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「何故こんなところに球形戦車が?」
「随分と情けない姿だが」
「例の裏切り者達と戦闘したのだろう」
「0012の『召使』にこのタイプのサイボーグはいないはずだぞ」
 男達が0011を見上げて顔を見合わせる。失礼な、と無言で0011は考えながら、銃眼の奥のレーザー砲をセットする。見たところ武器は持っていないらしいが、用心に越したことはない。争いに興味はないが、命は惜しい。
(妻と娘の顔をもう一度見るまでは)
 身体は手に入らないだろう。だが、遠くからでも垣間見られる機会があるかもしれない。そして、行く宛を無くした双子の青年達も気にかかる。
(自分のことしか考えていなかったが……)
 万能の戦車となったが、それでも自分一人では何も出来ないことを、あの試作品達との戦いで痛感することになった。彼らに敗北したことで、改めて自分以外の存在に目を向けることが出来るようになったのかもしれない。そんな事を考えながら、「騙されている」とあの009なる若者が必死な顔で訴えてきた事を思い出す。
(………そのくらい、わかっている)
 おそらくは本部では『裏切者の抹殺に失敗し返り討ちに遭って破壊された』ことになっているであろう、双子のサイボーグと自分の立場は非常に危うい。そもそも、役立たずを生かしておく程の慈悲などを持ち合わせていたら、人間の脳を戦車に移植するなどということはしないだろう。あの双子も、動力をオンにしている間は決して双方近づくことが出来ない程の強力な電極を仕込まれている。何よりも家族の『ふれ合い』を大切にしていた彼にとっては、考えられないことだった。
(動けないふりをするか)
 こんなところで暴れたら、真下にいる双子に被害が及ぶ。
「0011は完全破損したはずだが………」
「ああ。例の、内部に脳を積んだタイプの試作品か」
 同じ型の戦車が大量に生産されているお陰で、自分から話しかけない限りは個として認識されない。ありがたくもあるが、やるせない。
「それより、こいつがここにいるという事は、中に誰かいるかもしれないということか」
「そうだな」
「誰だか知らんが急ぐぞ。データが盗難されたらえらいことだ」
 ドリルで開けられた穴から、男達が中に入っていく。ウーン、と小さく溜息代わりのモーター音を漏らしてから、0011は再び通信機のスイッチを入れた。

『今そちらに降りていったよ』
「ああ、聞こえた」
「要するに、盗難し甲斐のあるデータがあるということだな」
 プラスがニヤリと笑って手にしているデータを見やる。そんな兄を見たマイナスが先程開けたままの扉の前まで戻り、隙間に手を当てて言った。
「そんなに盗難が心配なら、俺が鍵をかけておいてやる」
 がちゃん、と妙な音を立てながら鍵が閉まる。誤操作を引き起こされた電子ロックは、しばらくは開けられないだろう。
「成る程な」
「俺達は親切だからな」
 戻ってきたマイナスが、再び脳のケースを拾い上げる。
「来たな」
 二人の耳に足音が届く。二人がいつものように、部屋の端と端にそれぞれ移動してから、電極の出力を少しづつ上げていく。階段を降りてきた男達が、部屋の両端に立っている双子を見て、ぎょっと立ちすくむと言葉を失った。
「誰だ」
「お前達ほどは怪しくない者だ」
 微かに電気を帯びて光る髪と銀色の肌を持ったツインサイボーグは、研究者の間でも有名だった。
「まさか……0010か。どちらがプラスで、どちらがマイナスかは知らんが………」
「何だ、俺達の事を知っているのか」
「ということは、お前達もやはり『黒い幽霊団』の奴らだというわけだな」
「こんな時間に、ご苦労なことだ」
 敵意を剥き出しにするわけでもない自分達の様子を見て、男達が困惑の表情を浮かべるのが妙に滑稽で、思わず双子が同時に肩を竦めて笑う。
「………とりあえずだな、そのカプセルを返してもらおうかね。上層部曰く、0012の技術がこれからも必要なんだそうな。まだこのご婦人には死んで貰っては困るのだよ」
 思わず双子が目と目を見交わした。
「………ご婦人だと?」
