桃1

180 :1/4[sage]:2008/08/05(火) 23:51:24.16 ID:I35t.cU0
嫌な夢を見た
誰にも認識されなくなる夢だ
私が何をしようと、何を話しかけようとも、誰も反応せず返事もしてくれない
誰の目にも映らず、終いには私の体を彼らがすり抜けていくといった有様だ
そうして私の存在は次第に虚ろになり消えていく
ただ意識だけを残して…
仲間たちが、変わらず日常を送っているのを眺めるだけの存在として…
嫌だ、と強く思う
もう空気には、傍観者には戻りたくないと
傷ついてもいい、醜くてもいい、蔑まれてもいい
だから、誰か私に気付いてと、私を必要として欲しいと願った
そのためならどんな辛苦も、悪意も受け入れよう
だから、お願いだから私を無視しないで

179 :2/4[sage]:2008/08/05(火) 23:51:10.98 ID:I35t.cU0
そう叫んだとき、私は目を覚ました
息が荒い、胸が苦しく、痛い
「……夢?」
しばし呼吸を落ち着ける
ぼんやりと滲んだ視界も元通りにすっきりと晴れ
思考もあやふやな境界から、現実の側に戻ってくる
全身がじっとりと濡れて重い、ひどい寝汗だ
とりあえず着替えでも、と起き上がろうとして疼痛に顔をしかめる
そういえば風邪をひいたのだったと思い出す
だからなのか喉の渇きを急に覚え、ひりつくような痛みを感じる
兎にも角にも起き上がろう、そして着替えて水を飲みにいこう
そう考えてから、ふと違和感に気付く
妙に静かだ、皆出かけてしまったのだろうか
外の明るさからして、時刻は昼の頃だろうから
そんなことは珍しいことでも無いのだが、それにしても静か過ぎる
違和感の正体を確かめようとして部屋のドアに近づいたとき、ソレに思い至る
そうだ、普段なら緑の研究室からもれ聞こえる機械の作動音がしないのだ、と

181 :3/4[sage]:2008/08/05(火) 23:52:05.98 ID:I35t.cU0
まさか、これも夢の内だとでも言うのか、馬鹿げた考えが頭を過ぎる
しかし、その馬鹿げた考えは頭にこびりついて離れない
もう夢は覚めたのだと、これは現実の内なのだと、自分に言い聞かせる
それでも、もし今このドアを開けたら、そこは夢の続きで
私は一生現実の世界に戻れないのではないかと
ありえないと解ってはいながらも、何か嫌な感じが纏わりついて離れない
馬鹿ばかしい、これは現実で夢の続きなどではない
今日は偶々何かの用事で、緑が研究室をとめているのだ、ただそれだけなのだ
そうは思っても身体は言うことを聞かずドアを開けようとしない

182 :4/4[sage]:2008/08/05(火) 23:52:42.56 ID:I35t.cU0
どのくらいそうしていたのか
心臓の音だけが五月蝿くなっていたとき、不意にドアが開いた
思わず身構えた次の瞬間
「何だ、起きたのか桃」
私のよく知っている声がきこえてきた
「…赤?」
「ああ、そうだけどって、如何した怖い夢でも見たのか?」
そう言って笑いかけてくれる赤に、私は先程までの不安が薄れていくのを感じた
「…おい、本当に大丈夫か?」
心配して近づいてきた赤に、もたれるように倒れこむ
「ッ!桃、しっかりしろ!」
なにやら、赤が大声を出しているがよく聞こえない
それよりも、赤のぬくもりが身体に沁みこんでくることが嬉しい
「…ねぇ赤、私は独りじゃないよね?」
「当たり前だろう、何言ってんだ、いきなり?」
唐突に電波な質問をしても、ちゃんと答えてくれる優しさが嬉しい
「…うん。ねぇ赤、少しだけでいいから、ぎゅってしてくれる?」
本当に突然で、よく理解できていないだろうに
何も訊かずに、優しく抱きしめてくれる、そんなことがとても嬉しい
あぁ、私は孤独ではないんだと、そう思ったらひどく幸せに思えて
今は何も考えず、もうしばらく、こうしていようとそう思った

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最終更新:2009年01月10日 16:41
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