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史無国 参


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史無国 参


その後、エルムッドらはレイムッドらと解散した。
どうやらこの後、軍議を行うらしい。
テレシスが何についてかを聞こうとしたが、クラムディンは答えてくれなかった。

「そのうち分かるよ、テレシス」

そう言い残して、三人は公爵邸から西にある軍営に向かった。

「エルムッド、この後どうするよ?」
「……ん、どうもしない。とリあえず、家にでも帰るかな」
「そうだね、私もいったん帰る事にするよ。同じ部隊に配属されるといいね」
「あぁ? なに言ってんだテレシス。お前は『公爵の智嚢』に配属だろうが」

『公爵の智嚢』とは、公爵直属の軍師集団である。
テレシスの父親であるクラムディンは、そこの副帥であった。
総帥の名は、三人は知らなかった。

「でもさ、公爵様の軍って、基本的に軍長・副長・参軍でなってるでしょ」
「ああ。それがどうかしたか?」

セリックに言われ、テレシスは言う。

「いや、普段は『公爵の智嚢』に居るけどさ。でも、『智嚢』の人たちも、戦時の時には専属の軍が割り当てられていると思うんだ」
「へぇ、そりゃ、初耳だ。だけど、道理だな」

セリックは感心する。
エルムッドはと言うと、また空を仰いで呆けていた。

「……ともかくさ。公爵様はきっと、相性とかも考える人だと思うんだ」
「俺かエルが軍長・副長で、テレシスが参軍、ってことか」
「ご明察」

テレシスが笑いながら言う。

「重臣の子って言っても、新米だからな」
「部隊を与えられるのは、まだ先だね」
「……いや」

エルムッドが、不意に口を開いた。

「どうした、エル?」
「……たぶん、次の沙汰で、俺達は部隊を与えられる」
「どういう事だい?」
「……勘、だ」

エルムッドが言った。
まさにばかげた理由だった。

「ま、お前が言うんならそうなんだろう」

しかし、二人はそれを信用した。

「だね。なんて言ったって、エルの勘は外れたことがないからね」

セリックとテレシスが笑う。
エルムッドも、それに少し笑みを浮かべた。

「じゃ、今日はこの辺で解散にするかい?」
「そうだな。んじゃ、テレシス、エル。また明日な」
「……じゃあ、な」

そう言って、エルムッドは二人と別れた。



暫く馬を疾駆させた。
いつも、呆ける丘が見えてきた。
エルムッドはこの丘がたまらなく好きだった。
何故かはわからないが、ここならよく風と会話できた。

「……特に今日は何もないみたいだな」

無論、本当に会話するわけではない。
ただ、何となくそう感じるだけだった。
風が、それを運んでくると、エルムッドは思っていた。

二時間、丘の上で呆けていた。
自邸に帰る頃には、日は沈んでいた。
夕飯の時間はとっくに過ぎていた。
エルムッドは、そろりと自邸の扉を開けた。

「兄さ――」

パタン。

「……幻覚か」

エルムッドは扉を開ける。

「兄――」

パタン。

「……三度目の正直だ。それを信じよう」

エルムッドは、扉を開けた。
刹那、棒がエルムッドに襲い掛かってきた。
エルムッドはそれをよける。
そのまま体を屈め、避け様に棒を掴みながら懐へと潜り込んだ。

「……何の真似だ、レイノナ」
「兄さんが悪いんでしょう! もうとっくに夕飯の時間は過ぎてるの!」
「……だからって、いきなり棒はないだろうが。お前の槍術は、真面目に喰らうと洒落にならん」
「じゃあなんで二回も開けて、閉じたの?」
「……幻覚を見た気がし」

言い終わらないうちに、レイノナの棒が再び繰り出された。
エルムッドはそれを見切り、紙一重で躱わすと、手刀で薙いだ。
急に素早い打撃を受けたレイノナは、衝撃で手がしびれたのか、棒を取り落とした。

「……甘いな。それでも、槍なら俺は負けるかもしれんが」
「半分奇襲で、負けた。兄さんは、やっぱり強いわ」

レイノナは、笑った。
と、同時に奥の方から少年が一人走ってくる。

「一体何を騒いでるんです?」
「……レイアンか。いや、特にどうと言うわけじゃ……」
「レイアン! 兄さんったら、またご飯の時間をすっぽかして帰って来たのよ?」
「……大体理解しました、はは……」

レイアンは呆れたように言った。

「ともかく、兄上も姉上も、早く来て下さい。ご飯が冷めちゃいますよ」
「……今出来上がったばっかりなのか?」
「呆けてるだろうと、母上が遅く作り始めたのですよ、兄上」

そう言うと、レイアンは奥へと入って行った。
エルムッドとレイノナもそれに続く。
居間に入ると、たった今出来上がったばかりのように料理が並んでいた。
キッチンには、エプロン姿の女性が、丁度エプロンを取り外そうか、と言う時だった。

「御帰りなさい、エルムッド」
「……悪い、母さん。ちょっと呆けてた」
「ふふ、分かっていますよ、エルムッド。このウィノナ、貴方の母を19年務めてますからね。なんでもお見通しです」

ウィノナは微笑みながら言った。
どうもエルムッドはこの微笑みを受けると、背中がかゆくなる。
この包まれるような感覚を受け入れたい、という素直さと、恥ずかしいという思いが交錯しているようだった。

「ところで兄上。今日は公爵様の所でどんな話をされてきたのです?」
「……任官がどうの、という話だったな」
「任官? 兄さんすごいじゃない!」
「……父さんの伝手だろう」
「いいえ、それは違いますよ」

ウィノナが口を開いた。

「あの人は、息子だからと言って過大評価はしません。むしろ厳しいのです。
そんなあの人が認めたと言う事は、エルムッド。貴方は力が有ると言う事なのです」
「……呆ける事しかできんよ、俺は」

そう言うとエルムッドは、椅子に座って食事に手を付け始めた。

「あ、兄さん! せっかく待っていたのに、先に食べるなんてひどいじゃない!」
「……冷める」
「……怒っていいかな、兄上」
「……体に堪えるぞ、レイアン」
「ふふ……」

兄弟喧嘩を繰り広げる子供達を、ウィノナは優しい目で見ていた。