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 その昔、神と魔は形の無い魔力に形を与え、世界を築く道具にしたという。

  チャンスが呪文を唱えると、浮かび上がったのは小さい石ころほどの大きさの弱々しい炎。それはあっという間に燃え尽きて、空気が焦げる臭いだけを残していった。

「あ~、やっぱうまくいかないな」

 チャンスは両手を投げ出し、草の上に転がった。

 横で見ていたJTが、眠たそうにチャンスの方を見ている。

「チャンス、しょぼーい」

「そう言わないの。炎を具現化させられただけでも長日の進歩じゃない?」

 ユーネはチャンスと同じ呪文を唱え、頭の上に大岩くらいはある炎の玉を掲げて見せた。チャンスが作った火とは、雲泥の差であった。

 ユーネは呪文を逆唱し、炎を消滅させた。

「ちぇ。そういうの見ると、自分の才能の限界ってゆーの?実感するよな~」

 チャンスが悪態をつく。

 チャンスがユーネに呪文を習い始めたのは、ひと月半くらい前からのこと。自分にもできないものかとチャンスがユーネに訊ねてみたところ、ユーネはチャンスの講師役を引き受けたのだ。

 かくいうユーネは、チャンスのこの申し出を意外に思っていた。自分に魔法を教わると言い出すのはチャンスではなく、好奇心の強いJTの方だと思っていたからだ。ユーネはどちらかというとチャンスよりJTの方がセンスがあると践んでいて、一緒にどうかとJTを誘ってみたが、彼女はどうも気が乗らないと言って、ユーネの魔法の講義を横で眺めているだけだ。

「炎は小さいし、すぐ散っちまうし。何が悪いんだよ?」

「炎を持続させられないのは集中力不足。実際の戦闘でも悪い癖だから、気をつけた方がいいわ」

「言われてやんの」

 ユーネの指摘に便乗するように、JTがチャンスに意地の悪い言葉を吐きながらけらけら笑う。

「うるせ」

 言うとチャンスは立ち上がり、もう一度同じ呪文を唱えはじめた

 チャンスの掌に魔力の熱が集まり、炎が灯るが、一瞬で消えてしまった。

「集中力」

 ユーネがぴしゃりと言う。JTはその側で腹を抱えて笑い転げている。

 三人が魔法の訓練を終え、村の大通りにある宿に引き返そうとすると、途中で初老の男性に呼び止められた。

「あなたたちですね。2日前から滞在なされているという旅人というのは」

「はい。そうですが」

チャンスが代表して答える。

「私はこの村の村長を務めさせていただいております、ウーリッジと申すものです。突然で申し訳ありませんが、私の屋敷までご足労願えませんでしょうか?」

チャンス達はウーリッジ氏の話を聞くため、彼の屋敷を訪れた。

3人はリビングに通され、ウーリッジの勧めで卓に着いた。

ウーリッジは一息つき、本題から切り出した。

「まことに恥ずかしい話ですが…………この村は山賊の猛威にさらされています」

それだけで、ユーネは話の内容の見当がついた。この村長は自分達に山賊退治を依頼するつもりなのであろう。

長々とした話もごめんだと思ったユーネは、率直にウーリッジにその旨を伝える。

「私たちが、その山賊を退治すればよいわけですね」

「ああ、お分かりでしたらお話は早い。そのとおりです。週に一度、奴等は村に降りてきて、食料やらの物資やらを引き取りにきます」

それを聞いたJTが不思議そうな顔をする。

「引き取りに、って?山賊は奪っていくものでしょう?」

ウーリッジは苦々しい顔でそれに答える。

「無用な抵抗をすれば殺されるだけ。ならば黙って物資を差し出したほうが良いのです。山賊とも、そう取り決めています」

「なるほどね」

要するに、山賊は村の人間に養われている形になっているわけだ。山賊も怠慢なことだ、ユーネはそう思ったが、心の中に留めておいた。

今度はチャンスが疑問をぶつける。

「ここは一応エリクシアの領内なんすよね。」

「チャンス、一応は余計」

とJT。

「うっせーな……で、エリクシア国で山賊討伐の兵を送ってくれたりするんじゃないの?」

「この村はエリクシアの領内ではありますが、中央や近隣の町とは遠く、統治が困難ということもあって自治という形を取っております。それに、たとえそうでなくとも、村が兵を要請したという話が山賊の耳に入ったら、兵が到着するまでに村に報復をし、行方をくらますでしょう」

