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「止めです、キュウコン。"火炎放射"」 「突き進め、ニドキング。お前なら堪えられる」 紅蓮の炎が迸り、鉄塊の如き巨体を包み込みます。 削り切れれば勝ち。 凌ぎきられれば負け。 真正面からの力比べは、思い返せば完全な賭けでした。 けれど、わたしはキュウコンを信じていたのです。 そしてわたしの最愛のポケモンは、見事、その期待に応えてくれました。 「あーあー、やられちまったか。  もうちっと踏ん張れると思ったんだがな」 倒れ伏したニドキングをボールに格納し、悔しげに頭を掻くその人の名は、シゲル。 トキワシティの現ジムリーダーにして、 わたしの義理の義理の父になるかもしれない人です。 認めたくありませんけど。 「強くなったなあ、アヤ。  いや、初めて会った時からお前は強かったが……」 「修行の成果です」 「俺の息子はちゃんと先生できてたか?」 「先生と言うよりは、ちょうどいい練習相手でした」 グリーンバッジの獲得を確実なものとするために、 わたしはシゲルの息子であるタイチという男に、先輩風を吹かすことを許していました。 本当はお姉様に指導して頂きたかったのですが、 先のポケモンリーグでAランクに昇格されて以来、多忙な日々が続いているようなので、泣く泣く遠慮したのです。 「晩飯の席でタイチはよく、アヤのことを誉めてたよ。  お前の成長ぶりがすごくて、親父が負かされる日も近いだろう、ってさ。  でも、まさかこんなに早く実現しちまうとは思ってもいなかった」 シゲルはこちらに歩み寄ると、懐から深緑のバッジを取り出して、 「おめでとう。これでアヤも、今日から晴れてパーフェクトホルダーだ」 「ありがとうございます」 わたしはバッジをケースに丁寧に仕舞って、深々と頭を下げました。 「そんなに畏まらなくてもいいぞ」 知己とは言え、ジムリーダーと挑戦者の関係に違いはありません。 「んー……気のせいか?  あんまりアヤが嬉しくなさそうに見えるのは」 「わたしは元々、感情を表に出すような性格じゃありませんから」 「それにしたって、笑顔の一つくらい見せてくれてもいいじゃないか」 しつこいですね。 そういえばあの男、タイチも思ったことをバンバン口にする人でした。 血の繋がりを感じざるを得ません。 「嬉しいことには嬉しいですが、大喜びするほど嬉しくない、というのが本音です」 「へえ、そりゃまたどうしてだ」 「だって、あなたは本気を出していない。  他のジムにしたって、そうです。  ポケモンのレベルや、覚えている技、トレーナーの指示の巧拙……。  どれも調整されたものじゃないですか。  力をセーブしている相手に勝っても、達成感はありません」 「そうは言ってもなあ、ジムのトレーナーが本気出していい、なんて制度だったら、  タケシのところで詰まる挑戦者が続出して、  ポケモンリーグ出場は物凄く狭い門になってたと思うぜ。  俺を乗り越えていけるヤツが、果たして何人出てくるかどうか」 「大した自信ですね」 「そりゃまあ、これでもトキワのジムリーダーだからな」 わたしは返す言葉を失います。 例え話、もしシゲルがジムリーダーの立場を無視して、強力な水タイプのポケモンを召還していたら、 わたしは一溜まりもなく敗北していたことでしょう。 この人はわたしよりも強い。 それは、わたしが成長したと自信を持って言える今でも、揺るぎのない事実なのです……。 「悄げるなよ。  確かに俺にはジムリーダーとして、使えるポケモンや技に制限があったけどな、  その制約の中で、全力でアヤと戦ったのは間違いないんだ。  それに周りを見渡してみろ、お前の歳でパーフェクトホルダーなんてそういないぜ。  確か、今年で十六だったか?  ヒナタやタイチが俺からバッジを奪っていきやがったのが十七の時だから、あいつらより一年も早いわけだ」 若き天才。期待の新鋭。 そんな言葉は聞き飽きました。 そして何より、功績に対する若さの自慢がどれだけ虚しいことか、わたしはよく知っているつもりです。 なぜなら……。 「……お父様は、十五の時には既にポケモンマスターでしたから」 シゲルは渋い顔になって言いました。 「あいつと比べるのはやめとけ。色々と自信を無くすことになる」 「流石は当時のライバル。言葉に重みがありますね」 「しばらく会わないうちに皮肉が上手くなりやがって……バッジ取り上げるぞ?」 「ふふ、絶対に返しません。  わたしは今日からランカートレーナーとして、お姉様の背中を追いかけるのです」 「ま、精々頑張ればいいさ。  お前ならジムを制覇するノリで、そうだな、Bランクまでは段飛ばしに行けるんじゃないか」 ここで少し、ランカートレーナーの説明をしておきましょうか。 パーフェクトホルダーは原則として、SからEの六つのグループにランク分けされています。 新人であるわたしが配属されるのはEランク。当然ですね。 公式戦で勝ち続ければ昇格でき、負けが嵩むと降格の憂き目に遭います。 