 怪訝そうに聞く双子には返事を返さずに、男の一人が問い返す。
「何だ。0012の事を知らなかったのか。………そもそも何故に試験型サイボーグがこんなところをふらついているのかね? 試験開発されたツインサイボーグは、裏切り者どもに壊されたと聞いたが」
 弟が、忌々しげに舌を鳴らしてから言う。
「簡単には『死ねない』頑丈な身体だからな。感謝するぜ」
 兄もまた、皮肉を湛えた笑みを浮かべ、悪びれもせず男に言う。
「忌々しい一桁台の奴らとやりあって、こっぴどくやられたのは事実だ。で、増援を頼もうと思って『仲間』のところに来てみたらこの有様だ。0012はどこに?」
「ここだ」
「ここ?」
「この家だった場所全てだよ」
「家?」
 男が手にしていたケースの中から一枚の図面を取りだした。
「彼女は、有機体としての機能を備えた『家』でね」
 図面に描かれている部屋中の至るところに奇妙なギミックが仕込まれている。中枢部分に脳の収める部屋があり、『0012』と印字されている。思わずマイナスが手にしていた脳をまじまじと凝視する。
「もしかしてこいつが……」
「その通り。0011は兵器を、0012は基地全体を一つの頭脳で自在に支配する実験体だというわけだ」
「再構築までに時間がかかるな。幸いにも脳は無事だ」
「あの裏切り者どもに派手に破壊されたらしい」
 男達が辺りを見回しながら呟く。
「奴らに邪魔をされなければいいが」
「0013が奴らの人質を連れて東京まで行っている。その間はやつらとて、こちらのことまで気を回す余裕などないだろう。とっととやるぞ。博士に連絡は?」
「すぐに来るそうだ」
 改造されてすぐに戦闘訓練に駆り出された双子は、チャージ機を搭載された0011以外の自分達の『後続機』を知らない。
「0013?」
 二人の声が重なった。
「最後の非量産型サイボーグだ。サイボーグだけでなく、ロボット技術も注ぎ込んだ最新型だ。今度は返り討ちにあったりはしないだろう」
 当てつけのように言われて、二人が同時に眉を寄せる。
「俺達の出る幕はないと言いたげだが、あの試作品どもを甘く見ると酷い目に遭うぞ」
「経験者からの忠告だ。0013とやらに伝えておくといい」
 今度は男達が眉を寄せる。
「怖じ気付いたのか」
 兄が笑う。
「俺達は俺達の流儀でやっていく。それだけだ」
 マイナスがそんな兄を見る。兄が
「サイボーグ9体と最高の頭脳を持った博士を相手に戦うのは厄介だ。外にいる0011を補強せねば話にならん。あそこは球形戦車の量産地だ。パーツが手に入る。俺達の身体もまだ破損している部分があるからな」
「成程。相も変わらず組織に忠実だというわけか、お前達は」
「……もちろん」
「命令は遂行する」
 脳波通信での打ち合わせなどなくても、二人は片目でちらりと見交わしただけで何の滞りもなく息を合わせることが出来た。男達が顔を見合わせて、笑う。
「それでこそ我らが素晴らしきサイボーグだ」
「社長に報告しておくか」
「そうだな……」
 社長、というのは一体誰のことだ、とプラスが一瞬考え込み、表情一つ変えずに黒ずくめの男達を再びじっくり観察する。近くの半壊した壁の上に置いたままのカメラが、強化された彼らの聴覚にだけ聞こえる微かな音を立てながら回る。
(0011もこいつらを観察しているらしいな)
 とりあえず、こんな狭い場所で戦闘にならないだけ、正直なところ彼らにとってはありがたかった。マイナスが脳だけの姿になった0012を男に手渡して、言う。
「使用可能なら、とっととこいつを復活させてくれ。どうも俺達の戦力にはならなさそうだがな」
「もちろん。だが、覚えておくといい」
「2度目はない、と言うことだろう」
 勿体ぶった物言いを遮るかのように、プラスが言う。
「0013は、命令に違反および失敗した場合、自爆装置が作動するようになっている」
「…………」
 0011にも取り付けられていたというものと同型だろうか。
「運が良かったと思って、せいぜい頑張ることだな。お前達が生きているという事は、外にいたのはもしかして0011か?」
「……ああ」
「せいぜい補強して『帰って』こい。我々は使える者は無駄にはしない。これが通信機だ」
