|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|

14話


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 窓から夕陽が注ぐ。蒼豹(ツァンバオ)は壁にもたれたままゆっくりと目を閉じた。だが神経はしっかり と張り巡らしたままだ。
 ここは王宮の中心に位置する謁見の間。今日は王朝の支配下にある、西の織物の村から今期最 高級のものが出来上がったというので、代表者が献上に来たのだ。使いの手の中の布は夕陽を反射しキラキラと光っている。

「素晴らしい出来ばえだ。手触りといい光沢といい、間違いなく最高の物だ。褒めてつかわす。 褒美を与えよう。職人達をねぎらってやるがいい」

帝に代わり、月光(ユェグァン)皇子が言った。帝も目で頷くと、使者達は慇
懃に頭を下げた。
 帝の右側の星光(シングァン)皇子はというと、欠伸をかみ殺.し、右足を
椅子に隠して貧乏ゆすりを している。途中、月光皇子に横目で睨まれ注意され、一度はやめたのだがしばらくするとまた始める。 この繰り返しだ。

「陛下、両皇子殿下、本日はもう一つ贈り物がございます。」

使者が言い、扉に向かい合図した。
すると、扉がゆっくりと開き、何か大きな獣が入った檻が引かれてきた。

「これは美しい!」

月光が感嘆の声を上げた。檻の中に居るのは、堂々たる体躯の白虎だった。

「王宮へ向かう道中で捕らえました。吉兆であると考え、連れて参りまた」
「わが国では、虎は神の使い。神が、わが国の繁栄を称えられ、陛下に贈られたに違いない」

 蒼豹は壁にもたれたままぼんやりと虎を眺めていた。

『・・・・・・哀れな』

最早この虎に自由は無い。捕らえられ、一生を人に囲われて生きる。捕まりさえしなければ 自然の中で健やかに生きられたろうに。人に所有され、故郷の森を夢見ながら。ただ老いて死ぬのだ。
そんなことを考えていた矢先、蒼豹はあることに気づいた。

『・・・・・・なんだ、あの目は』

虎の瞳が、異様な色を帯びている。深い闇の中を見ているような、手で触れられそうほどの憤怒が その瞳の中で揺らめいていた。
と、同時に蒼豹のすぐ近くから、一瞬濃厚な獣の臭いがした。

『あの虎か・・・・・・?いや、違う。一体どこから・・・・・・』

蒼豹の頭の中で、ある可能性が音を立てて弾けた。蒼豹は、星光を挟んで自分の反対側にいた 紅兎(ホントゥ)に、遠耳を使って話しかけた。

『紅兎!殿下を連れて部屋から出ろ!』
『どうしたんだ?何があった?』
『詳しい話は後だ!このままでは・・・・・・』

そのときだった。突然虎が吼えた。すさまじい勢いで暴れ、檻に爪を立てる。木製の檻は虎の爪 で掻かれて悲鳴をあげた。
紅兎は、全てを察し、既に星光の元へ走っていた。星光は驚いて目を見開き、反射的に刀に手をやった。

「殿下、刀など役に立ちません!ここは危険です!今すぐご退室を!」
「わかっている!」

紅兎は、星光をさっと担ぎ上げると、出口に向けて全力で走り始めた。紅兎は、このときほど王宮の 広さを恨んだことはない。玉座から出口まで数十メートルはあるのだ。

『メリメリメリッ!』

 約10メートルほど後ろで、木製の檻が、虎に破壊された音がした。紅兎は、背中に嫌な 汗が吹き出すのを感じた。まずい・・・・・・このままでは・・・・・・。

「紅兎!俺を降ろして一人で走れ!俺は自分で走れる!」
「何を言うんです!そのアメフラシのような服で、どうやって走るんですか!」

紅兎は星光の抗議を退け、彼を担いだまま走り続けた。その間にも、盾の超人的聴力は虎の足音 をはっきりと捉えていた。間違いなくこっちへ向かって来る。

『あの虎、なぜこっちへ来る!』

逃げる者を追う本能なら、他の者を追いかけてもおかしくはない。なのに、こっちへむかって一直線に 突っ込んで来るのだ。
 虎との差はあと10メートルほどしかない。このままでは星光が危ない。星光を降ろして時間稼ぎ をしようとも考えた。だが虎が自分を狙うならいいが、星光の方に行けば自分など一撃で やられ、星光も虎の牙に倒れるだろう。だが、このままでは二人とも無事では済まない。

『一か八か、やってみるしかない』

紅兎は、星光を降ろして太刀を抜いた。

「殿下!全力で走ってください!」

紅兎は、虎に向かって太刀を構えた。もう虎は目の前にまで迫っている。
 と、そのときだった。自分と虎の間に、見覚えのある小柄な姿が割り込んで来た。

「蒼豹!」

紅兎は、その目の中に、これまでになかったほどの強い光を見た。



行 け



紅兎が再び走り出したのと、虎が丸太のような腕を蒼豹にふり下ろしたのは
ほぼ同時だった。



NEXT>>15話