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 『 School flaw 』 著:クレイ・G

   プロローグ 




 無線のむこうから不意に聞きなれた男の声が聞こえてくる。

 その声は落ち着いた声で無線のむこうの相手に話しかけた。


「こちら黒打です。委員長、総員配置完了しいつでも突入可能の状態です。御指示を。」


 黒打と名乗った声は自分が委員長と呼ぶ者にに指示を求めた。

 しかし、その問いかけに対して返ってきたのは質問の答えではなくクスクスという少女の笑い声だった。

 俺はこの声を知っている、少し違うが昔毎日のように聞いていた笑い声だ。

 黒打という男はクスクスと笑う少女に対して何も言わない、ただ黙ってその声を聞いていた。

 そして、その内少女から一言、ただ一言だけ言葉が発せられた。


「生ぬるいですね。黒打君。」


鈴の音のようなその少女は一言だけ告げてまたクスクスと笑い出した。

 俺にとっては聞きなれた声、しかし俺はその声からそのような言葉が発せられているのが不自然に思えてしょうがない。


「…」 


黒打は何も答えない、ただその声を黙って聞いている。


「実に…実に生ぬるい…そうは思いませんか?インビジブル・ストーカー…?」


少女はクスクスと笑いながら黒打と呼んだ男のことをは「インビジブル」、そう呼んだ、その名もよく知っている、俺たちに与えられる二つ名、
そして、見えざる者、それが彼の二つ名だ。


「黒打君、今私がもっとも欲している物が何だかわかりますか?」


少女はスッと笑うのを止め黒打にそんなことを問うた。

 黒打は、少し考えこみ、


「今の自分には見当もつきません…。そして自分はこう思考しています。委員長は何を求めていらっしゃるのか、と。」


黒打は穏やかにその声の質問に問い返した。


「よろしい。実にいいです。正直なのはいいことです。いまここであなたが虚言を吐いたなら私は貴方に対して制裁をくわえているとことです。
 私、嘘つきは嫌いですから…」


 少女はまたクスクスと笑い始める。

 俺のよく知る少女の声はそんなことを言って笑い続ける。


「私は正直者は大好きです。そんなあなたに特別に教えて差し上げましょうね。御褒美です。」


今度はどこか子供を褒める母親ような口調で言った。

 そして、少女の声は恐ろしく冷め切った心の底から凍えるようなものに切り替わり一言告げる。


「いいですか?いま私が求めるもの、それは完全なる勝利。それだけです。」


 俺には一瞬その声の主が自分がよく知る少女ではない別のものに思えた。


「ではここで、貴方にもう一つ質問をしましょう。」

「何でしょう?」


黒打は質問を待った。


「私が求める”完全なる勝利”とは何ですか?」


少女は問うた。


「敵が戦闘の続行が不可能になる状態に陥れること。若しくは敵の殲滅、ですか?」


即答、しかし穏やかに男の声は答えた。


「エクセレント。正解です。」


無線のむこうでパチパチと手をたたく音が聞こえる。


「私の求めていた答えをありがとう。たしかに私が欲する完全なる勝利とはその二つですね。」


 少女は嬉しそうに言った。


「しかしもう一度言いましょう。生ぬるいと…」


また少女はクスクスと笑い始める。


「突入なんて生ぬるい事を言っていては”完全なる勝利”なんて手に入りえません。」


 少女はそう告げる。間違いを犯した幼子をしかりつけるように。


「私が求めてているのは敵の殲滅、戦闘不能…しかし突入では生ぬるい…」


語調が変わり始める、今まで軽い穏やかだったものが段々重々しい熱の入ったものになる、そして一言呟く。


「ならば私はこう言いましょう……撃進せよ、です。」


そして今度は声を張り上げ唱えた。


「風紀委員長であるこの「ワルキュリア」の二つ名を持つ私が命じます!!!
 聞きなさい!我が元に集いし同胞たちよ!!!!
 我が命に従い、激進なさい!
 目の前の敵を蹂躙するために劇進なさい!
 目の前の悪を滅ぶすために撃進なさい!!!
 行く手を阻むすべてのものを排除し破戒し屈服させながら!!!」


少女は声のトーンを下げ、しかししっかりした口調で続ける。


「我々の邪魔をするものを決して許してはなりません。己の目的だけを果たすために…」


そこには既に俺が知る少女の面影はなかった、
しかしそれでも変わらない、俺はどんなに彼女が変ろうとも、あのときの少女の面影を見つけることができる、
故に、いくら変ろうとも俺にとっては意味がない。
俺の中ではあの少女はいつまでもあの少女のままだから…


