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「もうすぐ、クリスマスか……」
 悪の組織だというのに研究者が皆、それぞれの故郷へと引き払っている。身内もいなければ祝ってくれる相手もいない老博士が、いつもより閑散とした施設内で一人、溜め息をついた。
「サイボーグ達のメンテナンスでもしてくるかのう………」
 書類の束と端末を小脇に抱えて、彼はいつもよりは閑散としている研究施設内を歩いていく。
「そういえば、002の修理がまだ残っておったはずじゃ」

「クリスマス?」
「赤い服着たじいさんが、よい子のみんなにプレゼントを配り歩く日だってよ。もっとも、生まれてこのかた、そんなじいさんを見たことなんてないけどな」
 メディカルルームで退屈そうに、修理中の足を投げ出して横たわっているジェットが、同じ国だが習慣も言語も異なる環境で育ったジェロニモに言ってやる。
「お前んとこには、そういうのはなかったのか?」
「うむ。なかった」
「フランソワーズ、お前んとこは?」
「もちろん、クリスマスは毎年祝ってたわ。兄と二人で」
「兄、いたのか」
 ふっと睫を伏せるフランス出身の少女を見て、どうやら悲しいことを思い出しているらしい、とジェロニモは目を細める。
「………ええ。アルベルトは?」
 アルベルトが目を細める。
「覚えてないな」
「何だよ面白くないな。祝う相手もいなかったのかよおっさん」
 訓練中に足を怪我したジェットのいる部屋に、結局は皆集まってきていた。いつもならばサイボーグ戦士達が一箇所に集まることを良しとしないこの組織だったが、今日は監視の目が妙にゆるかった。
「こんな組織の人間でも、クリスマスは人恋しいのかしら」
 フランソワーズが呟く。そこに入ってきたギルモアが、苦笑した。
「そうかも知れないのう。警備もオート化されつつある。それに、研究費用の残金は自由に使える。年末は久々に、酒の一杯でも飲みに出るんじゃよ。表向きは、家族がいる奴だっているしのう」
 手際よくジェットの足の破損部分を修理しながら、博士が呟いた。
「………プレゼントを贈る孫も、わしにはおらんしの」
 ジェットが笑う。
「で、人寂しくなったじいさんはオレ達のところに来たってわけだ」
「馬鹿もん! 無茶な飛び方ばかりする誰かさんのせいじゃ。全く、これで何度目だと思っとる……。無茶はするなとあれほど言ったのに、ちっとは聞く耳を持ったらどうじゃ」
けっ、とそっぽを向く彼を見て、
「ちょっとは005の落ち着きを分けてやりたいもんじゃ」
 ギルモアが嘆く。
「そういや005、お前さん今日が誕生日じゃったな。そろそろ30じゃっけな?」
「誕生日だったのかよ!何で言わないんだよこの唐変木」
「この世に生まれてきた、感謝。おれ、皆に贈り物、したかった」
 思わずジェットが目を丸し、ギルモアもまた、思わずそんな彼を凝視する。
「おいおい、誕生日ってのは自分がプレゼントを貰う日なんだぜ」
「……そうなのか。だが、祝うほうが、好きだ」
 木の枝とナイフでもあれば、あっという間にフランソワーズあたりなら喜んでくれそうな木彫りの人形を彫り上げることもできる。だが、生憎手元には何もなかった。残念極まりない、といった表情を微かに浮かべた男を見て、しばらく黙った後に、博士が呟いた。
「いや。あるかもしれん」
 メディカルルームの窓際で、アルベルトとフランソワーズが何やら談笑しているのを横目で見て、彼は声を潜める。
「前々から、渡さねばと思っていたものがあるんじゃよ。005、手伝ってくれるかね?」
 寝そべったままジェットが顔を上げる。
「面白そうじゃないか。オレも混ぜろよ」
「お前さんは足の修理が済んだばかりじゃろうが。安静に寝ておれ」
「暇すぎて寝てられるかってんだよ。で、オレ達への贈り物って何なんだよ。いくらアンタだろうが、これ以上の再改造は、アイツら喜ばないぜ」
 ちらりと、自分の直後に改造されたフランス人少女とドイツ人男性の方へ視線を投げて、ジェットが彼女に気付かれないように小声で言う。
「いいや。それとは違う。そうじゃなあ………お前さんの力も借りるかのう」

 サイボーグ達の『管理』を一手に任されている老博士と、アメリカのスラム育ちの青年と、ネイティブアメリカン居住区で暮らしていた男の三人が、忍び足で施設の出入り口から抜け出した。
「どうじゃ?」
「ちょろいもんだぜ」
 警備ロボット達の指令電波をパソコン経由であらかじめオフにしておいたギルモアと、警備室からオートキーを『昔取った杵柄』を駆使して盗みとったジェットが顔を見合わせる。
「なかなかやるじゃないか、じいさん」
「予行練習じゃよ」
「予行練習?」
「お前さん達全員を、ここから出さねばならん」
 ジェットが驚いてこの老博士を見やる。
「わしが足手まといになるようなことがあっては、いかんからのう」
 防寒着を着て、12月の寒さの中を手袋をすり合わせながら早足で歩く博士を見やり、ジェットとジェロニモの二人が無言で目を見交わした。そんな二人が案内された先は、どう見ても今現在使われていない倉庫である。
「鍵が見つからなくってのう。005、こじ開けてくれるかね?」
「よしきた」
 ジェロニモが扉に近づくと、一気に取っ手に手をかけ、こじ開ける。凄まじい音が静かな夜に響く。
「大丈夫か?」
「うむ」
 壊した扉を立てかけて、
「見つからないうちに急いだ方がいいんじゃないか?」
「ああ、そうじゃな。お前さんは見張りを頼んだぞ」
「了解。それにしても、すごい埃だな………」
 頭の上に降りかかってきた埃をぱたぱたと払うジェットを入り口に残し、二人は中へ足を踏み入れた。

 指示された通りに、書類やら何やらの詰まった箱を棚の上から降ろしていく。埃まみれの箱をがさがさ漁っていた博士が、声を上げた。
「ああ、これじゃ」
 小さなビニール製の袋に、何やらラベルが貼られている。中に、わずかに月明かりを反射して光る、小さな物体が収められていた。それを覗きこんだジェロニモが聞いた。
「それは?」
「………004が持っていたものじゃよ」
 自分の部族の習慣にはなかったが、結婚した男女というものは、何故かお互いに指輪を取り交わすらしい。白人の元で働いている時にそんなことを耳にした覚えがある。袋の中に入っていた金色の指輪を見て、思わずジェロニモが博士を凝視する。
「そうじゃよ。婚約者か、妻かは聞いておらぬが」
 そういえば、自分に一番歳が近いのがアルベルトである。そういった存在がいてもおかしくはない。ふと、入り口の方のジェットに目をやるが、彼は外を見張っていてこちらには気付かない。
「わしには、話してくれるはずもないが………」
 そして、もう一つの小さな袋から、何かを取り出した。
「003がいなければ、わしは気付かなんだ。いや、気付かないふりをしておっただけかもしれん」
 金色の懐中時計には、彼女の名前が刻まれていた。
「この組織の、真の意図にな」