ポケモンリーグが近づくとランクごとにトーナメントが行われ、成績上位者にリーグ出場資格を与えられる仕組みになっています。 ただしランクによって与えられる資格の数は違っていて、 例えば最高のSランクのトーナメントではベストエイトまでがリーグ出場資格を獲得できるのに対し、 最低のEランクでは、トーナメント優勝者のみしかリーグ出場権を獲得できません。 つまり、リーグ開催直前にEランクに配属されたわたしが参加資格を得るには、 是が非でもトーナメントで優勝しなければならないのです。 そしてEランク配属直後のトーナメントで優勝を果たし、 そのままポケモンリーグまでも制覇したのは、リーグ至上お父様ただ一人。 その事実はわたしを誇らしくさせ、同時に見上げるのも億劫になるほどの、高い壁を意識させます。 お姉様もパーフェクトホルダーになったとき、同じことを考えたのでしょうか。 ジム内の拡声器が、次の挑戦者が開始地点から出発したことを告げます。 わたしはもう一度礼をして辞去しかけ、立ち止まって、振り返りました。 「どうした?出口はそっちで合ってるぞ」 「道を訊こうと思ったのではありません。  またいつか……今度はわたしと、本気のポケモンバトルをしてもらえますか?」 シゲルは不敵な笑みを浮かべて言いました。 「おう。今度はコテンパンにしてやるから、覚悟しとけよ」 「望むところです」 わたしは力強く頷いて、今度こそジムを後にしました。 外に出てすぐに視界に入るベンチで、タイチはぐうぐう眠っていました。 隣を素通りしても良かったのですが、一応、恩のある相手ですし、 わたしを待っていてくれた様子なので、声をかけてあげようとしたところ、 「……ヒナタ……マジでヤバイって……それは………」 この男は、夢の中でお姉様に何をさせているのでしょうか。 「キュウコン、"甘噛み"してあげなさい」 がぶり。 「うおっ」 飛び起きたタイチは足許のキュウコン、正面のわたしの順に寝ぼけ眼を向けて、 「おー、アヤか。  あんまり天気が良いからウトウトしちまってた……」 完全に爆睡だったじゃないですか。 わたしはそっぽを向いて、然るべき質問が来るのを待ちました。 タイチは実に間抜けな顔で大きな欠伸をした後、急に真顔になると、 「欠伸してる場合じゃねえ!試合の結果はどうだったんだ!?」 「実は………」 眉をハの字に傾げ、下唇を噛んで見せます。 わたしは演技派なのです。 重く沈痛な空気が張り詰め、タイチがガックリと肩を落としたところで、わたしはバッジケースを開いて見せてあげました。 「そう気を落とすなよ、また特訓してから再挑戦すればいいさ」 「合格しました」 「アヤなら絶対に行けると思ってたんだけどなあ……って、今なんて言った?」 「だから、合格しました。ケースの中を見て下さい」 「うわ、マジだ。ちゃんとグリーンバッジもらってるじゃねーか!  良かったなぁ、アヤ。頑張って対策した甲斐があったな!」 わたしはそっぽを向いて言いました。 「勝因の八割はわたしとポケモン本来の実力です」 「せっかく喜んでやってるのに、そんな可愛げのねえこと言うなよ……」 「でも、最後の最後であなたのアドバイスが役に立ちました。  それに、ここしばらくわたしの練習相手になってくれたことにも……その……感謝しています」 「アヤ……」 「勘違いしないで下さい。しょせんあなたは、お姉様の代わりです。  トキワジム攻略経験を持つ丁度いいサンドバッグとして利用したまでです」 「へいへい」 「その気持ち悪いニヤニヤ笑いを即刻やめて下さい」 「そいつは無理な相談だな」 「怒りますよ」 「ははっ、そんな怖い顔すんなって」 まったくもう、これだからわたしはこの男が好きになれないのです。 どうしてお姉様がこんな男を選んだのか、本当に理解に苦しみます。 「それにしても、アヤがグリーンバッジを手に入れたことを知ったら、ヒナタも大喜びするだろうな。  早速電話してやれよ」 「そうしたい気持ちは山々ですが、お姉様も今、大切な公式試合の途中です。  集中を途切れさせるようなことはしたくありません」 といのは実は建前で、明日、直接朗報を伝えたいというのが本当の理由です。 あぁ、お姉様の笑顔と誉め言葉を想像するだけで、自然と頬が緩んでしまう……。 空想に耽りかけたわたしを、タイチの声が現実に引き戻します。 「アヤはこれからどうするんだ」 「ポケモンセンターに傷ついたポケモンを預けに行きます」 「その後は?」 「特に何も」 「じゃあ、家に来いよ」 「どういう意図があってのお誘いですか?」 「晩飯を一緒に食おうって誘いだ。  お前が最後のバッジ手に入れたって教えたら、うちのお袋、すげえご馳走作ってくれるぜ。  ポケセンの質素な食事にはいい加減飽きてきたところだろ?」 「でも……そんな……悪いです」 「遠慮すんなっての。お前は未来の妹なんだからよ」 「あまり調子に乗らないで下さい。  わたしはまだあなたを認めたわけではありませんから」 腹立たしい発言にキュウコンを嗾けつつも、食事のお誘いには抗えないわたしでした。

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