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史無国 六


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史無国 六



三ヶ月後。
トリエストより凡そ50km離れた山中で、動く一隊が居た。
エルムッド以下、新設部隊であった。

「山の中で生活を始めて、そろそろ三か月ってとこか?」
「……正確な日数は分からない。ただ、大分鍛えられたとは思う」

セリックとエルムッドは一つ突き出た岩の上に座りながら話していた。
目下ではイースが食事準備の指揮を執っている。
ダナン、ネアはと言うと、山中に仕掛けた罠を回収したり、はたまた調練を兼ねての狩りを行っていたりした。
二人のお陰で、この三か月食料が尽きたことはなかった。

「エルム……ああ、隊長。食事の準備が終わりましたぜ」
「……ご苦労、イース。ダナンらの帰りを待っていろ、どのみち何か捕ってきているだろう」
「分かりました」

再びイースは兵の指揮へ戻った。

「なあ、エル」
「なんだ、セリック」
「俺らの兵、強いのかね」
「……さあな。ともかく、明日にはトリエストへ向けて帰還だ。その後、模擬戦をするらしい」
「テレシスは、今頃どうなっているのかね?」
「……フェルノリア卿が、絞り上げてるだろう」
「だな。まあ、俺らは帰った後に、総帥と親父に締め上げられるだろうがな」

セリックが笑う。
それにつられて、思わずエルムッドも笑いだした。

「何がおかしいんだよ?」
「……いや、お前が父さんのことを総帥と言ったからさ」
「? 何がおかしいんだ」
「セリックが、そんな敬称を使うとは、思ってもみなかった」
「エル、お前、失礼だな」
「……はっはっは、かもしれんな」

と、奥の方から喧騒が聞こえてきた。
どうやらダナン達が帰って来たらしい。
遠目に見えるが、どうやら猪が何頭かいるようだ。
ダナンはそれをイースに引き渡した。
即座にイースは兵を呼び、血抜きをしている。

「そろそろ、飯が食えるかもな」
「……そうだな。そろそろ、降りて俺たちも手伝うか」
「だな」

エルムッドとセリックは、岩から飛び降りた。
4-5mはあっただろうが、二人は難なく着地すると、兵達の方へ歩いて行った。
イースが怒号を飛ばしながら、指示を出しているのが聞こえた。
微かに、肉が焼ける、香ばしい匂いが漂っていた。



城楼から、辺りを見回した。
見える範囲では、特に異常はなかった。

「平和だな、今は」

男は、呟いた。
と、城楼の方へやってくる人影を認めた。
その人影は、一直線に男の許へやってきた。

「また、軍議を抜けだしたか、シェル」
「アドルフか。ジェリノール卿だったら、とっとと逃げ出すところだよ」
「ジェリノール将軍は、お前が居なくなった軍議の席で、他の将軍とちゃんとやってるぜ」
「あの人の性格はともかく、まとめる手腕は凄いからね。いっそこの城郭も、彼に任せた方がいいんじゃないのかな」

そう言った。
アドルフは苦笑しながら、いい加減帰るぞ、と一言言って軍営の方へと足を向ける。
シェルは、頭を掻きながら、その後を追った。
軍営に入り、軍議の行われている部屋に入ったとたん、怒号が飛んだ。

「シェイリル殿、どこへ行き晒しておったのですか!?」
「済みません、ジェリノール卿。ちょっと、城楼の方へ……」
「シェイリル殿は、公爵様の世継なのですぞ? もっとしっかりしてもらわねば、目付役の私が叱られてしまいまする」
「以後、気をつけますよ、ジェリノール卿」

