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道行く人間の視線が心地よい。 普段は男女の連れに羨みの視線を向ける側だが、今日は逆だ。調子に乗ってはいけないと自分を窘めつつも、舞い上がる気分を抑えきれない。隣に座る見目麗しいハナコと、自分の釣り合いが取れていないことは別として。 青年は青年の親友に言われたとおり、適当に街を散策して、歩き疲れたハナコを慮り、公園で休憩を取っていた。 「これ、すごく美味しい」 「ミックスオレ、気に入った?」 「ええ、とっても。マサラタウンでも売っていたらいいのに」 そうだね、と相づちを打ちながら、青年の目は、ジュースを飲むハナコの白い喉に吸い寄せられている。 タマムシシティに住む者にとっては当たり前の何もかもが、マサラタウン出身の彼女には新鮮なようだった。本当に悪気無く、ハナコが田舎者でよかった、と青年は思う。今のところ、ハナコを退屈させずに済んでいる。 「そういえば、ハナコさんは……」 「ちょっと待って」 話題を振りかけたところで、制止された。 「そのハナコさんって呼び方、やめない?」 「え、なんで……」 「だって、あなたはわたしよりも年上で、しかもわたしのピンチを救ってくれた恩人なんだから。呼び捨てでいいわ」 降って湧いた呼び捨ての許可に、青年は言葉に詰まりつつ、 「それじゃあ、ハナコ……は、どんなポケモンを持ってるの?  この前、自転車に穴を開けたドードーの他に」 「わたしが持ってるポケモンは、二匹だけよ。もう一匹はこの子」 ハナコはバッグからモンスターボールを取り出し、公園の柴の上に放った。 赤い閃光の中から飛び出してきたのは、丸みを帯びたピンク色の体に長い耳、藍青色の双眸が愛らしい風船ポケモン、プクリンである。 プクリンは重力を感じさせないステップでハナコのもとにやってくると、彼女の膝に頬をすり寄せ、無垢な目を青年に向けた。 「プクリン、この人はね――」 ハナコが青年を紹介する。主の話す様子を見て、青年が悪い人間ではないと思ったらしい。プクリンは青年に向かい、二本の耳を折りたたんだり、開いたりした。プクリンなりの挨拶のようだ。 「可愛いプクリンだね」 「触っても平気よ。人見知りはしない方だから」 ハナコに言われずとも、青年はプクリンの温和な気質を見抜いていた。 青年が撫でてやると、プクリンは気持ちよさそうに体を揺らした。 「ポケモンの扱いが上手いのね」 「才能かな」 わざと調子に乗って見せると、ハナコは笑って、 「まんざら冗談でもないんでしょ?六つもボールを持っているんだもの。  ねえ、わたしにもあなたのポケモンを紹介して」 「いいよ。ただ、プクリンがびっくりしないかな」 「大丈夫よ。ついでにわたしもドードーを出すわ。  こんなに気持ちがいい天気だもの。ボールの中に閉じ込めるのは可哀想」 「確かに、そのとおりだ」 青年はベルトからボールを外して、一気に展開した。 昨日、ハナコを救ったメタモンを筆頭にして、オコリザル、モルフォン、ヤドラン、ケンタロス、ライチュウが現れる。 「この子たち、みんなあなたが捕まえたの?」 「そうだよ」 「すごい……オコリザルやケンタロスは、とっても気性が荒くて、捕まえにくいって聞くのに」 「運が良かっただけだよ」 謙遜しながらも、青年はポケモンに関して、自分に一種の才能があることを自覚していた。ポケモンの性格や、ポケモンが次にどんな行動に出るか――青年の『読み』はよく当たった。その読みの鋭さがどこからくるものか、青年が深く考えたことはない。 ハナコがポケモンを捕まえた経緯を知りたがったので、青年とハナコしばらく、二人のポケモンに囲まれながら会話を楽しんだ。 そうして、青年がサファリパークで遭遇したケンタロスとの、息詰まり手に汗握るバトルの顛末を語り終えた頃。 「そろそろ歩かない?」 ハナコがポケモンを仕舞って立ち上がった。そろそろ帰らない?と言われなかったことに安堵しつつ、青年は次にどこを案内しようかと思案する。行き場所を女に尋ねるのはNGだ男なら引っ張れ、と親友から念を押されたことを、律儀に守っていたのだ。 「……もいい?」 「えっ?」 「あなたの大学を、案内してもらってもいい?」 無論、青年にとって、普段通っているタマムシ大学を案内することは、吝かではないのだが……。 「ハナコが思っているほど、面白い場所じゃないかもしれないよ。建物は古いし、学食もお世辞にも美味くない。案内できるのも、多分、図書館ぐらいだ」 「いいの」 ハナコは青年に背を向けて言った。 「どうしても会いたい人が、タマムシ大学にいるのよ」 「どうしても会いたい人?」 「かなり有名な人だから、あなたも会ったことがあると思う……」 「その人はいったい誰なんだい」 「大木戸博士。わたしのお父さんの友達よ」

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