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 銃眼を兼ねた青い窓の外に、それよりも青い空が見える。
『……お前さん達を乗せたまま、自爆なんて出来んよ』
 壮年の男の声が球形のコクピットの中に響く。
 皮膚が焦げ付き、身体の至る所の配線が剥き出しになっているサイボーグの青年が、そんなコクピット脇に二つ並べられた寝台の一つで、横たわったまま息を吐きだして呟いた。
「外装だけを爆破して撒き散らし、加速装置を使ったのか」
 まだ身体が動かないのは、身体全体にかかった過負荷のせいだろう。そんな自分と、これまた同じように体中が傷ついている自分の双子の弟を乗せた、この黒い球体の如き『乗り物』が言った。
『毒性のある雨を撒き散らしてやったよ。やつらもわしらを確認するより先に逃げ帰っていった。あの試作品達は「人型」だ。毒も効くだろう』
「あの間抜けな試作品どもは、俺達が死んだと思ってるだろうな」
 双子の弟、0010マイナスが寝そべったまま鼻を鳴らして笑う。
「結局、勝てなかった」
「そうだな」
「………それもこれも、あの阿呆揃いの博士どもが悪いんだ。近づきすぎるとショートするだなんて、手落ちもいいところだ」
『今はお前さん達の電極をOFFにしてあるよ。まあ、しばらくはそうせざるを得ないだろうがな』
 黒い球体に6本の足を持つ、多脚機動兵器0011(ゼロゼロイレブン)は、見た目は最新兵器ではあるが、その内部には人間の脳および各種様々な武器やアーム、ツールなどが組み込まれていた。加速装置もレーダー砲も、さらには各種様々なギミックが組み込まれているが、この兵器はそれをあたかも文字通り「自分の手足のように」扱える点においては誰よりも優れていた。だが、
『………わしも大分やられたよ。脚部と銃眼が破損した。どうしたものかね』
 11番目に作られた自分よりも先に製造された試作品サイボーグ達との戦いで、彼と、彼より少し前に改造された双子0010プラスおよび0010マイナスの三人は、酷く破損することになった。
「痛くないのか」
 双子の兄、プラスが聞いてくる。
『お前さん達と違って、今のわしに痛覚はないよ』
 BGこと「黒い幽霊団」に誘拐される前は、エンジニアだった。機械の扱いには誰よりも慣れていたこの道20年以上のベテランである自分が、ある日突然誘拐されて、気がついたら機械にされていた。妻や娘はどうしているのだろうか。今や「0011」と呼ばれる鉄の塊になっ
てしまった自分だが、脳だけはかろうじてこの黒い身体の中に収まっている。
『お前さん達のほうが大変だろう』
 体内に自分の娘より一回りほど年上くらいであろう双子のサイボーグを収めた男が、笑う。双子の彼らを運送する役目も果たすため、ここには狭いながらもメンテナンスツールが全て揃っている。彼らの電極を操作する機械も設置してあった。
『最初にお前さん達を拾い上げた時は、もう駄目かと思ったがね』
「俺達も死んだと思った」
 双子の兄が皮肉げに肩を竦める。
「まあ、どの道、俺達は命令を果たせなかった。このまま帰っても『廃棄処分』だな」
「わざわざ帰る理由もない」
 弟の方も笑う。この二人には組織に対する『服従回路』みたいなものが組み込まれていると聞いたはずだが、作動していないのだろうか。もしかしたら身体にかかりすぎた電流のせいで、そういった何かが焼き切れたのかもしれない。元々、そういった争い事にはとんと興味がない一般人である0011には、それが何か「自由」にも似た喜ばしいことにも感じたが、
『身体が、手に入らなくなってしまった』
 それだけが気にかかってしょうがない。娘はもうすぐ15である。優しき妻の顔も見たい。「黒い幽霊団」を裏切った試作品達を捕獲して連れ帰れば、この双子の兄弟の持つそれと同じ『人型』の身体を新たに提供して貰えるはずだった。
「それよりも今の身体を心配した方がいいんじゃないのか?」
 双子の弟が首を竦める。
『………そうだな。だが、BG以外では替えの部品が手にはいるかどうか』
「どこぞの基地から頂いてこればいいじゃないか。俺達以降のサイボーグは量産されるらしい」
「俺達はこうして基本的構造の一部を失敗している。電極対策を練り直すよりはあの博士どもは新型開発に力を注ぐだろう」
「俺達に明日はないってわけか」
 以前、兄弟二人で観に行った映画の名前を口に出して、弟が笑う。
「だが、0011、あんたは別だ。BGの戦車はあんたと同型だ。外側は修理できるぜ」
