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史無国 拾


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公爵邸の大広間に、ティタルニア、レイムッド、クラムディンをはじめとする、公爵の重臣らが集まった。
そして、椅子に座ったクォリアスの前に、使者は立ち、勅書を広げる。

「勅命である。リムノール地方トリエスト領主クォルステイン・クオンクハイル公爵に申し渡す」

使者が、公爵に対する態度とは思えない傲慢な口調で、言った。

「直ちに帝都サレム・ノティスへと上り、即位式に参加せよ」
「即位式、と、貴公は言ったか?」
「然り」
「これは奇なことをおっしゃるの。陛下の即位式は、7年前に行われたはずではないか、の?」

クォリアスが、そう言った。
確かに、かの陰惨たる『パリス・ド・クリミエーネ』が終結し、セルノース・ギール・リムノールが31代皇帝に就いたのが、7年前である。

セルノース、すなわちジルノール3世は、『パリス・ド・クリミエーネ』をクォリアスの力で切り抜けたといってもよかった。
というのも、セルノースには後ろ盾と言えるものはなく、以前から親しくしていたクォリアスのトリエストへ駆け込んできたのである。

クォリアスも、かねてより可愛がっていたセルノースが困っていると見て、つい手助けをしてしまった。
しかし結果的にセルノースは生き延び、皇帝の位につくことになったのである。
クォリアスは、宰相になってほしいと頼まれ、2年ほど宰相を務めた。
この時のクォリアスの手腕は素晴らしく、『国政の鬼神、外交の修羅』の所以だという。

クォリアスはリムノールの内部が再生したと見るや、ただちに辞職してトリエストへと帰ったらしい。
何かがあったともいうが、詳しい事はわからずじまいであった。

使者はそのクォリアスの言葉を聞くと、嗤った。
哄笑、いや嘲笑といってよかった。

「貴公の言う陛下とは、ジルノール3世のことであるかな?」
「他に、陛下と呼べるものは居らぬであろう? 大唐帝国の皇帝のことを指すなら、話は別じゃがの」
「く……くっはっはは!」

またしても、使者は嗤った。
そして、信じられないようなことを、言った。

「ジルノール3世は、そのご家族とともに、原因不明の大火でお亡くなりになられましたぞ? いまや、陛下と呼べるのは我らが主であるデナール様であらせられる」
「デナール……? まさか、タルワーリア家の餓鬼、かの……?」
「貴様ッ!」

使者が、勅書を床にたたきつけながら怒鳴る。
相手は、公爵である。
本来なら、斬り殺されても、文句を言えない粗相振りであった。

「皇族の血を引く公爵というだけの、辺境の田舎領主が。
我らが主のことを呼び捨てにするだけでなく、冒涜するとはどういう了見だ!」
「貴公にとっては主で在れど、わしにとっては、何でもない只の皇族じゃでの」
「貴様……!」

使者はわなわなとふるえながら、顔を赤くしている。
対するクォリアスは、涼しい顔をして、何の事でもないようにしていた。
が、クォリアスよりも、使者よりも、早く堪忍袋の緒が切れた者がいた。。

「……クォリアスゥ! 俺は、もう……我慢ならんぞっ!」
「待て、ティタルニア……!」
「放せ、レイムッド! 俺たちの、ただ一人の主が冒涜されてい居るのだぞ……!」

ティタルニアが、その腰に佩いていた剣を抜き放って、使者に向かおうとしていた。
それをレイムッドが何とかして押しとどめていた。
だが、その怒気は凄まじく、使者は腰を抜かしていた。

「きききき、貴様……! わわわ、私が誰が、分かっていいい居るのか!? 私は、ここ皇帝の使者ぞ!?」
「知ったことあるか、そんな事……俺の主を冒涜して、生きていられると思うなよ!」
「貴様、ししし、使者には向かうとは、皇帝に刃を向けるのと、ひひひ等しい事ぞ!?」
「使者何ぞどうでもいい、今すぐ貴様を『死者』にしてくれるわ!」

洒落にならない洒落を飛ばしながら、ティタルニアは使者ににじり寄る。
と、大広間に凄まじい怒鳴り声が飛んだ。

「ティタルニアァ! 今すぐ、鎮まれぇぇぃ!」
「……!」

大広間が、凍りついた。
暫くの静寂の後、放心したかのようにティタルニアは、レイムッドに促されて自分の位置に戻った。
ティタルニアが戻ったとみて、使者は再び立ち上がり、幾分か脅えたように、クォリアスにいう。

「……それで、公爵。勅書に従うか否か、答えて貰おう」
「一つ聞く。セルノース、いやジルノール3世陛下は、本当にご存命でないのじゃな?」
「そうだ。不運なことに、『事故』であった」

使者は、怯えながらも邪悪な笑みを浮かべた。
ティタルニアが睨むと、すぐに俯く。
クォリアスは、ため息をついて言った。

「そうか、あい分かった」
「では、直ちに進発してもらおう。供も護衛も無し、貴公単身でな」

使者はまた邪悪に口を歪めながらいう。
だが、クォリアスは言った。

「誰が、此処を発つと言ったのじゃ? わしは、陛下が亡くなられたことに分かったと言ったのじゃ」
「……では、勅令はどうすると?」
「無論、突っぱねるの。嫡流の血筋ではない者に、従う筋合いはないのじゃ。
貴公は、貴公の主と認めたデナール卿と、お国ごっこでもしているのじゃな」
「……そうか。では、貴公らは帝国に反旗を翻すと、そう取ってもいいのだな」
「栄誉あるリムノール帝国は、ジルノール3世の……セルノースの死で、終わったのじゃ。今あるのは、リムノールに限りなく似た、違う国じゃ」

クォリアスは、微笑んだ。
どこか寂しそうな、微笑みだった。
だが、使者は構わず言った。

「よいだろう。だが、ひとつだけ忠告しておいてやろう」

使者は、この日一番の、邪悪な笑みを浮かべた。
それこそ、ティタルニアに睨まれたところで、止めないぐらいのものを。

「帝国を敵に回したのだ。中央軍を敵に回すことにもなるのだ。そして……」
「そして、とな?」

クォリアスが、聞き返した。
使者は、踵を返しながら言う。

「もう一つ……『リンドブルム』もな」

一瞬で静寂に包まれた大広間を、使者はさも満足そうに、去って行った。