地面さえ溶かした、炎系最強の技が脳裡に蘇る。

「使うまでもありません。
 そのゲンガーには、キュウコンが味わった苦痛と同じものを、たっぷり時間をかけて与えてあげます」

愉しげに笑うアヤ。ヘルガーの不規則な攻撃が止まらない。

「"騙し討ち"」

時折混ざる悪タイプの技が、炎を警戒していたゲンガーを嘲笑うかのように薙ぎ倒す。

「このままじゃジリ貧だわ……」

打開策はあった。
でも、それを使えばゲンガー自身に致命傷を与えかねない。
だからあたしはゲンガーに、一度たりともその技を使わせたことがなかった。

「うっうー!」

ゲンガーがあたしに何かを訴えかけるように叫ぶ。
ゲンガーには痛みを受け入れる覚悟がある。
怖がっているのはあたしだけ。何かが吹っ切れた気がした。

「……"呪い"をかけて」
ゲンガーが頷いて、右腕を刃に変化させる。
そして次の瞬間、ゲンガーは自分の太い首を刺し貫いた。
真っ黒な血が噴き出して、倒れたゲンガーを中心に黒い血溜まりができる。
アヤはすぐにその行動の意味を察したようだった。

「ヘルガー、今すぐに"大文字"を放つのですっ!」
「ゲンガー、起きてっ!」

"呪い"は自分の体力の半分を代償に、相手を時間経過と共に瀕死に至らしめることができる技。
大局的に見た確実性は高くても、呪いの発動直後は著しい体力の減少から、一瞬で倒されてしまう可能性がある。
ヘルガーが薄まったスモッグから姿を現す。
ゲンガーはまだ目を醒まさない。

「お願いっ、早く起きて!」

前触れなく、ヘルガーの"大文字"がフィールドの三分の一を焼き尽くす。

「いやあぁっ」

あたしは一瞬、ゲンガーが灼熱で蒸発するところを幻視して、

「ウゥ……」

揺らめく空気の向こうに、片腕を失った緋の目のゲンガーを見た。
もうひとつの主格、レベル91のギャラドスが目を醒ましていた。

「ゲンガー……生きてるの……?」

ゴーストタイプに「生きてるの?」という質問が正しいのかどうかなんてどうだって良かった。
無くなった右腕の付け根を見て溜息をつきながら、ゲンガーは小さく頷く。
アヤが唇を戦慄かせながら言った。

「こんなの、こんなの有り得ません。
 わたしのヘルガーの"大文字"が、外れるわけないんですっ。
 "大文字"は最強の技なんですっ」

アヤがもう一度"大文字"を指示する。
当たりさえすれば何もかも焼き尽くす火柱は、ゲンガーとかけ離れた場所に立ち上がった。
この光景、どこかで――。
不意に、強烈な既視感に襲われる。
レインボーバッジを賭けたエリカさんとの戦いで、ラフレシアが"ソーラービーム"をゲンガーに発射したとき。
ラフレシアはゲンガーが見せた幻覚に惑わされて、正確な照準をつけることができなくなっていた。

「勝負あったわね」

ぽんぽんと手を叩く音がする。カリンが立ち上がって、こちらに近づいてくるところだった。

「まだです。まだ終わっていません!
 ヘルガー、あなたが見ているのは幻覚ですっ!
 本物はあそこに……ヘルガー?」

ぐらり、とヘルガーの四肢が頽れる。
カリンはアヤの肩に手を置いて言った。

「強力な"呪い"よ。最初の"大文字"で仕留められなかった時点で、勝敗は決していたわ。
 初めて"呪い"をかけられて慌てちゃったのね?
 落ち着いてスモッグを張り直していれば、ゲンガーに"ナイトヘッド"をかけられることもなかったのに。
 勿体なかったわね、アヤ」
くすっ。
まるで面白い映画を見た直後のように、満足げな伸びをして、髪を掻き上げるカリン。
嫌がるゲンガーの頭を撫でながら、

「この子、特別製ね?」
「はい。でも、どうして……?」
「あたくしだってゲンガーのトレーナーよ。この子が普通じゃないことくらい分かるわ」

小型化されたハイパーボールを、人差し指と中指の間に挟んで見せてくれる。

「レベルはまだまだあたくしのゲンガーのほうが高いけど、瞳術の速度には目を瞠るものがあるわね。大切に育てなさい」

初めて見た時は挑発的に見えた笑みが、親しげで優しいものに感じられる。
この人は本当にシステムの人なのかしら?
あたしの方から話しかけようとしたその時、

「カリン、その侵入者を捕らえなさい!」

涙目のアヤが叫ぶ。
白い手はドレスの裾をきつく握りしめているせいで、真っ赤になっていた。