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2月14日にはじめましょう

はづき☆ゆうこ


こんにちは。須唐部きょうこです。今日はうれしはずかしバレンタインデー。女の子のあたしたちにとっては1年に一度の大イベント……っていっても、あたしはあげる相手もいないし、好きなチョコを買ってきて女の子同士で交換しあって自分たちで食べたりして、きゃあきゃあ騒いでいる。男子達は横目でそんな様子をみて輪に加わりたそうな顔をしているけど、もちろん入れてなんかあげない。
とはいっても。
やっぱり付き合いの上で渡さなきゃならないことだってある。いわゆる義理チョコ。あたしの場合、家族とか、部活の先輩とか……。まあ、弱小サッカー部の恵まれない先輩たちにちょっとした潤いを与えるのだって元気でかわいい女子マネージャーの仕事だよね。まあ、弱小というかそもそもフットサルにだって臨めない人数しかいないのがそもそもの問題なんだけど……。
ともかくあたしは人数分(3つ)のお買い得ばらまき用義理チョコをもってサッカー部室の扉を開けた。がちゃ……。
「きゃあ!」
「ば、ばか!須唐部!」
傾いだ部室のドアを開けると、中野渡センパイが着替え中のまっ最中だった。私はごめんなさいといってあわてて部室を出る。20秒後、中から「いいぞ」と言う声がしたので、あたしは恐る恐る部室へ入った。
「もう!鍵くらい閉めといてくださいよ!っていうか鍵つけてくださいよ!」
「うるさいな、っていうかノックくらいしろよ!それだけがさつでよく女なんてやってられるな」
むかっ。中野渡先輩はいちいち細かい。真面目でいいひとだとは思うけど、真面目すぎっていうか。うん、こういう人のことを”杓子定規”っていうんだわ。

チョコをあげるのやめようかな、と思ったけど、自分で買った高っかいチョコ食べた後であれだし、お父さんと弟には買ってあるし、やっぱりセンパイに処分してもらうほかない。
「はい、これ」チョコを手渡す。センパイは反射的に手を伸ばしてそれを受け取って、しばし包みをながめたあと、
「はいよ。今年も義理チョコどーも」って、何の感慨もなさげに言った。いやまあ、義理は義理なんだけど、そんな風に流されるっていうのも気持ち的にはなんかアレなわけでちょっとカチンときた。だからからかうつもりで、
「違いますよセンパイ。これ、あたしの本命ですから」と言った。
すると、センパイはみるみるうちに顔を真っ赤にしてしまった。
「え?え?ちょ……」
弁解しようとしたら、センパイはあたしから目を逸らした。冗談のつもりなのに。弁解のタイミングを逃したあたしは先輩につられるように顔を真っ赤にしてしまう。
「須唐部、俺……」
いままでそんなこと考えたこともないのに、いまだけ先輩がかっこよく見える。ちょっとだけ切なそうな、そんな顔。
やだ……センパイ。そんな顔されたら……あたし、そんなつもりないのに、冗談なのに,
好きになっちゃうじゃない……。

「はああ……」
なんで昨日、あたし……。
部室で中野渡先輩とのやり取りがあった後、あたしは中野渡先輩が何を言い出すのか怖くなって、走って部室を出て行った。
「どうしたのよ、きょうこ」
「わ」
いきなり声をかけてきたこの娘はクラスメイトの華雅乃朱海。釣り目でメガネ姿なのとか、マンガにでてくるエロい女の先生みたいな雰囲気で、巷では女教師顔もしくはサド顔って呼ばれてる。美人だけど。ちなみにあたしと並ぶと「SMコンビ」なんて呼ばれる。なんでかな。
「なによ、ぼーっとして」
「あ、あはははははっ。なんでも」
「あ~そ。で、あんた、昨日誰かにチョコレートあげた?」
「え、っと……部活のみんなに……」
あ、結局中野渡先輩にあげただけで、あたしは逃げ帰っちゃったから、ほかの部員には渡してないんだ。
「部活、ねえ。あんたよくもまああんな弱小サッカー部でマネージャーなんてやってられるわね」
「弱小じゃないよ!人数が揃わないから試合をしたことがないだけだもん!」
「…………」
「…………」
 沈黙。ま、まずかったね。このイイワケ……。
「そっ、それに、ちゃんと実績のある超高校級の選手だっているし!」

