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史無国 拾壱


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皇帝ジルノール3世、崩御。
リムノール中を震撼させたこの報は、デナール側の使者によって各地の諸侯に伝えられた。

デナール側は、各地に封じられている領主や諸侯に、帝都へ上ることを命令。
しかし、諸侯らは、理由は違えど答えは同じ、『拒否』であった。

ある者は、自らが皇帝になる野望を持っていたり。
ある者は、皇室への忠義を果たす為に。
ある者は、リムノールを見限り、独立した国家を築かんとするために。
これに怒ったデナールは、帝国中央軍を出動。
各地へと軍を進発させる。

手始めに、帝都サレム・ノティスのある、テル・ジ・リムノール地方北部にある城塞都市アルシを攻め落とし、ここを前線拠点とした。
デナールは、圧倒的軍事力を恃みとし、軍を三分。

一つは、テル・ジ・リムノール地方西部に位置する、ラタノール地方州都ジャコパールへ。
二つは、反対側の東部にあるテスコノール地方州都チャンスルへ。
三つは、二つ目の軍に追従し、チャンスルを陥落次第、北部にあるヤイマール地方州都クレイモンを攻め落とす為に、動き出した。

ラタノール領主である、コルノステ・ナッド・オルノディア公爵はこの報を聞き、前言を撤回して即座に降伏。
しかし、デナールはこれを許さず、コルノステは絞首刑に処された。

テスコノール領主アルマス・クォッド・ハルノーゼ公爵は、テスコノール中の軍をかき集め、帝国中央軍に対抗する。
しかし、中央軍総司令官であり、ブレウ・ドゥ・ラプテンディア(血絶の落日事件)の共謀者である、マーカス・アストリア・フラムドレインの巧みな軍略と、圧倒的兵力の前に打ち破られ、アルマスは戦死する。

そして、ヤイマール地方領主クロウン・デーチル・ファン公爵にいたっては、州都クレイモンを放棄し、東方へ逃亡中、部下に殺されてしまう。

こうしてデナールは瞬く間にリムノールの半分を掌握。
軍の整備を行い、次なる目標へと進む。
テスコノール地方チャンスルを落とした軍のうち、半数を守備においたマーカスは、そのまま軍を東方へと向ける。

即ち、次の標的。
それは、クリノール地方州都トリエストであった。


トリエスト郊外。
此処に張られた軍営に、トリエスト中から軍が集められた。
といっても、軍を置いている都市は此処、トリエストとシェルが太守を務めるデインガルド、あとは南方のトリノリーというところだけであった。
なので、数はそれほど多くはない。
総勢で、2万といったところだった。

「どんなもんだ、レイムッド」
「ティタルニアか。これは、ちょっと厳しいか……」
「向こうは、どれぐらいなもんだ?」
「チャンスル攻撃軍の公称は、35万だな」
「となると、実称は15から20万といったところか」
「半数は守備軍に残すらしいから、ここに来るのは10万前後とみていいだろうな」

二人は、軍営の中央部の本営で、軍議を行っていた。
二人でのことだから、軍議と言えるかどうかは曖昧だったが。

「しかし、2万か……」
「気を落とすな、ティタルニア。この2万は、精鋭中の精鋭だ。兵数で劣れど、兵力では劣らん。それに」
「それに?」
「トリノリーにも、まだ軍はある。ただ、あの人が来てくれるかどうかはわからんがな」
「老公様か。確か……」
「ああ、俺の、義理の父に当たる。ウィノナの父だからな」

クリノール地方南部のトリノリーは、レイムッドの義父で、妻のウィノナの父であるジェディア・アルマーズ卿が、太守を務めていた。
通称老公と呼ばれており、クォリアスと同い年で義兄弟の契りを結んだこともあるという。
ただ、如何な危急の事態であろうと、気が乗らなければ動かないその性格を読める者はいない。
したがって、今回彼が来てくれる確証を持っている者はいなかった。

