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家庭教師


この家に通いだしてから、そろそろ一週間、随分と家族の人には慣れた。
「うぃす」
「ん……」
奥からオレンジの紙パックを飲みながら歩いてきて、玄関に立っている俺に、スチャッと手を上げて挨拶した女の子。
それだけで後は何も言わずに、軽やかな足取りで二階に行こうとするこの娘も、最初の無愛想と比べれば、かなり馴れた方である。
ただし、仮にも先生に対する尊敬の念は、未だ限りなくゼロに近い。
どうしたもんだろうと、その困ったちゃんの女の子、洋子の後姿を何となく眺めていたら、くるっと、視線でも感じたのか振り向いた。
「先生、とっとと上がれば? 今日はお母さんいないよ」
気まぐれな猫科の動物を連想させる、少し吊り目勝ちな瞳が、何だか小馬鹿にした様に、悠然と俺を見下ろしている。
「そこにぼ~~っと立ってられると、スカートの中、見えそうなんだけど…………」
確かに洋子の言うとおり、後一段でも階段を上がれば、俺の立っている位置は、スカートの中を覗くのにベストポジションだ。
「見たいの?」
訊いてくる洋子の瞳は猫の様に細まり、キラキラと愉しげに輝いてる。
「そんなわけないだろ」
と。
即座に俺はそう応えながら、靴を脱ぐため下を向いたが、それは誤魔化してるみたいで、何となく自分自身にムカついたりした。
生意気盛ってやがる中学生ゆえ仕方ないが、洋子はときどき、こういう大人の心を見透かすような言い方をする。
そのたびに、ドキッ、としたりする自分に、ちょっと自己嫌悪の日々だ。
「…………」
だがしかしそれにしたって、何も悪いのは俺だけじゃない。
洋子はブレザーだけを脱いだ制服姿だが、スカートがいくらなんでも短すぎる。
そんなもん見たくなくたって見ちゃうだろうが。
街中でふわっとスカートが捲れれば、どんな国宝級のブスのだって、どんな硬派な奴だって、一瞬だけは目を奪われるはずだ。
男って生き物はそういう風に、神様にプログラミングされている。
とてつもなく馬鹿で悲しい生き物なんだよ。洋子はそれがまるでわかってない。
「…………」
いや、わかってるのか?
そんなどうでもいいことを何となく考えながら、俺はにやにやしてる洋子を無視して部屋に入る。
サッカー選手のポスターや各種ゲーム機、棚にぎっしり収まってる少年漫画やらで、相変わらず女の子らしさの欠片もない部屋だ。
まぁ、そっちの方が圧倒的に落ち着くけれど。


「そんじゃ、さっそくやるか?」
「うん? 何を?」
「お勉強」
「ああ、そっか。先生は一応、私に勉強を教えるために来てんだもんね」
またしてもこの小娘は、生意気なことを言いやがる。
「…………」
とはいえ実際、一体何の為にここに来てるのか、それがわからなくなることがよくあった。
洋子はあまり勉強熱心ではないが、頭の回転はすこぶる良い。
七、八年ほど長生きしてるアドバンテージの分、知識の量はともかくとして、知能でいったら、洋子は俺よりも余裕で数段上だろう。
与えた課題を黙々と解いていくのだが、その間質問はほとんどないし、一度した質問を二度は絶対したりはしない。
勿論答えはばっちり合ってる。
何しに来てるだろうと考えたこともあったが、そりゃ当然バブル全盛期みたいな、バイト代のために来ているに決まっていた。
「決まってる……よな」
「どうしたの?」
「んにゃ、授業始めっか」
「ねぇ先生、それよりさ…………この間の約束…………覚えてるよね?」
「……何だっけ?」
やはりきやがったか。
前の授業のときに余った時間で格闘ゲーをやったのだが、『負けた方が勝った方の言うことをきく』なんて賭けをしたのである。
魔が差した、というやつだ。
しかしそんな魅力的な、それも可愛い女子中学生のしてくる提案を、はたして断れる男がいようか、いや、いない。
反語法。
勝利の女神がどちらに微笑んだかは、あえて俺が言うまでもないだろう。
「それじゃ先生…………先生に…………してもらうのは…………ね…………」
ベッドにぽすっと座って、上目づかいで俺を見つめながら、洋子の大人びて感じられるハスキーな声は、少しだけ上ずっていた。
“ごくっ”
思わず期待に喉が鳴る。
自分のものなのに、その大きさに俺は驚いた。
あるいはそれは、まだあどけなさの残る蒼い誘惑への、期待の大きさだったのかもしれない。