そう言って、シェルは軍議の席の一番奥、すなわち総帥の席に座った。
アドルフはその隣に座った。

「あー、それでは、諸卿方、軍議の方を再開します……」

ジェリノール卿が、軍議の指揮を執って再開した。
結局、終始そのまま軍議は進み、セルが帰ってきた意味はほとんどなかった。

「なあ、アドルフ」
「なんだ?」

軍議が終わった後、シェルはアドルフに訊いた。

「俺が居た意味って、あったのかい?」
「あったさ。普段ならもう数時間かかった所を、二時間でまとめ上げたんだ」
「だが、指揮を執ってたのはジェリノール卿だ。俺じゃないよ」
「それが、お前の才能なんだ、シェル。人を活発に動かす気にさせる、って言うな」
「……まるで俺が、いるだけのウドの大木のように聞こえるよ」

シェルは、少し目を伏せた。
アドルフはそれを見て、笑い飛ばした。

「ハッハッハ、確かにシェル。お前は突出した才能はないな。武芸も、知謀も、政治も。
お前はそれらに長じているが、突出してはいない」
「……」
「だが、お前は人を遣う力に長けてる。公爵様には、ない力だよ」
「……これでも、武芸は、ちょっとは自信があったんだがなぁ」

シェルは少し落ち込んだ。
かつて、ティタルニア、つまり、アドルフとセリックの父にかなり厳しい稽古をつけてもらっていた。
そのおかげで、帝都サレム・ノティスの士官学校を首席で卒業できたと言っても過言ではなかった。

「それでも、お前の武芸は、俺や親父、セリックに比べるとやっぱり劣る。ま、十分すぎるほどにはあるんだがね」

アドルフは笑った。
シェルは少し、複雑な気分になったものの、ない物ねだりは意味がない、と思い定めた。
其の時だった。

「デインガルド太守、シェイリル・クオンクハイル公爵子息殿は、何処で在るか?」
「シェイリル・クオンクハイルは、此処に」

白い服を着た男が、入ってきた。
と、その服には見覚えがあった。
トリエスト公爵からの、緊急伝令の使者の服である。

「もしや、父に何かあったのか?」
「いえ、トリエスト公より参集の命に。
『直ちにトリエストまで来られたし。直、兵500を率いて参ぜよ』とのこと」
「敵の侵攻でも、あったのか?」
「模擬戦の、相手をせよ、とのことに。
相手は、トリエスト軍総帥レイムッド・ヴァンディール卿が第一子息、下級将校エルムッド・ヴァンディールら新設部隊300である」
「エルムッド、か。相分かった、と父に伝えてくれ」
「承った。私はこれにて失礼致す」

使者は、颯爽と軍営から出て行った。
ふと振り返った先に、アドルフの不敵な笑みがあった。

「ようやく、あいつらも軍に入ったか。楽しみだな」
「そうだな……確か、もう一年ほど前になるね」
「エルムッドが、ここに留学して居たんだったな」
「もう、一年も経つんだね……」
「奴ら、成長してるぜ、きっと」
「たぶん、いつもの三人組だろうね、相手は」

シェルは、ふっと笑った。
かつて帝都の士官学校に行く前、トリエストに居たころはエルムッド達の兄貴分だったのだ。
懐かしい思い出が、こみあげてきた。
同時に、悪戯心と言うか、困らせてやりたい、という気持ちも湧きあがってきた。

「アドルフ」
「シェル」
「……考えてることは、同じかな」
「だな」
「少し、懲らしめてやろうかな?」
「少し? 何を言っている、シェル。お前らしくもない」
「?」
「奴らにゃ、散々手を焼かされたからな。『かなり』懲らしめてやろう」
「……っく、はは!」
「何がおかしい、シェル?」
「いや、アドルフらしいよ、全く」

シェルはひとしきり大笑いした。
そして、ふとつぶやいた。

「……勝ちたいな」
「何か、言ったか?」
「いや、何でもないよ。さ、準備しようか」
「そうだな。俺は、兵の選抜をしてくる」
「頼んだよ、アドルフ」

そう言ってアドルフは、兵舎の方へ歩いて行った。
その後ろ姿を見ながら、シェルはもう一度、呟いた。

「……勝ちたい、な」

その呟きは、空気に溶けて霧散し、誰の耳にはいる事はなかった。