「前の、ハン族だったか? 東方騎馬民族が攻めて来た時も、老公様は動いてくれなかったな」
「もしかしたら、今回も動いてくれないかもしれないな……」

二人はそう言うと、本営を出た。
外に出ると、丁度クラムディンが、地図を引っさげて、歩いているところだった。

「クラムディン、どうだ、頭の調子は?」
「まずまずといったところだね、レイムッド。総帥は、これ以上ないぐらい、働いているが」
「ランディール殿か。あの人も、本当ならばもう退官していてもおかしくはないのだがな」

ティタルニアが、外を走り回っているだろうランディールを慮る。
彼はかなり若く見えるが、実はクォリアスよりも二つほど、年上なのである。

「ともかく、少し休憩にしよう、クラムディン。こうも考えてばかりじゃ、頭の中が煮え切ってしまう」
「そうするか。本営の中に、何か飲みものはあったかな?」
「先日、シルクロード隊商から購った、唐産の高い茶があったはずだが」
「おいおい、レイムッド。あれはクォリアスがとっておいてくれと言っていた奴だろう」
「そうだったか? ならティタルニア、食糧庫から625年の葡萄酒取って来てくれ。俺が置いといたものだからな」
「分かった、レイムッド。クラムディンは、それでいいか?」
「構わないよ。付け合わせにクラッカーが欲しいかな」

ティタルニアは、右手をあげて、食糧庫の方へ向かった。
その後ろ姿を見送ると、クラムディンとレイムッドは、傍の木製机に折り畳み式の椅子を、三つ並べた。
暫くして、クラムディンがかなり年季の入った葡萄酒とクラッカーの籠を持って帰ってきた。
三人はそれを中央に置くと、しばし談笑する。
と、その時だった。

「伝令、伝令! トリエスト軍総帥レイムッド・ヴァンディール殿はいずこに?」
「ここだ、伝令。何事か?」
「ただ今、チャンスルの傍に配置してあった偵察隊から早駈けが参りました!」
「早駈けが出たのは、いつだ?」
「二日前の昼でございます!」

それを聞くと、クラムディンが持っていた地図を、机に広げる。
ティタルニアが人差指と中指を合わせて、辿って行く。

「二指5本分か。クリノールとの州境に到着するまで、5日。二日前のことだから、遅くとも三日後には州境に来る」
「そうか。伝令」
「はっ」
「直ちに軍営内に触れを出せ。二日後明朝、ここを発つ、と」
「畏まりました!」

伝令はきちっと姿勢を正し、そして駆け去っていく。
四分の一刻せぬうちに、軍営内があわただしくなってくる。
西の方では騎馬隊が原野に出て、最後の調練を施し始めた。

「いよいよ、戦争か。戦場はどのあたりだ?」
「荒地があり、出来るだけ隘路になっている場所だな」
「そうだな。こっちはそれほど騎馬隊がいないから、向こうの騎馬隊を封殺.せねばならん」
「州境付近でとなると……」

クラムディンが、人差し指で一か所を指す。

「グラムドロヌス」
「『堕.落の荒野』か」
「ここを超えられると、不味い」
「大丈夫だ。向こうからここを通るとなると、相当時間がかかる。それにトリエストからグラムドロヌスへは、半日でつく」

ティタルニアはそう言った。
三人は小さく頷くと、それぞれの幕舎へと解散した。



二日後、明朝。
トリエスト軍は、州境にあるグラムドロヌスへと進軍を開始した。

「寒気がするほどの、見事な朝焼けだな」

レイムッドは、中軍あたりで自分の馬に乗って、そう呟いた。
傍にいた兵が、恐る恐る聞く。

「あの……総帥?」
「なんだ?」
「我々は、勝てるんでしょうか」

レイムッドは、小さく微笑み、言った。

「勝てるさ。そう、信じている限り、な」

その兵は、喜色を浮かべ、そして力強く歩きだした。
レイムッドは、一抹の不安は感じながらも、さっきの自分の言葉に嘘はない、と思った。