「な、なんだ……よ」
それを表すかのように、俺の声は明らかに洋子以上に上ずっていて、さらにみっともなくどもっていた。
「くすっ……」
唇を微かに笑みの形に歪ませ、洋子は俺を見上げながら可笑しそうに笑う。喉はいまにも、ゴロゴロ、と鳴りそうなほど上機嫌だ。
この場の雰囲気に。
期待しているのが。
緊張しているのが。
意識しているのが。
何も自分だけではないとわかったからだろう。
頬をうっすらと朱に染めてはいるものの、完全にいつもの、小憎らしいばかりの洋子に戻っていた。
「ねぇ先生……」
甘えたような声で言いながら、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、洋子は閉じていた両足を、ゆっくりと見せつけるように開いていく。
「私を……見て…………」
もうその声は震えてなどいなかった。
たださっきよりも、ずっとずっと、抑えきれない熱を帯びている
「…………」
そして言われるまでもなく、俺の視線は洋子の足の間に、汚れを知らない白い布地に、瞬きすらも忘れて釘付けだった。
飾り気のない平凡な白いショーツ。
なのにそれが少女の秘密を覆っているというだけで、背徳感と一緒に牡の征服欲を煽って、目を背けることを俺に許さない。
それは脆く未成熟な妖しい魅力だった。
「ちゃんと見てる?」
「み、見て――!? ってそうじゃなくて、何してんだお前はっ!!」
不意に呪縛が解ける。
俺は慌てて明後日の方向を見て、洋子の足の間から、何とか目を逸らすのに成功した。
「…………」
勿体無いなんて思ってない。
本当だ。
「女として見てくれてるのかなって思って、さ…………よかった…………見て……くれてるみたい…………だね?」
「…………」
声が徐々に小さくなっていく。
訝しんだ俺はちらっと、洋子にバレぬよう、様子をこっそりと横目で窺う。
上げては下げ上げては下げを、何度も何度も繰り返してるその目線が、明らかに俺の顔の高さと合ってない。
どこを一体見てるんだと、考えるまでもなく、この時点ですでにわかってはいた。


「…………」
だがそれでも俺は洋子の、熱っぽい視線を律儀に追いかける。
「げっ!?」
股間があらゆる言い訳も利かないくらいパンパンに、見事にこんもりと、その形が浮き上がりそうなほど絶好調で膨らんでいる。
まだ下半身の元気を気にする歳ではないが、それにしても、こんな立派な雄姿は久しぶりな気がした。
「あたしの……スカートの中を見たから……先生の…………そうなったんだよね?」
「……ああ、まぁ」
ここまで豪快に勃ったてといて、違うとはさすがに言えない。
「嬉しいな」
洋子の顔がにこっと歳相応に幼く綻ぶ。ころころと変わるその表情に、俺の心臓はドキッと、大きく激しく高鳴った。
「それじゃ本番ね」
「はい?」
刹那で俺の心臓がギクッと、大きく激しく高鳴る。
こんなに負担を掛けても平気だろうか? 何だか滅茶苦茶心配になってきた。
「ここからが本番」
「いまのはじゃ何だ?」
「お願い」
「これからするのは?」
「命令」
「…………」
こいつは将来絶対大物になる。俺でよかったら保証してやろうかと猛烈に思った。
「ふっふっふっふっふっ……」
いつの間にやらあの悪戯っぽい、猫を連想させる笑みが復活している。
それを見てさらに股間に、物凄い勢いで血液が収束していくのが、俺には呆れるほどはっきりと感じられた。
ロリコンでマゾって救いようがねぇな。
頭が痛い。
「…………」
股間もズボンが窮屈なほど膨れ上がって超痛い。
隠れてた自分を知るってことが、こんなにも苦しいとは、ついぞ知らなかった。
自分探しの旅になんて出る奴は七回死ね。世の中には一生知らなくていいことが確実にある。……でも知っちゃたなら仕方ない。
「何したらいいんだよ?」
これが自分を受け入れた瞬間、あるいは開き直った瞬間だった。