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 人里離れた森の奥で、外装のはがれ落ちた黒い球体型兵器が『休んで』いる。そんな黒い兵器の上で、一人の青年がケーブルを握って寝そべっていた。
「調子はどうだ、マイナス?」
 0011の内部でコンソールをいじりながら、兄のプラスが穴の空いた銃眼の外へと声をかける。
「まあまあだな、兄さん。出力に問題はない」
「俺達はこれで、ほぼ問題ないが……」
 ジェット燃料が手に入らない今、0011の動力は文字通り『自家発電』に頼ることになった。電流プラグを手先で弄びながら、
「世話の焼けるおっさんだ」
 マイナスが笑う。
『すまんな』
「まあ、あんたは俺達を直してくれたからな。スペアの肌外装も問題ない。光電力変換機能も作動した」
 兄も言う。
「持ちつもたれつってやつだ」
 この双子にとって、自らの体こそが最大の電力源である。電流プラグを持ったままマイナスは0011の頭の上に登って横になり、電力を放出しながら身体を休めていた。頭上を飛んでいく小鳥達と、柔らかく照りつける太陽の日差しが、肌の代わりに張られている彼ら独特の銀色の特殊外装を通して、ゆるやかに電力へ変換されていく。穏やかだが、何か胸の中にぽっかりと空洞が空いている気がしてならない。電力の装填が終了したブザーが響き、マイナスは0011から飛び降りて、内部へと戻っていく。
「なあ兄さん」
「何だ?」
「これから、どうするんだ。ベトナムに行って、0011を修理した、その後だ」
「そうだな………」
 二人が同時に手を止める。
「試作品どもに再戦でも挑むか?」
「悪くない案だが、俺とお前と0011でも、3対9だ。しかも、あちらにはBG最高峰の博士がいる」
「誰だっけな。確かギルモアとか言ったっけな」
「そうだ」
 お馴染みのウーンという唸り声を上げて、0011が言った。
『わしは、争いには興味がないよ。新しい身体が手に入る目算がない限りはな』
 双子が顔を見合わせる。
「じゃあ……博士を、狙うか」
「やれんことはないな」
「拉致して設備の整った場所まで連行して……」
「で、新しいボディを作らせる、か。3対9を克服してかつ設備とパーツを確保できるだろうか。俺達三人だけでは無理だ」
 双子の兄が冷静に言った。
「成程。サイボーグ戦士が9体いれば、一つの小部隊として立派に成り立つからな……多すぎず、少なすぎない。あの博士とやらは、それも計算していたんだろう」
「フン、003は女だったじゃないか。で、001は赤ん坊だって話だ。そう考えると、3対7になる」
 001に関しては『赤子』というデータ以外を聞かされていない。マイナスが首を竦める。0011が訝しげに聞いた。
『女?』
「俺達より年下だ。目と耳がどうのって話だぜ。おっさんは会ってないのか」
『ああ』
『お前さん達より年下か……ということは、わしの、娘くらいか』
 黙り込んだ0011の心境が手に取るように理解できて、双子は顔を見合わせて肩を竦める。
「今試作品どもとぶつかるのは得策じゃない、ということだ」
「致命的な不具合があるからな。俺達には。敗因を克服してから考えればいい」
 どうも、何とも言えない変な気分である。好戦的な性格の双子が、黙り込む。
『………ありがとうよ。わしの気持ちをくみ取ってくれるとはな』
 人からそう言われることにも慣れていない。
『三「人」というのも、良い響きだ』
 人の姿ではない0011が、何のてらいもなく呟くと、双子がまたしても顔を見合わせて、同時に何かを言おうとして、また黙る。その途端、プラスが復活させた通信傍受コンソールから雑音混じりの音声が流れ出した。
『……ボス……あいつらは…………サイボーグじゃありませんぜ』