「もう一度唱えましょう……激進するのです…我が目的のために…我らが正義のために…!」


少女のしっかりした声が聞こえてくる。しかし俺の目に浮かぶのはあの時の泣き虫な少女の姿しかなかった。

耳元の無線機からいくつもの同意の言葉が聞こえてくる、そして俺も唱えよう

…心のそこから、もう少女を泣く事がないように、と願いながら


「YES,MAM.」

と…







 一瞬の出来事だった。

 始まってから五分とたっていない。しかし事は既に終わっていた。

 そこに広がる情景を言葉で表すなら、そう、「惨劇」。

この一言が一番適切なのだろう。

そこにあるのはひと、人、ヒト、人の山だった。

ただ一人の例外もなく意識のあるものはいない。

その人々がそこで何をしていたかは分からない。

しかし今はただ冷たく暗い床に横たわっている。

 そこは街のはずれにあるもう使われていない古い工場だった。

自分たちはたった今この工場跡に突入し、一瞬ですべてを終わらせた。

 その動かなくなった人々は死んでいるかのように見える。

しかし人々は例外なく生きていた。

 彼女が俺たちに望んだのは彼らの死ではない、彼らを戦闘不能にすることだ。

だから俺たちは従った。

しかし疑問に思う、ここまでする必要があったのだろうか、と。

戦闘不能にするのにほかの方法があったのではないか、と。

 前に彼女にそれを問うたらこう返された、我々は、正義でなくてはならないと、正義が自分が正義であることを誇示するからには
 そこに悪の存在が必要不可欠である、そして正義はその悪を蹂躙することによって他の者を従わせさらなる力を得るのだ、と。

よって我々は絶対的な強者でなくてはならず、悪を滅するために躊躇なく制裁を加えねばならぬのだと。

俺は想う。

彼女は本当にそんなことを思っているのだろうか、彼女は本当にそんなことを望んでいるのだろうかと。


「違うだろうな…」


 ぼそりと呟く。俺以外の誰にも聞かれないように。

 彼女は本当にそんな残酷なことを想える程残酷な人間ではない。

俺が知っている彼女ならば人を傷つけるようなことをもっとも恐れるのだから。

彼女は俺に自分は昔と変わった、昔のような臆病な人間ではないと認識させたらしいが無理な話だ、
彼女は本当の自分をすべて隠しきれるほど器用な人間ではない。

どんなに自分を変えようとしても土台となる部分は変わらないのだ。

そしてそれは仕儀さや表情ののどこかに必ず現れる。

特に現れるのは目であろう。

彼女の目は、昔なにか困ったことがあったときや、不安を抱えているときと同じ目をしている。

だからすぐわかる。

彼女は今でもずっと本当の自分を隠し続け、そのことでたくさん傷つきながらすごしているのだということが。

 

 


「どうした?龍崎。僕たちの仕事は終わったんだ。さっさと引き上げよう。」


 俺は自分が考え事をしながらぼうっと突っ立っていることに気づいた。

スグ後ろの方でぱっと見た感じが美少年といういでたちで女子制服を着ていなければ性別の見わけがつかない少女の姿がある。

しゃべり方も男のようなしゃべり方をするのでそれっぽい格好をすれば本当にどちらだか分からなくなる

 俺は振り返りそれに答える。


「わかったよネココ。今行く。」



「そうしてくれ…。それより君、今また僕の事をその変なあだ名で呼んだな?いいか?そんな変なあだ名で呼ばないでくれ。僕にはちゃんとした名前がある。」


彼女はふてくされたような顔をしてそんなことを言う。


「はいはい。わかったわかった。わかったよ。つーか変なあだ名って言うけれど君の本名も十分か わっていると思うぞ?それにネココってあだ名のほうが可愛くていいじゃないか。」


 それを聞いたはネココと呼ばれた少女は顔を少し赤らめながらこちらをじっと睨みながらむくれている。長い沈黙が続く。どうやら怒らせたらしい。


「悪い悪い、ちょっとばかり冗談が過ぎたみたいだな。それじゃ行こうぜ。ほらいつまでもそんな顔してるなよ。綺麗な顔が台無しだぜ?」


俺はゆっくりと歩き出す。 

彼女は納得できなさそうな顔をしてぶつぶつ文句をいいながら俺の後についてきた。


「遅いですわよ!お二人とも!何をやっておりますの?任務はとうの昔に終わったのです。さっさとして下さいまし。」


そんな声が外のほうから聞こえてくる。倉庫の入り口に立つ少女の声だ。逆光のせいで顔は見えないが誰の声だかはわかっている。


「わかった!今行くよ!」


 俺は大きな声で返事をする。 

 さぁ帰ろう…

 あのときから変らない少女のもとへと…彼女も待ってくれているに違いない。

 俺はまたあの少女の下に帰っていく。

 あの頃の少女の下に…   



                    tobecontinue…