この村はエリクシア領の端にあり、エリクシア兵の駐屯地がある一番近い町まで5日はかかる。

 そもそも、山賊達の力量、規模は知らないが、練度が低いと噂されているエリクシア兵に山賊の討伐を期待できるか、ユーネには疑問であったが。

 4人がリビングで会談をしているとき、扉を開けて入ってくる者があった。

「村長!連中が降りてきました!」

 ウーリッジは無言で立ち上がる。彼の顔は険しい。

「お三方。今日のところはまだ、手出しはしないようお願いいたします」

(陣容も分からないうちから手出しはしないわ)

 チャンス達3人もウーリッジの目配せで立ち上がり、外に出た。

 

 村の中央通りには、馬に乗った男達が15人ばかり。それを囲むようにちらほらと村人達がおっかなびっくり、馬に乗った男達を見ていた。

 やがて、村長のウーリッジが、5つばかりの木箱を積んだ荷車を引く男達を従えてやって来た。

 馬に乗った男達、山賊の中の頭領と思しき一人が村長の前に進み出る。隆起した筋肉を誇張しているのか、上半身には何も纏っていなかった。

「毎週毎週、総出で引き取りに来るとは、ご苦労なことだな」

 ウーリッジが皮肉をぶつけるが、頭領は意に介さない。

「なあに。最低限の礼儀ってやつよ」  

 頭領は体躯の良い者3人ばかりに命じて、車を引き取らせた。

 その様子を、チャンス達3人は人に紛れて見ていた。

「どう思う?」

 JTがチャンスに訊ねる。

「あれくらいの人数なら、俺達でぶちのめせるだろ?」

「チャンスに訊いたのが間違いだったわ。ユーネ、どう思う?」

 ユーネは山賊達を一通り見回すと、少しだけ渋い顔をした。

「あのうちの7人……魔術師だわ。2人は宮廷にでも居そうな高位の魔導士」

 チャンスはそれを聞いて、あんぐりと口を開けた。

「なんで?魔術師みたいな知的エリートみたいなのがなんで山賊なんてやってんの?」

「エリクシアには魔術師なんて余っているからね。その知的エリート崩れの連中が、山賊に走ったって不思議じゃないわね」

「他の国に行けば、魔術師は貴重だから文官として迎えられるんじゃないの?」

「雇う側にも雇われる側にも、都合はあるんじゃない?」

 やがて、山賊達は物資を運びながら引き上げていった。

 山賊達が去った後、チャンス達はウーリッジにつれられて再び彼の家に集まった。

「お気づきでしょうが、彼らの大半は魔術師です。戦士は8人ですが、そのうち2人も魔法戦士です」

「大丈夫です。魔法戦士なんて言うのはどっちつかずでぜんぜん強くないから。心配なのは魔術師のほうなんだよね……」

 JTはチャンスの方をちらりと見る。戦いの前には爛々と輝く強気な顔が、僅かに引きつっている。

 チャンスは精神力と集中力に欠ける面があり、魔法に対する抵抗力は決して高くはない。戦士が相手ならたとえ1対複数でも後れをとることはないが、相手が魔法使いとなると、チャンスには分が悪い。