『アラ、何者かしらね』
 ボス、と呼ばれている妙齢の女性の声が雑音混じりに響く。
「女性の幹部なんていたか?」
 思わずマイナスが呟く。
「女性の博士ならいたような気がしたが……」
 プラスが首を傾げて、傍受した音声の音量を上げる。
『さあ………まあ、コズミ博士は無事に……あいつらのところ……ええ、かっさらったんで………』
『いいわ。これからあの………ネズミどもが9匹やってくるでしょうから、ついでに……』
『了解…しやした………009には…あいつが一番……気をつけて下せえ』
 弟のマイナスよりは機械の心得があるプラスが、BGの誰かが使っている電波を傍受できるように設定しておいたものである。
「コズミ博士?」
「そんな名前は聞いたことがないな。誰だ?」
「さあな……」
「発信源は矢吹町13番地か。拠点の一つがあるのだろう」
 双子なだけあって、この二人の会話のテンポの良さには舌が回る。もはや『舌』などは持っていない0011が、思わずそんな事を考えながら言った。
『仲間が近くにいるという話は聞いている。そやつらの通信じゃあないのか』
「日が暮れたら行くか。0011を連れて行くなら人目がな」
「そうだな。あいつらと鉢合わせでもしたら再戦闘だ」
 何しろ修理の終わった直後である。しかも、0011に至っては外壁が剥がれ落ちた姿のままだった。戦闘は嫌いではないが、不利な状況は避けたい。
「兄さん」
「何だ?」
「俺は、怖じ気付いてるわけじゃない」
 いつもより、ほんの少しだけ柔らかい口調で、プラスは返事を返す。
「わかっているさ」
 そんな二人を乗せた0011が、モーター音と共に浮かび上がっていった。

「ここか?」
「何もないじゃないか」
 真夜中の町外れで、双子が0011の銃眼から外を見て首を傾げる。
『いや、足下を見ろ』
「え?」
 プラスが瞳から明りを放射して、地面を照らす。
「土の色が違うな。何か埋まっているのかもしれない」
「0011、ちょっと行ってくる」
『ウム』
 プラスが二人は0011から降りて、辺りを見渡してみた。
「あちらにタイヤの跡がある」
 タイヤの跡と、人の足跡が地面の上に点在している。ところが足跡を逆に辿っても、入り口らしきところが見当たらない。一面、ただの空き地である。
「ここの地下に入り口があるということか?」
 6本のアームは折れているが、内蔵してあるドリルは破損せずにすんでいる。
『………掘ってみるか?』
「ああ。そうしてくれ」
 ウーン、というお馴染みの稼働音と共に、0011の下部からドリルが現われる。
『丸で墓荒らしにでもなった気分だ………それにしても、どうにも砂が多くていかんな』
 そんな事を呟きながら、垂直下方にドリルをゆっくりと進めていた0011が、その動きを止めた。
『空洞に行き当たったぞ。地下室があるらしい』
「降りてみよう」
『わしは待機しているよ。カメラと通信機を繋いでくれるかね?』
「了解」
 0011が偵察用に使う小型のアイカメラと通信機を手に、双子が地面の下へと降りていく。
「これは………」
 随分と傾いている階段を用心深く歩きながら、プラスが呟く。
「基地、というわけでもなさそうだが……丸で、家の中みたいだ」
「シャンデリアだな」
 割れた額縁などが散乱して半分砂の中に埋まっている。
「………何があったんだ?」
「これは、壁のタイルに……窓ガラスだ」
「何だって?」
 豪奢な紋様の壁が、半壊したまま砂の中に埋もれている。
『家だ。ここには……家が丸ごと埋まっている』
 何があったのか、皆目見当が付かない。三人が思わず沈黙する。
「取りあえず、進むか」
「そうだな」