そう。うちの部にはものすごい選手がいる。
不知火暁(あきら)先輩、2年生。小学校の頃からJリーグのユースチームに所属していて、そこでずっとトップクラスの実力を誇っていた天才プレイヤー。
現在はユースを退団して高校の、つまりうちの学校のサッカー部に所属しているのだが……問題は、先輩の性格の悪さもサッカーに劣らず超高校級だということ。もともとうちの学校にはサッカー部はなかったんだけど、そんなところに不知火先輩みたいな天才プレイヤーが転校してきてサッカー部が創設された。たとえ素人ばかりでも天才の元に集って全国大会の夢を見て青春してもよさそうなものだけど……天才プレイヤー不知火暁は、性格の悪さも超高校級だったのだ。残念なことに残念な性格の持ち主だったのだ。実のところ、天才の尻馬に乗って全国を目指した、サッカー日本代表の結果くらいにしか興味のない素人達が不知火先輩の元に集って「一緒に全国を目指しましょう!」と高らかに声を上げたことがあるんだけど、その素人さんたちに向かって不知火先輩は、
「うるせえ!死ね!」
と叫んだわけである。ほぼ初対面の彼らに向かって。ロックスターかあんたわ、である。この先輩、他にも性格最悪なエピソードには事欠かず、ユース退団の原因も俺様な性格が原因だってウワサ。顔もものすごくカッコいいんだけど、そこだけが残念。顔がよくても性格がイタイひとは、ちょっと、っていうのが男子の共通認識らしい。
先輩にとって最大の悲劇は、サッカーが団体競技だった、ってことかもしれない。

まあ、長々とうちの天才について書いちゃったけど、私がサッカー部のマネージャーなんてやってる原因は他にある。
「キョウコーッ!」
教室の扉を開けてガラガラと入ってくる、肌の浅黒いやせっぽちの少年。
「キョウコッ!昨日なんで俺にチョコくれなかったの!?」
「み、御艶!そんな大声で!」
この子は幼なじみの久遠寺御艶(みつや)。あたしの幼なじみで、ブラジル人の祖母を持つクォーター。で、あたしがサッカー部なんかにいる原因。こいつが3日3晩、あたしんちに来て「マネージャーやってくれ!」って頼む上断ったらあたしんちの裏の神社に夜な夜なお三度参りに現れるぞっていうストーカーまがいのお願い(脅迫)をするもんだから、仕方なく引き受けた。素人のクセに、不知火先輩に並々ならぬ対抗心を燃やしている身の程知らずのバカ。あぶなっかしくて、放っておけないってのも、あたしが未だにサッカー部にいる理由のひとつなんだけど……。

「今日もおアツいわね~」
「ち、ちがうわよ!こんなサル!」
「キョウコ!いっていいことと悪いことがあるぞ!サルだったら傷つかないとでも思ってんのか!?」
「久遠寺くん、怒るとこ違うから」
朱海が冷静につっこむ。
もう!御艶が人だろがサルだろうが何でもいいけど、御艶とあたしが”そういう風”な関係に見られるのはすごくいやなの!だって、あたしと御艶は子供の頃からずっと一緒に育ってきて……とても、とてもそんな風には、見れないよ。っていうか、こんなサルでも女子からは「御艶くんってかわいいよね」なんて、カルトな人気がある。あたしにちっともわかんないけど。……いや、そpりゃまあ、ちょっとくらいは……あくまでちょっとだけどッ!
「キョウコ~、チョコは?」
「うるさい!死ね!」
あたしはクラスメイトの注目を集めるのが恥ずかしくなって(我知らず、不知火先輩と同じセリフを叫びながら)、教室を出た……瞬間、
「きゃッ」
「おっと」
「ご、ごめんなさ……あ」
「大丈夫かい?気をつけなきゃ駄目だよ」
といってさわやかに笑ったのは、サッカー部4天王(総員)のひとり、3年生の我鳳院皇(すめら)先輩!すごく大人っぽくて優しい人。朱海のサド顔とはまた違う優しいメガネ顔。見た目どおりすっごく大人で、俺様天使・不知火先輩のわがままを許容できる数少ない大人物なの。
「きょうこさん?」
「え、あ、きゃっ!」
皇先輩に見とれていたわけじゃないけど(断じて違うもん!)ちょっとボーっとしていた私は少しの間皇先輩に抱きかかえられていた。それを見てなぜか御艶の顔が怒りに震えていた。サルの考えることはいまいちよく分からない。
「どうしたんですか?1年生の校舎にくるなんて」
「ちょっと、御艶くんに用がありまして」