「まだお返事をいただいておりません。私どもの方でも助勢の魔術師を派遣するつもりですが……分が悪い話とは思います。ですから相手を見て、決めていただくつもりでした」

 ウーリッジの言う分が悪い話というのは数の不利を言っているのであろう。チャンス達が考えていることとは隔たりがあった。

「いかがでしょう。無理にとはもうしません」

 ウーリッジが頭を垂れて、懇願するような目を3人に向けた。

「村長さん、顔を上げてください」

 ユーネは村長に促した。

 JTは難しい顔をしているチャンスに話しかけた。

「チャンス、下手な人間が討伐に出かけて、失敗をすればこの村が報復を受けるんだよ。村長さんがあたしたちに頼んだって意味、分かるよね」

 そんなことを言われたら、チャンスは断るわけにはいかなかった。

 翌日、チャンス達3人は、村の広場で村長の指名を受けた2人の魔術師と合流した。

「こんにちは。今回の山賊征伐の申し入れを聞いてくださり、感謝しています」

 女の魔術師が3人に挨拶をする。

 2人の魔術師は双子の姉弟で、女が姉のトエ、男が弟のハクジと名乗った。

「さっそくで申し訳ないのですが、あなた達の力量を見せていただきたい」

 トエは言うなり呪文を唱える。

魔法の霧が周囲に広がり、チャンス達を包む。眠りの魔法だ。

 3人は抵抗を試みた。甲斐もなく、チャンスが眠りに落ちそうになるところを抵抗に成功したJTが文字通り叩き起こす。目を覚ましたチャンスは低く走って霧を抜け、トエに斬りかかる。

 トエは火球の魔法でそれに対抗しようとしたが、反対方向から霧を抜けていたユーネによって魔法を解除された。チャンスは次の手を失ったトエの額に炎の魔剣を突きつける。

 後方で見守っていたハクジは、光の矢の呪文を展開し、JTに向けて放ったが、JTは魔法のハンマーを振り回してそれをたたき落とした。

 ユーネは次に、大地に掌をつけ、地に魔力を付加させて、大地を振動させた。振動は一直線に走り、ハクジの足下を砕いた。

 倒れたハクジの頭上に、JTはハンマーを突きつける。

「……いらぬ心配でしたね」

 トエが呟く。

「うちには10人分働く魔術師兼作戦参謀がいるからね」

 チャンスは剣を収めながら、ユーネの方を一目見る。

「なによ」

「働き者のおねーさんに敬意を払ってたんだよ」

 

 あれから作戦を立て、山賊討伐のため山に登った。夜には到着するだろうとのことだ。

 山頂に立つ大きな丸木小屋に住処を構える山賊達を、闇に乗じて火攻めにし、逃げ延びた者から各個撃破という単純な作戦だ。

 とはいえ、地の利は山賊達にあるので、下手な作戦を立てることはできなかった。

 問題はチャンスの魔法抵抗力だったが、それはユーネの魔法でチャンスの魔法抵抗力を上げることで解決した。

 山の中腹あたりに差し掛かり、一行は一息をつく。

「この辺に敵の見張りがいないか、探ってみるよ」

 あまり疲れの見えないチャンスが、偵察を申し出た。

「魔術師がいた方がよいでしょう。わたしも行きます」

 双子の姉、トエがチャンスの同行に名乗り出た。

 ふたりは腰を下ろして休む一行を離れ、周囲を探り始めた。

 上方にいくらか歩き、ユーネたちとの距離が開いた所で、トエがチャンスに話しかけた。

「チャンスさん。失礼ですが、ユーネさんというのはどういう方なのですか?」

「チャンスでいいよ。どういうってのは、これまたどーゆーこと?」

 質問を返され、トエはしばし考えに耽る。

「……ユーネさんが地面を砕いたとき、呪文を唱えませんでした」

「おかしなことなの?」

「ありえません」

 勉強を始めたとはいえ、チャンスはまだそれほど魔術に関して詳しいわけではない。

「つまりですね、魔術において呪文というのは、体内から魔力を引き出す鍵であると同時に、具現化された魔力にその形を付与するものなのです。逆に言えば、呪文がなければ魔力は発動しないし、魔力がどのように具現化されるかも分からない……」

 チャンスにはよく分からないが、何か重要な話だというのは雰囲気から察した。

「ユーネさんは、体内から無理やり魔力を引っ張り出し、自分で思うような形で発動させている……そうとしか考えられません」

「いまいち、よくわかんねえんだけどね、俺。……わっ!」

 チャンスがよろけて1本の樹に寄りかかったとき、樹上から赤い光が降り注いだ。見上げると、人の首が見えた。が、よく見るとそれは白い石膏の首で、頬に魔法文字のようなものが書かれていた。赤い光は目が発光したもののようだった。