 廊下の真ん中の床がぱっくりと抜けていたり、壁が焼けこげていたりする奇妙な館の中を、注意深く彼らは歩いていく。しばらく奥に進むと、半分砂に埋もれた扉に突き当たった。破壊されているとはいえ、明らかに豪奢な紋様の入っていたであろう壁や調度品と違い、鈍い銀色の頑丈極まりないその扉を見てマイナスが呟く。
「取っ手も鍵も見当たらないが……壊せるか?」
「機械室らしいな。何かあるかもしれん」
 二人が三歩ほど後ろに下がり、お互いの距離をまた2歩ほど離す。そして0011との通信機を半壊した壁の上に置いてから、強力な電圧を放出する。何かが爆ぜるような音がして、扉のビスが吹き飛んだ。音を立てて内側に倒れた扉を踏み越えて、双子が入りこんだ部屋は、砂で半分埋もれた機械室だった。
「ここが中央部か?」
『それにしちゃあ、変な点が多い気がするがね……』
 紙の束や何かの記憶メディアらしいものが散乱している。頑丈な金庫らしきものを見つけた二人が、顔を見合わせた。
「開けてみるか?」
「そうだな。電子鍵か。ちょうどいい」
 プラスがかがみ込んで金庫の鍵に触れ、指先から微弱な電流を流す。誤操作が引き起こされて開いた扉をのぞき込むと、中には大量の書類と、チップの納められた一枚のディスクが入っていた。小さなディスクを手にとって、彼は呟く。
「あとで0011と解析してみるか……」
「そうだな。ここでは無理だ」
 ますますわけがわからない。さらに奥を見ると、何かの爆風で吹き飛んだと思われる穴が壁に空いている。無数の機械とそのコンソールの破片、数々のちぎれた配線で埋め尽くされた床に、半透明の球体のケースがぽつんと落ちていた。煤にまみれて半分黒くなっているそれからは、これまた何本ものちぎれたコードが伸びている。
「何だ、これは」
「………よく見てみろ。脳だ」
 思わず二人が顔を見合わせて、小さく首を振った。
「奴らとやり合ったあとか? この焦げ跡はレイガンだろう。頑丈なケースで出来ているな。中は無事だが配線が切れたらしい」
「おそらくはな。………0011、どうする?」
『………いや待て。プラス君、ちょっとそれに触ってくれるかね?』
「脳に?」
『わしの造りもそうだが、我々後期試験体サイボーグが、自力で危機を回避できない緊急事態に陥った場合に、脳のカプセルごと、瞬間凍結する機能がついていることがある』
「自力で回避できない場合?」
『敵が襲撃してきて身体が使えない状況に追い込まれた場合の措置じゃよ。脳を破壊されたら一巻の終わりだからな』
 最も、敵方に証拠が一切残らないように爆破できる「自爆装置」もあるのだが。半透明のケースを拾い上げて、マイナスが呟く。
「成る程、冷たいな。おっさんの言ったとおりだ」
『蘇生する可能性があるな。……いや、待て、誰か来たぞ。車から降りてきた奴らが、こっちにくる』
「何だって?」
『人数は5人。見た感じは人間だが、中身の方は、言わずもがなだ』
「わかった。何かあったら待避してくれ。加速装置は?」
『作動する。身体に穴が空いた状態だから長時間は無理だが……そちらも気をつけてくれ』
 スキャン機能が付いていれば人間とサイボーグの判別は簡単だが、彼の身体に10箇所以上取り付けられたレンズは、むしろレーザーガンの銃眼としての機能を重視されていた。双子達の眼窩も、高圧電流が発せられる代わりに、最低限の機能しか搭載されていない。
「了解」
 双子の返事が綺麗に重なった。


+あとがきとか補足とか
妻子持ちの0011ですが、彼の中の人が壮年の男性らしいということで、娘さんはちょうどフラン嬢くらいかしら。
003と会っていたら若干展開が変わっていたのかな、と思ったのでこんな感じに。
平成版では説得担当がこれまた全身兵器の004でしたね。

0012奥様は家の中で爆弾が破裂しても原作では一向に平気だったので(コズミ博士型爆弾とかね)、どうにか生き延びていただきます。