真夜中を少し過ぎた頃、星光(シングァン)皇子は、近衛兵姿の紅兎
(ホントゥ)を連れある場所へ向かっていた。美しい月の光は二人に優しく降
り注ぎ、その姿を淡く浮かび上がらせている。
少し歩くと、今回の目的地に到達した。王宮の東側、やや大型の石造りの建
物は闇夜に不気味にそびえ立っている。星光は、ここに来る度思う。
全くぴったりの外観だ、と。
正規の入り口は使わず、裏口に回る。今回の事は、この部署の中でも一握り
の者しか知らない極秘事項なのだ。眠そうに欠伸をしていた二人の見張りは、
星光の姿を認めると、さっと姿勢を正し、わけ知り顔で扉を開けた。念のため
自分の息のかかった部下を配置しておいたのだ。
星光は中に入ると、長い廊下を渡り、階段をいくつか上がると、ある扉の前
で止まった。取っ手に手をかけ、ゆっくりと手前に引くとキィ、と小さな音を
立てて手前に開いた。
「殿下、お待ちしておりました」中には髭面の中年男が一人居て、星光が中に
入るとさっと礼をした。
「長官、奴は尋問中か?」星光が問うと、男は頷いて答えた。「えぇ。ご案内
致します」「頼む」
男は地下室の階段を降り、星光を地下室の一つに連れて来た。木製の廊下で
壁には蝋燭が揺らめいている。中に入ると、二人の役人らしき男と、椅子に縛
り付けられた男が居た。部屋の床には血糊が飛び散っており、男は苦しそうに
荒い息を吐いている。
「こいつか?」星光が問うと、中に居た役人の一人が答えた。「はい。もう五
日目になりますが、一切口を割りません」
星光は頷くと、中に居た役人二人に言った。「席を外せ。紅兎のみ残れ」
「承服出来かねます!罪人と殿下を残して行くなど・・・・・・もしものことがあっ
たら」「紅兎は優秀な近衛兵だ。もしもは無い」「しかし・・・・・・」二人はなお
も食い下がろうとしたが、星光に睨まれ仕方なく引き下がり、部屋を出て行っ
た。
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