「見張りの首!」

 トエが短く叫ぶ。

「なんだそれ?」

 チャンスは聞き返すが、なにやらよくないものだというのは分かった。

「……報せの首と一対になっている魔法の宝物です。見張りの首が侵入者を見つけ、報せの首に魔力で伝信され、主に報告させるというものです」

 それだけ言うと、トエは仲間たちのもとへ走り出した。

「ようするに、敵に見つかったってことか!」

 チャンスは見張りの首に炎の魔剣を閃かせる。頬の魔法文字が消え、見張りの首は砕け散った。

 チャンスたち5人の存在が山賊たちの知るところとなった。この段階で、敵が動いてくることは間違いない。

「後の行動は、向こうの出方によるわね。健全な山賊なら食料を手に入れた晩は宴会かしら」

 ユーネが冗談交じりに言う。パーティの作戦参謀はどんな状況においても冷静だ。それが頼もしくも、少しだけ癇に障るとチャンスは思った。

「全員送り込んでくるか。甘く見られて少数で来るか。構成はどうか。酒に酔っているか」

 ユーネがつぶやく。

「エリクシア王国軍の小隊編成と同じなら魔法戦士3人に魔術師2人の構成です。しかし、敵の構成人員から戦士2人に魔術師2人ってところですか」

 魔法戦士でもあるハクジが予測を立てる。

「4個小隊、うち1隊が幹部の隊で、少数で来るとしてもそのうち2隊が出向いてくると思います」

「その予測は確か?」

「敵に魔法戦士がいるというのなら、ちゃんと編隊を組んでくる可能性が高いですね。魔法戦士志望の学生には1年間の兵役がありますから」

「ありがとう」

 ユーネは少し考え込む。

彼女の頭には山賊など臆病者が身を寄せ合う集団だ、という認識がある。数の優位を利用して攻めてくるだろう、そう考えた。

「ユーネさん」

 トエが、熟考するユーネの思考に割り込むように話しかける。

「ユーネさんたちがこんな危機的状況でどんな選択肢を採るのか、とても興味があります」

「逃げるわ」

 ユーネは即答した。思わず顔を引きつらせてしまうトエとハクジ。

「だけど、今回は後ろに守るべき村を背負っているから、その選択肢は無しね。守らなきゃならないものが無いのなら、逃げるのは簡単なんだけど」

「ユーネさん……」

 ハクジが不安そうな顔を見せる。

「大丈夫よ、逃げないから」

 そのとき、樹の上で見張りについていたJTが叫んだ。

「山賊たちが降りてくるよ!」

「了解。数は?」

「距離を置いて何班かに分かれてる。……2、4、6……なーんだ、結局全員じゃん」

 もう少し前方にて見張りについていたチャンスも戻ってきた。

どうやら最悪の状況だった。

 しかし、このような事態は予測していたことなので、ユーネの顔には動揺の色は無い。

 ユーネは決断した。

「……作戦は単純。パーティーを私を除いて2班に分けて、敵の足並みを乱したところで挟撃。かく乱は、私がやります」

 

 宴の盛り上がりも最高潮というところで報せの首が鳴いた。『山に立ち入った者あり』と。詳細な規模などは伝えなかった。

 人に誇れない生業の割には生真面目な山賊たちは山狩りの支度をし、住処を立った。

総勢15人。揃いも揃って酒の好きな連中ばかりで、中にはぐでんぐでんに酔った者も何人かいたが、有事においては総出で事に当たるというのが山賊たちの規律にあるらしく、足のふらついた連中には肩を貸す者があった。

 勤勉な山賊たちは酔っているなりに手早く支度を終え、山狩りへ向かった。

 道中うだうだといいながら歩いていた山賊たちの中の一人が空を見上げると、そこに信じられないものを見た。

 空に輝く無数の星たちが、自分たちのすぐそばまで降りてきていた。

 それは明らかな比喩表現だが、空を包む光のかけらが無数にそこに存在しているのは確かだった。

 あたりは、まるで昼のように明るくなった。

 先に恐慌をきたしたのは魔術師たちだった。多くの場合、魔法に精通していないものは、未知の現象に対して必要以上に恐れをなしてしまうものだが、山賊の戦士たちは魔術師と徒党を組んでいるため、上空の異常を「これもなにかの魔法の一種か」くらいにしか認識しなかったため、恐慌を免れた。

 対して、魔術師たちの方だが、彼らが恐慌に陥ったのはなまじ魔法に関しての知識が盛んだったからだ。これが魔法だとして、どこの魔導書に載っているだろうか。知識に裏づけされた魔術師ならばこういうだろう。

