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すべすべの理由

「目的地ちかいの? 斗貴子さん」

交通標識を見上げた斗貴子にカズキと剛太が並ぶ。

「目的地ではない。今晩の宿泊予定地を探しているんだが‥‥そろそろだな」

斗貴子の広げた地図にはいくつかの赤い×印がついていた。全て川沿いに印がうたれている。剛太が地図をのぞき込む。

「この国道沿いに進んでいるわけだから‥‥今はこのあたりですよね?」

電池が無くならないようにと滅多に使わないようにしている携帯のGPSで場所を確認する。この逃避行を始めるにあたって新しく契約した携帯で、今のところは逆探知されていない。

「ああ、南西に山を一つ越えれば、たどり着ける」

車の往来がないのを確認しつつ、「よし、じゃあ行こう」とカズキが荷物を背負い直す。もう日も暮れかけている。汗が滲む彼らの肌に西日がじりじりと熱く照りつけていて、不快に火照りべとついた。

「ところで、今晩は力仕事をしたいのだが‥‥すまないが、いいか?」

「構いませんよ、先輩のためなら」

「オレも大丈夫。で、なにするの?」

はて、と首をかしげる少年二人に地図を掲げた。河原で食事や洗濯をするついでに、ここを掃除したい、と赤い×印のすぐ下流についていた小さく青い×印を指し示す。

「ここに温泉がある」

「「え、ホント?」」

カズキと剛太が共に目を見張る。

「今回の野営地の近くにあったんだ。運が良い。温度も少しぬるいし、主要道路からのアクセスも悪いから、地元の人間が稀に使う程度らしい。逆に言えば、電気がちゃんと通っていてポンプも使えるようになっている」

「「へー」」

「ただ、ここを掃除する必要がある。だから、明るいうちにたどり着いておきたい」

「了解、先輩」

「今日は温泉でツいてる」

野営地近くに“偶然”温泉を見つけた斗貴子に、男子達は全く疑いを持っていなかった。

もちろん、偶然などではない。

カズキが軽口をたたき、斗貴子がボケに応じて、剛太がカズキに挑みかかる、そんな賑やかな一行である。しかし、連日の猛暑の中、炎天下の強行軍は彼らをそれなりに消耗させていた。錬金の戦士として徹底した訓練を受けた剛太と斗貴子でさえ、夕刻にもなると口数が少なくなる。カズキに至っては、基礎がようやく固まっただけの身体に、この時限付き逃避行のストレスが加わっている。昨日今日と堪えた様子を見せることが多くなった。決して表には出さないように努力しているようだが、斗貴子の目は誤魔化せない。

自分たちは、これまでの疲れをリセットする必要があった。目的地も近い。

「さぁ、行こう」

薪取りを済ませてから、三人で一気に掃除してしまおう、と斗貴子は二人に微笑んだ。

「はいっ」「うんっ」

先輩と温泉。剛太が少し赤らんだ顔を隠すように汗をぬぐった。

斗貴子さんと温泉。カズキもほのかに火照る顔を誤魔化すように汗をぬぐった。

任務の合間のささやかな楽しみがこんなところで役に立つとは。斗貴子は満足げな視線を携帯の画面に投げかけ、ぱちんとそれを閉じる。

『秘湯マニア 完全マップ』。


男子二人の他愛ない想像は、あくまで空想に終わったことは言うまでもない。

「湯船がドラム缶だった‥‥」

交代でドラム缶にちんまりと収まった少年達は、天の川の横たわる星空をそれぞれに仰ぎ見る。

Note

2004/11/07 初稿

剛太の口調がまだちょっとわからない。少しくだけ気味の丁寧語かなぁ。後で修正するかも。

「斗貴子さん、すべすべー」と翌日にカズキがうっかり口にしてしまうオチを考えていましたが、こういう科白はエロスではなくスケベだよなーと思って、結局没に。あれはまひろだからこそ可能な科白だと痛感しました。タイトルはその名残です。

でも野宿中、本当に風呂とかどうしていたのでしょうか? 真夏ですから「風呂なし」は不快きわまりない選択肢ですし。行水で済ませたというのが妥当なところか。

それと、こんな温泉あり得ない、と思いつつ書いていました。てか、ネットでサーチしてみた限りでは、埼玉も奥多摩も温泉はあんまり多くないみたいですね。入湯料も温泉だと少々お高めです。