 要するに、今度はこの黒づくめの男達の指示下に入れ、ということなのだろう。懐から通信機を出した男が、乱暴にプラスにそれを投げ渡す。だがしかし、投げ渡された通信機は、彼の手に触れた途端、火花を上げて弾け飛んだ。
「失礼。知っているとは思うが俺達の身体は強力な電極でな」
 反射的に銃を抜いた男達を見て、双子が笑う。
「まあ、心配しなくても、俺達はどこぞの九人のお人好しとは同類じゃない」
「だが、数少ない同類を放っておく程、冷血でもない。俺達二人がかりで勝てなかった9人相手に、一人で向かっていく羽目になった可哀想な奴がいる、ということは覚えておくか」
「そうだな。血といっても、俺達の場合はほとんどが配線だがな」
「同じ配線を持つ仲間、か」
 そんなことを笑って言ってのけながら、彼らは壁の上に置かれたカメラを『何の問題もなく』手にとると、男達に背中を向けて、歩きだした。

『無事でよかった』
「まあな。しかし、気にくわない奴らだ」
 プラスが呟いた。
「相変わらず、俺達を駒としてしか扱っていないらしい。使えるうちに使っておけ、という魂胆だろう」
「それにしても、失敗を生かせないとは何事だ。俺達二人でも勝てない奴らのところにたった一人を送り込むとは。そんなにも0013とやらは高性能なのか?」
『慈悲もなければ知恵もない、というやつらばかりかね、BGの首脳陣は』
「さあな。俺たち試作品は使い捨てにしても問題はない、とでも思っているだろう。0013以降は全て量産型らしいしな」
『いっそ奴らこそ脳を取り替えてもらえばいい。まさか、女性の脳を丸々「家」に移植するとは…』
 陰鬱な声で呟く0011が、言った。
『0012、か。わしら以前に生み出されたあの一桁台の連中は、まだ幸せなのかもしれんな……』
 完全な無機物に脳だけを移植し、文字通り完全に無機質な設備そのものをコントロールするという、自分と同じコンセプトで生み出された存在がいるとは、今日の今日まで知らなかった。しかもその被験体は女性らしい。つい先日、裏切り者の始末、という任務で女性サイボーグの003と対峙した双子が、顔を見合わせる。
「………少なくとも、あの女は人間の形はしていた」
「そうだな」
『この調子だと、0013とやらは一体どんな姿にされているのやら、皆目見当もつかんよ』
 そういう彼の進路が、ベトナムへ向かうはずの南ではなく、北へ向いている。0011の丸い窓の遙か彼方に、眠らない大都市の色とりどりの明かりが、かすかに輝いている。
「俺達はお人好しじゃないが、おっさんはそうでもないらしい」
『いや、わしだってそこまでお人好しじゃあない。単純に……自分と同じ境遇の奴らがいるのなら、会ってこの目で見てみたいだけだよ。その後どうするかは、わからんがね』
 ウーン、というお馴染みの音が響く。こちらもまたいつもの様に、双子が同時に首を竦める。
「まあいい。……ああ、それと、中にあったデータをちょろまかしてきた。何かに使えるかもしれん」
『何だって?』
「これも俺達の流儀だ。切り札になりそうなものは、持っていた方がいいだろう。使えるものかどうかはわからないが……」
 拾い上げてきたディスクを、0011のコンソールに入れてみる。しばらくすると、膨大なデータと共に何やら精密な図面が浮かび上がる。
「なんだ、これは」
「設計図のデータか。俺達の回路もあるぞ」
 今後自分達を修理する時に役に立つかもしれない、と体内に『放り込まれた』データを解析しながら0011が言った。
『他には……何かよくわからんものも入っているな。真空状態における脳器官の完全保存、だそうだ』
「真空状態?」
「脳のまま宇宙旅行でもするつもりか?」
『BGは成層圏外の宇宙兵器も開発しているが……』
 一応自分達の身体もまた、成層圏外でも問題なく活動できるということは聞いている。最も、そんな機会などないのだろうが。
「で、これは何だ?」
 双子が首を傾げて、画面に映し出されたものを凝視する。そこには青銅色の、得も言われぬ禍々しさを湛えた巨像型の兵器らしきものが、煌々と映し出されていた。


+ あとがきとか補足とか