桜花は、今はパピヨンと名乗るホムンクルスから、核鉄を投げつけられた。
核鉄。六角形の錬金術の粋、世界の奇跡の一つ。手に伝わった重い衝撃が和らぐと、貴重な金属のぬくもりがじわりと浸みこんでくる。
「この俺のために動け!」
眼前の青年は傲然と言葉をたたきつける。それは桜花に対する叱咤ともとれた。
しかし、桜花の意識はその次元には無かった。彼女は非常に特異な環境で育ち、年齢以上の狡猾さを身につけている。それでも彼女は十代の少女であり、その心の、もっとも根源的な部分で最大級のアラートが発令されたのだ。
なにかが引っかかる。
核鉄。シリアルナンバー70。ずしりと重い金属。なのに、生暖かい人肌の温度で手に馴染む。
‥‥なまあったかい!?
その瞬間、桜花は全てを理解し、心の中で絶叫した。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
核鉄が直前まで収納されていたであろう箇所と、その生暖かさの相関から導き出された結論は、想像するだに鳥肌がたつほど彼女にとっておぞましいものだった。
今すぐ、この場で、この核鉄を石鹸で洗ってしまいたい。エタノールで消毒してもいいくらい。そんな衝動を血のにじむような努力を払って自制する。
殺る。絶対、用が済んだら殺る!
そんな決意をおくびにも出さず、桜花は不敵な笑みを浮かべた。
「‥‥あらあら、私、利用されちゃいましたわ」
友人の宮間凛どのが叫んだ言葉が元ネタです。他の部分ならまだしも、パピヨンの核鉄は股間収納ですからね。やだなぁ、なまあったかい核鉄(遠い目)。
重要な一文が足りなかったので追加しました。十代の娘さんがこういう状況に陥ったらまず考えることを忘れるとは‥‥。
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