「こんな魔法などありえない!」

 魔術師たちの動揺が伝染し、戦士たちまでもが足並みを崩した。

 誰がともなく、恐怖に耐えられず、その場に立ち尽くして叫びだした。

 それを合図に、チャンスたちが飛び出した。

 光の矢が飛び交い、氷片が舞い、魔法のハンマーが唸りをあげ、赤い魔剣が闇夜に閃いた。

 山賊たちも応戦する。動揺を隠せない魔術師たちが作った炎の玉は迷子のようにふらふらと彷徨い、風の刃は木の葉をそよがせるので精一杯だった。

 彼らはもう、チャンスたちの敵ではなかった。

 混乱の中、逃げ落ちた盗賊が1人だけいた。2人いた高位の魔術師のうちの一人だ。村長に顔を見せれば、そいつが頭領と対等の立場にあった者だと分かっただろう。まだ年若い男だった。

 魔法の星の光も届かぬ場所まで逃げ延びた。なお、木々をすり抜けて走る。走る。

 息が切れたところで立ち止まる。樹に手をかけ、体を回してもたれかかる。

 荒い息をつく中で考える。ほかの連中はどうなっただろうか。逃げ延びたものはいるだろうか。

 どう考えても、山賊の真似事は終わりだと分かったが。

 ぱきっ。

 枯れ枝を踏む音がして、男がそちらを向くと、そこにいたのは暗闇の中でもなお目立つ、薄紫色の髪をした少女、ユーネだった。

「こんばんは。あなたが最後の一人のようね。おとなしく投降していただければ嬉しいのだけれど」

 抑揚の小さい声で話すもので、男はその少女が幽霊かなにかかと一瞬思った。

 少女が一歩進みよる。

 男は覚悟を決めた。どうせ逃げたところで行く場所もない。捕まったら、斬首台に掛けられるのは目に見えている。

 男はユーネを見据え、自分の知る最高位の呪文を唱え始めた。

「……天の理、地の理――」

 彼は、生涯最後の呪文を最後まで唱えることができなかった。

 彼が先ほどまで寄りかかっていた樹から鋭い枝が伸びて、背中から喉と心臓を貫いたからだ。

 儚く短い魔術師たちの夜は、これで終わった。

 チャンスたちは盗賊たちのうち11人を拿捕した。残りは逃げて言ってしまった。しかし、肝心の首領は捕らえたので、事実上、山賊団は壊滅といっていいだろう。

 翌日の夜は、祝いの宴だった。村人たちは山賊たちに譲渡するはずだった蓄えをはき出し、この時ばかりは大いに騒いだ。

 

「チャンスさん」

 テーブルに付いて食い物という食い物を食い漁っているチャンスに、トエが話しかけた。

 チャンスの隣の席に座る。

「ありがとうございました。そしてごくろうさまでした」

「おう。お互いな」

 肉を口の中でもごもごさせながら、チャンスは返事を返した。

 しばらくの間、二人とも黙っていた。

 やがて、トエがゆっくりと口を開く。

「ユーネさんの、昨夜の魔法……」

「ああ、例のピカピカ光るだけのハッタリ魔法な」

 物問いたげなトエに、チャンスは見当違いな返答をする。

「そうではなくて、だから……あれもまた、魔導書には無い――」

「だから俺は分かんないって。それに、そういうのは本人に聞いたほうがいいんじゃねーの」

 と言って、チャンスは別のテーブルでJTと談笑しているユーネを指差す。

トエはその指差す方向を見る。すると、またしばらく黙り込んだ。

チャンスが次の肉に取り掛かろうと皿に手を掛けたとき、トエは微笑みながらつぶやいた。

「……星の魔法、奇麗でしたね」

 チャンスは歯を剥き出して笑い、こう答えた。

「うん。かっこよかったよな」

 

 

 その昔、神と魔は形の無い魔力に形を与え、世界を築く道具にしたという。

神と魔は、粘土でも捏ねるように魔力に自在に形を与えた。

神と魔は、人が魔法を使えるように、人に秘密の呪文を添えて教えた。

それを、魔術と呼んだ。

神は、人を豊かにするために、魔法を教えた。

魔は、人に混乱を与えるために、魔法を教えた。