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本とスカート8」(2009/01/10 (土) 20:17:30) の最新版変更点

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俺があの活字マニア系ロリに一方的絶縁宣言をされてはや二週間。 あれだけ劇的なお別れシーンを演出した場所であるにもかかわらず、休日はこのちまい図書館に 入り浸るのが習慣のようになってしまった。 本格的に本を読むのが楽しくなってしまった、なんてご立派な理由ではおそらくない。 いや、ひょっとしたら一割五分七厘くらいはそれもあるかもしれないが。 しかし、やはりあの少女S(趣味・読書)の存在が一番の理由だろう。 まったく我ながら往生際が悪いが、実際いまだに未練があるのだからどうしようもない。 何せどれだけ本に没頭していようと彼女の姿が一ミリでも視界に入ろうものならそちらに全神経を向けて 動向を探ってしまうのだからこれはほとんど病気だ。 そしてそそくさと本を棚に戻し、WWⅠの西部戦線よろしく物陰に隠れながら目の保養に勤しむ。 なんだかこうやって自分の行動を振り返ってみるともう立派な変態さんである。 一体何しに来てるんだ、と良識ある方々に怒られそうだが、考えてもみよ。 ただの紙束と可愛い女の子、どっちがいい? きくまでも なかろうよ! そんな風にストーカーじみた事をして、俺は彼女にまっすぐ向き合うのを拒んでいた。 そんな煮えきらん態度をとったもんだから、多分怒りを買ったのだろう。 おそらくロマンスの神様あたりの。 おかげで俺は美少女とは程遠い輩とひと悶着起こす羽目になったのだ。 俺が人類普遍の原理であるところの尿意を催してトイレに行ったとき、事件は起こった。 洗面台で念入りに手を洗う俺の後ろを、なんと個室から出てきた爺さんが素通りして行ったのだ。 トイレの個室から出て、外へ。通常その間にあるべき一動作が確実に欠けていた。 こいつ、手洗わないで本読むつもりかよ! 図書館に通うようになって色々新たに気づいた事があったが、 そのひとつが老人連中のマナーの悪さだ。 足踏み鳴らして歩き回る、歯の隙間を音立てて吸う、貧乏ゆすりをやめない、屁をこく… そんな不快テロを日々繰り返すのは、八割方がこの老いぼれどもだった。 しかしその中でも今の暴挙はかなり強烈な部類だ。ストレートフラッシュぐらい。 とにかく見てしまった以上見逃すわけには行かない。俺はやや大きい声で爺さんを呼び止めた。 しかし敵もさるもの、いかにも呼びかけられたのは自分じゃありませんよ、と言う顔で 平然と外に出て行く。俺はすぐに後を追った。 がに股で足を引き摺るように運びながらシャバに溶け込もうとする奴の前に立ちふさがり、 少しばかり乱暴な口調で詰った。あんたはクソした後に手を洗わないのか、と。 言われた爺さんは数秒の間呆けていたが、七秒ほど経過したころにようやく言葉が脳まで 届いたらしく、顔中のシワを当社比ニ倍ほどにして怒り出した。 不明瞭なくぐもった声で何か口の中で言いながら通り過ぎようとする爺さんを、俺は手を広げて阻む。 それをみて爺さんは壁をガンガン叩きながらやはりよく分からない言葉(多分、一応日本語)で わめき散らす。 その尋常でない大声に釣られて野次馬が、続いて図書館員がやってきた。 その中で勇気ある数人が、手足を振り回して奇声を上げる爺さんを押さえつけた。 爺さん、どうやら衆目を集めて興奮しているらしい。これはもう、警察か猟友会の仕事だろう。 そのうちに職員の一人がやってきてさり気なく俺をそこから離れたカウンターまで連れて行った。 助けてくれたのか、と思ったらいきなり説教を始めやがった。 ここは公共の場なんだから騒ぎ起こすな、とか一方的に言うだけ言うと、 急いだ様子で本棚の間に消えていった。え、俺も共犯扱い? 喧嘩両成敗ってことでせうか。にしてもこれはさすがに釈然としない。 しかもあの態度は暗にもう帰れということだろう。ふん、いわれるまでもない。 なんだか白けてしまったのでお望みどおり回れ右してやるよ。やーいバーカバーカ。 外に出てすぐにおいてあるコイン式傘立てから傘を引っこ抜く。 朝から薄いグレーに覆われていた空は、夕方になって目先がぼやけるほどの雨を降らせていた。 天気予報を見なかったか、確率10%をナメたのか、入り口付近にはむなしく鞄をかき回したり 雨の中に手を差し出しては引っ込める動作を繰り返している人たちがいた。 俺はわざと彼らに傘を見せびらかすように持ちながら、もったいぶって傘を開いた。 なんとも大人気ないが、まあ気が立ってたんだ、大目にみてくれたまへ。 傘を完全に開いたとき、前のほうにいた人と目が合った。 体の割に大きい鞄を抱えて、俺のほうを静かに、しかし鋭く見つめる目。 見なかったことにして通り過ぎようとすると、真横に差し掛かったとき『彼女』が口を開いた。 「…挨拶のひとつもなしですか?」

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