 自分と同じ型の球形戦車を量産してベトナムへ出している、という事は知っている。自分の様に脳を積み込む手間よりは、簡易型サイボーグを操縦に当てるという話も噂で聞いた。
『ベトナムか………』
「ああ」
『どうせなら、お前さん達みたいな人型のパーツが欲しいものよ。こんな姿では、妻と娘に会うこともできん』
 双子が顔を見合わせて、ほぼ同じように苦虫を噛みつぶした様な顔になる。他に兄弟などいらない。ましてや家族などとは縁がない。二人だけで生きてきたというのに、組織に拾われて改造された後は、お互いに近寄れない身体になった。しかも、弟にはマイナス電極が、兄にはプラスの電極が仕込まれた肉体は、最大にして最強の武器である強烈な電流を発する代わりに、お互いに近寄りすぎるとスパークしてしまうという弱点があった。その弱点を、自分達より先に生み出されたサイボーグ達に利用されて、敗北に至り、こうして今現在0011の体内で修理作業を受けている。
「やってられんな……」
 マイナスが呟いた。身体の表面部分はほぼ焼けこげて、身体の機能は3分の2以上が停止する事態になっていたが、元エンジニアだというこの男が、己の身体でもあるこの機内の設備を自在に操って、どうにか再起動できるまで回復させてくれたらしい。
『全くだ』
 生きのびて「以前の姿で」妻や娘にもう一度会いたい、そして再び一緒に暮らしたいが為に、組織の命令に従ってきた。
(わしの腕を甘く見過ぎていたようだが……)
 コクピット部に積まれた脳を、こちらの意思など関係なくコンピューターで乗っ取るオーバーフロー機能、果てはいざという時のために自爆する装置まで搭載されていたが、何とかその配線を切り離すことに成功し、外装を吹き飛ばすついでに、BG本部への通信機能も必死で取り外した。何が悲しくて己の自殺用装置を体内に内蔵する必要があるのか。博士号こそないが、20年以上も争いとは無縁の機械工学に携わっていた男である。おそらくは組織が考えている以上に彼が優秀なエンジニアであったことが、使い捨てにされる予定だった自分の命と、この双子のサイボーグの命を救ったらしい。兄のプラスが言った。
「まあいい、お前がこの形をしてなかったら、俺達兄弟はとうにあの世行きだ。こんな身体じゃ、あの世にすらいけないかもしれんしな。そう思うと、この世のほうがいい」
『………』
 ウーン、という彼独特の、高性能モーターが唸る様な、あるいは低い溜め息を漏らす様な、人の声とも機械の声とも判別できない声が響く。
『お前さん達を完璧に修理できんのがなあ……。この近くにはもう一人仲間がいるはずだが、通信機能を外してしまったからな』
「何故?」
『脳を乗っ取ったり自爆装置がついていたり……それが、通信機で制御されていたからな。そんなものはいらんよ』
「………」
『お前さん達には、ついていない様だがね。まあ、通信経路は基本的に過電圧に弱い。変な回路は取り外して、生きている回路に再利用させて貰った』
 そういえば脳波通信およびBG本部へ直結している体内の通信機が作動しなくなっている。弟と衝突した際の負荷で壊れたらしい。
「俺達の外装のスペアは?」
『強化皮膚がある。わしの外壁はともかく、お前さん二人はそんな配線むき出しの姿では良くないだろう』
 己が「人の姿」でないだけに、この双子が人の姿だとはいえ体中の至るところから配線を剥き出しにしたまま横たわっている姿は、居たたまれない。そんな 0011独特の黒光りする艶やかな表面塗装装甲の一部は、自爆に見せかけて煙幕代わりに吹き飛ばした後である。撃ち抜かれた銃眼の一つが、手近な器具で塞がれている。
「ベトナムまで行くのはかまわんが、それより、近くに修復できそうな施設でもあればいいんだがな………」


+あとがきとか補足とか
説明文だらけで申し訳ない(ほろり)
まさかの0010以降の00サイボーグのアナザーストーリーです。
タイトルは「ゼロゼロアフター」。とりあえず13番まで出たらいいな。
原作と平成を程良くミックスさせて書いていく予定です。
需要なんて知りません。マニア向けですがマニアからのツッコミが怖いです。
原作を読んでいて、そういえば0011はあの双子を回収して体内に載せたまま戦闘してたのかな、と思ったところからネタが出来てしまいました。

ついでに、0011が元エンジニアなのはこちらの捏造と都合です。
修理担当がいないと困るので………(そんな)
彼の体内にも色んなギミックがある、ということでお願いしますね。
なお「服従回路」の元ネタがわかった石森FANの方は是非ダチ公になって下さい。